【第21話】おっぱいの調査

ヒューは森の中にいた。ゴブリン討伐クエストの最中である。


そして傍らには、オレンジ色の髪をした女と、青色の髪をした男がいる。名前はそれぞれ、エーサとビオ。この二人は、数クエストだけ一緒にこなす即席のパーティメンバーだ。普段は、ヒューの代わりに、もう1人の男を加えた3人で組んでいる。


しかし、その男が前のクエスト中に負傷し、現在療養中のため、ヒューが代わりに入ったのだ。ちなみに、皆Fランクである。


このパーティの雰囲気は悪くなく、気兼ねなく話せるようになった頃。ヒューは、それとなく情報を収集する。早速、エルヴァンから頼まれているミッションを遂行しているのだ。いくつものパーティーと日替わりで組んでいる。

その際に、注意すべきなのは「こいつ何か探ってやがるな」と、怪しまれないことだ。急に不審な情報を聞くのではなく、どうでもいいような話を自ら話し、相手にも、話してもらうようにする。


ちなみに、ヒューの能力については、今のところバレる心配はない。2人は現在、冒険者ランクがFなので、受注出来るクエスト的に、モンスターランクが低い。よって、オーラボールを使用しなくてもオーラアーマーだけで何とかなるので、バレる危険性が低いのだ。


オーラアーマーに関しては、気を厚く張るほど防御力が上がるため、厚く張っていたら見た目でバレるのではないか、と思うかも知れない。しかしこのランク帯のモンスター相手には、そこまで厚く張る必要がない。そして、魔法の鎧として、ふるまえば厚く張っていても問題はない。


次に、オーラボールはダメで、オーラアーマーを使っても大丈夫な理由を説明する。オーラボールは、普通の魔法と比べた際に、見た目と威力のバランスが伴わないため、低ランク冒険者にもバレやすい。一方、オーラアーマーは、見た目で判別しづらく、ヒューと上級冒険者が直接戦闘を行い、アーマーに触れて、おかしな感触などに気づかなけらば、バレる心配が少ないのだ。


そんなこんなで、情報を聞き出しながら、森の中を進んでいくと、3匹のゴブリンが現れる。それを、狩っていく3人。ヒューは足に気を集中させ、素早く移動し、剣術でダメージを与えていく。他の2人は、ビオが剣、エーサが魔法でそれぞれ攻撃を加えていく。ゴブリンを危なげなく狩ることに成功し、街に帰還する一行。


ビオの言動や行動から、エーサの事を好きなのは分かったが。今回は、特にこれといった情報は無かった。


相棒のガノンについてだが、【シャンドゥシャス】関係を調べてもらっている。今回の件に、ダブルハゲが関わっている事は、ほぼ間違いないので、失踪前の人間関係を洗ったり、失踪後の足取りを調査中だ。


そして、クエストから帰還したヒューは、ギルドで報酬を受け取り、足早にどこかに向かう。向かった場所は、ギルドが用意した会員制のレストランだ。食事スペースは防音の個室になっており、密談などに向いている。


足早に、店のある東地区に向かう。店に着き中に入ると、スーツのような恰好をした店員が出迎えた。


「いらっしゃいませ、当店は会員制となっております、カードはお持ちですか?」


そう言われ、ヒューはギルドで渡された会員カードを見せる。


「確認が取れました、それではご案内いたします」


カードを確認すると、奥の食事スペースに通された。


店員が扉を開き中に入る。部屋の中には、4人掛けのテーブルと、4つの椅子が並べられていた。そして椅子の1つにガノンが座っている。ガノンの対面に座り、早速話を始めるヒュー。


「さて、情報を交換しよう。まず、こちらからだが」


ここ最近で色々なパーティに入って、噂話などを聞いたヒューだが。その中で気になる情報が3つあった。


1つ目は、皆が寝静まった深夜に、街中を移動する仮面の男だ。この証言は、ある冒険者が、別の冒険者に聞いた話なので信憑性は薄い。しかも、酒を飲みすぎて酔っぱらって、路上で寝てしまっており。尿意を催し、起きたタイミングで、偶然見かけたらしく、本当に見たのか、夢だったのか分からないそうだ。この証言が正しいのならば、夜中にコソコソ動く仮面の男、確かに怪しい。


2つ目は、森に入ると何者かの視線を感じるという話だ、この話は、全員の冒険者が言っているわけではなく、ごく一部の冒険者が言っている。今回のオークの件は森に何かを仕掛け、人為的にスタンピードを起こした可能性もあるため、関係してるかもしれない。


