【第20話】凸凹コンビ誕生
キングオーク討伐から数日が経過した。
今回のキングオークの討伐において、冒険者の死者数は、左翼30人、中央20人、右翼0人という結果になった。
左翼は、オークに押し切られ陣形が崩壊したことにより、低ランク冒険者を中心に戦場で命を散らした。中央は1番の激戦区だったが、高ランク冒険者が多かったので、この数に留まり。右翼においては、ノワールローゼ、イノセントロンド、シンフォニアの活躍により、死者0人という快挙を成し遂げる。
そして、今回最大の功労者として、全体の指揮を執り、中央で耐えきったマクベス。キング及びクイーンを討伐した、ガノンとヒューが選ばれた。
功労者には、全体報酬とは別に報酬が支払われる。
その後、冒険者ギルドの諜報員が調べた結果、今回の騒動には【シャンドゥシャス】が関わっていることが判明した。ジースの失踪に続き、ベンの失踪、そして、最近のベンの怪しい行動によって、関与していることは、間違いないという判断だ。
それにより、【シャンドゥシャス】のクランランクが降格した。降格前の【シャンドゥシャス】はCランクであり、クランランクはCから上しか存在しないため、クランが解散となった。
そして、ヒューは今、冒険者ギルドのギルドマスターの部屋に呼び出されていた。
「さあ、まずはソファーに座ってくれ」
促されソファーに腰を下ろす。座ったことを確認したギルドマスターは要件を話し始めた。
「まずは今回、街を守ってくれた件についてだ、代表して感謝する」
そう言って頭を下げるギルドマスター。
「みんなのサポートがあったからです」
「それでも、快挙なことなんだよ」
微笑みを浮かべ、ヒューを見る。ヒューは少し照れくさそうに頬を掻く。
「それで、だ。今回、君は魔法を使用しキングオークを討伐した。間違いないね?」
どこまで言おうか考え込む、ここで言いすぎて、面倒なことになっても困るからだ。この国は魔法主義で考えられている。そんな中、ヒューが生み出したものは果たして受け入れられるのか。貴族や権力者が知ってしまったらどうなるのか、不確かな要素が多すぎる。
仲のいいメンバーに関して言うと、概要程度は教えてあるが、詳細な説明はしていない。説明したところで伝わるかどうかもあるが、あまり知りすぎていたら、自分が狙われた際に、その人物にも、魔の手が伸びる可能性があるためだ。
「そうですね」
「だが、ギルドに登録されている情報では、君は生活魔法しか使えないことになっている」
「それで間違いはありません」
「では、キングオークを葬った爆発魔法、これは何だい?」
ギルドマスターは鋭い眼光でヒューの目を見つめる。
「生活魔法って言ったら信じてもらえます?」
「それを信じる人間は、どこにも居ないだろう」
「魔法ではなく【気】って言ったら?」
「気か、しかし、それでも納得できないね。気については、君も詳しいんだろ?」
「習ってますから、分かりますよ」
「ならば、あんな事が出来ないのは分かるね?」
「常識的には、そうです」
「はぁ、素直に教えてくれる気はなさそうだね」
そう言って困った顔をして、呼び鈴を鳴らす。しばらくすると、ギルド職員がやってきた。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、お茶を頼めるかな? 今彼と重要な話をしている。もう少し時間が掛かりそうだから、今のうちに持ってきてもらおうと思ってね」
「かしこまりました」
そう言って出ていく職員。
「さあ、ここからが本題だ」
そして再び、ヒューに向き直るギルドマスター。
「君の能力、その能力をギルドは全面的に隠すことに協力する」
「なるほど、こちらにとっては嬉しい話ですが。そちらのメリットは何なんですか?」
「メリットか」
そう言って椅子から立ち上がるギルドマスター。ヒューに背を向けて、窓に近づきブラインドを下げた。
「メリットの話をする前に、今回のスタンピードの話をしなければならない」
そのまま、体をこちらに向け話し始める。
