【第22話】二兎を追う者は何かを得る
その後、ベンが惚れた女であるリューネとデートをして、色々聞いた。それと、デートした後に、宿屋に泊まり色々と調査したが最高だった。
話を戻そう。リューネから聞いた話で気になるものがあった。ベンがリューネとの食事中に「おいおい、よりにもよってこんな時に」と言って、食事を途中で切り上げて帰ったり。たまに「ふざけるなよ、アカの野郎」と呟いたりしていたらしい。リューネの事が好きなベンがリューネより優先するものとは何だろうか。
この話を聞き「アカ」という人物が、もしかしたら、重要なのでは、と睨んだ。早速、ガノンと情報をすり合わせる。今回ガノンは、仮面の人物について調べていたが、手掛かりは一切無かった。
情報交換も終了し、クランハウスに帰ってきたヒューは、食堂で考え込む。
「そんな難しい顔して、どうした?」
そこに、ゼルバがやってきた。
「いや、何でもない」
調査していることは秘密なので、いくらゼルバでも明かすことが出来ない。
「そうか? 悩みがあるなら聞くぞ?」
白い歯が見える、爽やかスマイル。女だったらマジで惚れる。
「ありがとう」
そこからは、久しぶりに雑談することになった。
「最近忙しそうだな」
「まあ、そうだな」
「何してるんだ?」
「ああ、ギルマスに、こき使われてるんだよ」
「なぜヒューが?」
「こないだ、キングオーク倒しただろ?」
「ああ」
「倒した時にも使用したが、俺が使ってる能力は少し特殊なんだよ」
「ふむ」
「だから、このままだと貴族や国に目をつけられるかもしれない。それをギルドぐるみで隠蔽してもらう代わりに、ギルマスの仕事を手伝ってるのさ、交換条件ってやつ」
「なるほど、お前が納得してるならいいが、辛かったら言えよ、俺が抗議してやる」
「ありがとう」
「おう」
爽やかスマイル。
「あ、1つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「アカって名前の人、知ってるか?」
「アカ? うーんそんな奴聞いたことないな」
「そうか」
「人探しか? 協力するぞ」
「いや、大丈夫だ」
「そう言うなら無理にとは言わんが、遠慮はするなよ」
その2人の様子を、柱の陰から、ジッと見ている者がいた。
その後も、周りの人物にアカについて聞いてみたが、知っている者はいなかった。
夜中、ヒューは珍しくトイレに起きた。面倒くさいがベッドから起き上がり廊下に出る。
はぁ、ジュースを飲みすぎた。
寝る前はあまり、飲み物を飲んじゃだめだよな。ん?
その時、ギルドの裏口付近から音がした。人の気配もする。
こんな時間に誰だ?
ゆっくりと裏口の方へに向かう、するとニコスが自分の部屋の扉を閉め、きょろきょろと周りを気にしていた。そしてそのまま、ゼルバの部屋の前に行くニコス。
なんだ、ニコスか。女遊びでもしに行くのか? そんなに気にしなくてもいいのに。それとも、夜中に男同士の会話か? 今度自分も混ぜてもらおう。
そして、ドアに耳を当て中の音を聞いている。
それを目の当たりにし固まるヒュー。
え? なに? ニコスって、そっちの趣味があるの? 見ちゃいけないもの見たかも。
そして、小さく舌打ちをした後、裏口から出ていくニコス。
ふぅ、今日見たことは忘れよう、きっとそれが良い。盗聴趣味か男色趣味かどちらにせよ下手に突いたらヤバそうだ。
その数日後、調査は進展を迎える。ガノンが新たな情報を手に入れてきたのだ。
「ベンを監視していた人物がいる」
「大ハゲを監視? 誰が監視してたか判明してるのか?」
「ああ、それは」
その日の夜、皆が寝静まった時間帯、ヒューはベッドから起きてクランハウスの裏口に向かった。そのままクランハウスから出て、裏口の真横にある物置に身を隠す。
すると、裏口から出てくる人物が1人いた。ゼルバだ。
こんな時間にどうしたんだ?
少し驚くが、そのまま見送るヒュー。そして、ゼルバが出てからすぐに、ハウスから出てくる人物がいた。ニコスだ、その姿を確認したヒューは、跡をつける。すると、ゼルバに対して、バレない程度の一定の距離を保ちながら尾行するニコス。その跡をつけるヒューという2重尾行の状態になった。
ニコスは、人目を確認しながら、尾行を続ける。そして、周りに人がいないことを確認すると仮面を装着した。
謎の仮面は、ニコス? なるほどな。
ガノンから聞かされた、ベンを尾行していた人物、それはニコスだった。何が目的で尾行していたのか分からないが、怪しいことは、確かである。
男をストーキング。やはり、そっち系なのか?