3つ目は、よく分からん宗教の話だ、邪神を祀るだとかんなとか、その冒険者も詳しくは知らなった。どこで聞いたかさえも、覚えてないそうだ。まあ、宗教問題ならこの件と結び付けて考えられそうだ。特に邪神を信仰してるなら、人間を生贄にして邪神復活。なんてことが、あるかもしれない。


「俺の方はこんなところだが、そちらはどうだ?」


「こちらは、ベンについて調べた」


ガノンの話はこうだ。

まず、なぜベンに着目したかだが、ハゲ2人が関わっている可能性は高く、その場合の関係性は、ジースがベンを兄貴と慕っていた所からも。ベンから、ジースへ何かしらの指示があったと予測できる。


なので、ジースを調べても、ろくな情報は出てこないと考え、ベンを中心に調査を行ったようだ。


そして、ベンを調査した結果分かったことが2つあった。


1つ目は、ベンが入れ込んでいた女がおり、その女なら、何か知っているかもしれないということだ。


2つ目は、最近ベンは夜中に出かけ、誰かと頻繁に会っていたらしい。女に会いに行く時とは、雰囲気が違っていたらしいので、ベンが会っていたのは、先ほどの女以外の者だろうと推測できる。


ヒューもギルドも、黒幕はもっと後ろに存在していると考えている。つまり。何らかの組織からベンへ指示がきて、そこからジースへ指示が行ったと思われる。


「なるほど、この情報を踏まえてこれからの行動を決めよう」

それぞれが出した情報をもとに、どう動くのかを決定した。






そして現在。



ヒューは、沢山のおっぱいに囲まれていた。


「ヒュー君、可愛い」


「ちょっと、ずるいわよ」


「はい、あーん、美味しい?」


この状況はどういうことなのか説明すると、ベンの入れ込んでいた女に、直接接触し話をすることになった。

しかし、ガノンが女から情報を聞き出すのは無理だということで、ヒューにこの役目が回ってきた。


この場所は、日本で言うところのキャバクラ的な店になっている。


最高だ!! ギルドの金でこんな事が出来るなんて!!


見渡す限りの胸に囲まれて、浮かれているヒューは、本来の目的をまだ果たしていない。


いかん、いかん、真面目にやらねば。


今まで鼻の下を伸ばしていたヒューだが、不自然さを出さないように、上手く雑談を入れながら目的の女を探す。


「そうそう、この店、先輩の冒険者に薦められて来たんですよ」


「え? ヒュー君、冒険者なの? 全然見えなーい」


「意外に筋肉あるんですよ? 触ってみます?」


「触る触る!」


「あたしも―!」


「私も私も!」


体を触られ、またも鼻の下を伸ばすヒューだが、今回は目的をしっかりと覚えている。次にどういう言葉を選び、誘導するか考えるが。

「そういえば、リューネ、あんたのとこに来てたハゲ最近来ないわね、どうしたの?」


お、意外と上手くいったな。


「ベンさんの事? 分からないわよ、お店以外では、何度か食事したくらいだし」


リューネは、こいつか。


「え!? リューネさんベンさんの知り合いなの?」


「そうよ、ヒュー君、ベンさんを知ってるの?」


「うん、こないだまで同じクランだったんだ!!」


「そうなんだ。今は、違うの?」


「うん、事情があって違うクランに入ったから今は別だよ!」


「そうなのね」


その後も適切に色々な会話をして場を盛り上げる。


「おねえさん、僕がおごるから、今度一緒に食事しようよ!」


「え!? 私と?」


「うん」


「リューネだけずるーい!」


「わたしもー!」


「私も私も!」


この流れはまずいな、こうなったら最後の手段だ。


「ぼく、お姉さん1人1人と、ちゃんとデートがしたいな、ダメかな?」

必殺、上目使い発動!! 何度も鏡を見て練習したのだ。整った線の細い顔と、14歳の体だからこそ出来る技だ。内面が23歳のヒューには、正直しんどいが、心を殺し演技する。


「デート、行きましょう!」


よし! これで後は1対1でおっぱいを…… 違う違う、1対1で聞き出すだけだ。今の話を聞く限り、かなり深い仲では無かったようだし、そこまでの期待は、しないでおこう。


可愛い坊やの演技は、辛かったが、実に有意義な調査となった。

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