「実は、今回のスタンピードは裏で糸を引いている者がいた。そして、その背後には、巨大な裏組織が存在していると考えられる。」
「組織ですか。」
「他の街でも同様の事が起こっているんだ。それで、今回この街を襲ったスタンピードに、ある冒険者が関与していた。どの程度、深い所まで関わってるかは、分からないがね」
「なるほど」
「そこでだ」
急に、ヒューに近寄るギルドマスター。
「君に、今回の件に絡んだ冒険者の調査を行ってほしい。失踪した冒険者及び、この件に関わった、他の冒険者がいないか調査してくれ」
「それは、良いのですが。しかし、なぜ自分なんです?」
「理由はいくつかある」
ギルドマスターの話した理由はこうだった。
1つ目は、冒険者達に、いい意味でなめられていること。今まで【シャンドゥシャス】の荷物持ちとして認識されているヒューは、他の冒険者からしてみれば、可哀想な坊やであり、脅威になりえない。今回のキングオーク討伐も、ほとんどがガノンの功績と思われており、実際あった爆発も、クイーンの放った魔法などと思われている節がある。
2つ目に、確かな実力があること、これはイノセントロンドのメンバーと、ガノンに確認を取っている。メンバーとガノンは、詳しいことは本人に聞けと言って、能力について、詳細は話さなかったらしい。
3つ目は、単純に調査をしていても怪しくないためだ、固定のパーティを組んでいないヒューは、どこのパーティに入ってもおかしくはない。普通は同じクラン内のパーティに入るが、他のクランのパーティに参加する冒険者も少なくはない。
以上の事から選ばれたらしい。
「なるほど、理解しました」
「そこで、1人では何かと不便だと思ってパートナーを用意した」
そう言って、席を立ち、退室する。
しばらくして、自分でお茶を持って帰ってきたギルドマスター。
「まったく、お茶を忘れてるなんてひどいな。嫌われてるのかな」
独りごちりながら部屋に入るが、その後ろには誰かいる。
「君も、入ってきたまえ」
入室を促されて、入ってきたのは、ガノンだった。
「ガノンじゃないか」
「ああ、久しいな」
ギルドマスターが机の反対側。ガノンとヒューが手前側のソファーに腰掛ける。お茶を飲んで、一息ついたギルドマスターは、再び話し始めた。
「紹介しよう、パートナーのガノンだ」
「知らないやつを紹介されるのかと思ってました」
「知らないよりは、知っている人物の方がいいだろう? それに能力も彼に見せているようだし」
「そういうことなら。よろしくな、ガノン」
「よろしく頼む」
「というわけで、この話は終わりだけど、何か質問はあるかな?」
「ええと、具体的にどういう風に、俺の能力を隠してくれるんですか?」
「この話にガノンが居ても構わないかい?」
「構いません」
「了解、では具体的に話すよ」
ギルドマスターの話したものをまとめると。ヒューの能力を知っている人間は数えるほどしかいない。ということは知らない人間には、魔法を使っていると思わせればよい。しかし問題はある、魔法の実力者には、ヒューのオーラボールに、魔力がほとんど籠ってないことがバレてしまうのだ。
「以上だ、その辺は注意してくれ」
「分かりました」
「では、これからよろしく頼む」
そう言って右手を差し出すギルドマスター。それに倣ってヒューも右手を差し出す。
「そうだ、名前を教えておくよ、私の名前はエルヴァンだ」
話も終わったので、ギルドを後にする2人。ガノンと話すのはキングオークとの戦い以来だ。
「怪我はもういいのか?」
「問題ない」
「そうか、良かった」
ガノンは無口だ。
「もしかして、今回の事件関わってたのってハゲ?」
「そうだ」
「お前の所のクランメンバーだろ、大丈夫だったのか?」
「クランは解散になった」
「マジか、ドンマイ」
「あまり気にしてない」
「そうか」
そんなこんなで、コンビになった2人。
果たして、この凹凸コンビは、しっかりと仕事をこなす事が出来るのか。
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