そんなことを考えているヒュー。そして、ついに動きがあった。ゼルバが建物内に入っていったのだ。
ここは、元【シャンドゥシャス】のクランハウス。ここで一体何を。
その時、ヒューの頭の中で線が結びつく。今回のオーク事件に関係していると思われるベン、そのベンをつけていたニコス、そして今度は、ニコスがゼルバをつけている。そして、ベンと関係のある、謎の人物【アカ】。
今までアカを人の名前だと思っていた。だが、それは間違いだった。アカそれは色を表す。つまり、赤だ。ゼルバの髪の色が赤だから、ベンはアカと呼んでいたのだ。仮にニコスがアカだとしたら、今までの行動に説明がつかない。アカがベンを尾行する必要など無いからだ。
ニコスの正体は不明だが、ここは黙って様子を見ておこう。
少し経ちゼルバが建物の中から現れる。それを物陰に隠れてやり過ごすニコス。ゼルバは来た道を戻っていく。そしてニコスは入れ替わりでシャンドゥシャスの中に入っていく。
じゃあ、俺はゼルバをつけるか。
その後、ゼルバの跡をつけたのだが、イノセントロンドのクランハウスに戻っただけだった。それから少し経ち、ニコスは、裏口からクランハウスに入ってくる。
「やあ、ニコス、こんな時間にどうした?」
ヒューは、偶然を装い自然に声をかける。
「ああ、眠れなくて散歩してたんだよ」
「へぇ、そうなんだな、散歩って、仮面を着けてするのか?」
仮面という単語を発した瞬間、一瞬驚いた顔をした後、ニコスがヒューを睨みつける。
「跡をつけてたのか」
「ああ」
「どこまで知ってる?」
「ここだとヤバいし、とりあえず俺の部屋に行こう」
ヒューの部屋に移動し、ヒューは椅子に、ニコスは立ったまま話を続ける。
「俺が知ってるのは、ゼルバがオークの件に関わってるんじゃないかってことだ」
「なぜそう思う?」
「ベンがアカって人物の名前を呟いていたらしいんだ。それで、最初はアカって名前の人物がいると思ったけど、ゼルバの髪の色の赤ってことに気づいたよ」
「理由はそれだけか?」
「いや、もう1つある、というかコレがあったから、ゼルバがアカだと思った。今までゼルバとベンに全く接点が無かったから、考えもしなかったんだが。このタイミングで無人のシャンドゥシャスに入っていくのは、さすがに怪しすぎるだろ」
「なるほど」
「逆に、聞きたいんだが、シャンドゥシャスに行って何か分かったか?」
「いや、特に分かった事は無い。奴が証拠の隠滅をしたんだと思う」
「一応、ベンの部屋と、ハゲの部屋はギルドが調べたんだよな?」
「全ての部屋を探しはしたけど、それでも完璧に隠されてたら見つけるのは難しいのだろう」
「ニコスは、今回の事件の真相を知ってるのか?」
「知っている、ここまで知られたらお前の口をきけなくするか、全てを話して協力してもらうかしかない」
「戦うのか?」
「いや、全部話して協力してもらう、その方が今後のメリットが多い」
事件の話に移る前に、まず、何者なのかについて簡単に説明を受けた。ニコスは国が主導で結成された、特殊組織【カゲロウ】の一員らしい。物心ついた頃から、厳しい訓練を受け、14歳になると同時にそれぞれの地域に派遣される。そして、国を脅かす犯罪を未然に防いだり、捜査を行ったりする。
次に、事件の話に移る。
この街に派遣されたニコスは、特に大きな事件の動きはなく、今まで普通にハンターとして生活してきたが。不穏な動きをしている裏の組織があるということを聞き、捜査を始めた。
そしてまず初めに目星を付けたのは、ベンだ。そもそもシャンドゥシャス自体が、良くない噂が多かったので、目星をつけていた。
彼を捜査しているうちに、頻繁に接触を持っているゼルバが、ベンより上の立場な事に気づき、捜査のため【イノセントロンド】に加入、そしてゼルバを見張っていたらしい。
「今回の件は、未然に防げなかったのか?」
「難しいな」
「どうして?」
「それについてだが、ベンに話を聞いて、色々な謎が解明されたんだ、そこに今回の肝がある」
「どういうことだ? ベンは行方不明じゃないのか?」
「キングオークの混乱に乗じて、他国に密入国しようとしてたからな、捕まえて全て吐かせたよ、だから生きてる」
「なるほど、話を続けてくれ」
「続きだが、今回は使われた物が物だからな、防げなかったよ」
「何が使われたんだ?」
「ある薬品が使用された、表向きは【誘魔薬】ということになっている。ゼルバがベンに、そしてベンがジースに渡したんだ。それをジースが使い、この事件が起きた」
誘魔薬とは魔物を惹きつける効果がある薬だ。
「表向きってことは、実際は違うものだったのか?」
「ああ、実際は、邪神を信仰している組織で出回っている物で、その名も【魔神薬】ゼルバがさっきクランに行き回収したのは多分これだろう」
魔神薬とは、匂いや味は誘魔薬と同じだが、魔物が摂取すると、肉体に大きな変化が起こり、大幅に進化する。今回の場合、オークが摂取しオークキングとクイーンに進化した。そして、森の中にはそれ以外の魔物の死体があったらしい。他の魔物も摂取し、進化したが、森で上位に立つキングオークにやられたらしい。
「俺も最初から、ここまでヤバい薬が使われると分かっていたら、ゼルバを止めたんだが、まさか自分もいるこの街を魔物に襲わせるなんて想像できなかった」
「なるほどな」
「ちなみに、ジースはお前を狙ってたみたいだ」
「ハゲに狙われているのは知っていたが、どういうことだ?」
まず、ヒューに恨みを持ったジースが、ベンに相談する。ベンは丁度、誘魔薬の実験を組織に依頼されていたので、それの実験台としてジースに薬を渡し、薬を使ってヒューを陥れる事を唆した。しかし、何かしらの事故があり、今回の事件に至ったわけだ。実際は、ベンも騙されており、誘魔薬ではなく魔神薬だった訳だが。
「どう考えても、ハゲ2人は組織にうまく利用されてるな」
「そうだな」
頷きながら答えるニコス。
この事件の闇は、思ったよりも深そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます