【第23話】黒仮面犬 vs 赤雑魚

それから、協議を重ねた結果、ヒューとニコスは協力関係を結ぶことになった。お互いの存在を他人に教えないことが協力の条件だ。


そして、数日後ゼルバに動きがあった。時刻は夜中の2時頃だろうか、顔まで隠れるフードを身に纏い、周りを警戒しながらどこかに向かうゼルバ。それを、ニコスとヒューで後を付ける。1人よりも2人の方が何かと対処しやすいだろう、ということで、一緒に尾行する事になった。


ゼルバが向かった先は、商店街の先にある何もない場所だった。ヒューとニコスは訝しげにその様子を眺めていた。すると、腰から小さい松明を取り出し、火をつける。その松明を手に持ち、周りを確認してから、街のはずれにある下水道トンネルの中に入っていった。


「俺が調べ始めてからは、一回もとっていない行動だ」


「年に1回とか、決まった時に開かれる会合とかなんじゃないか?」


「もしくは、今回のオークの件で、何らかの組織と接触を行っている可能性があるな」


今までの状況から言って、ゼルバも黒幕ではないことは明白だ。そもそも、個人で引き起こせるものではないのだ。他の街でも同時多発的に起こったスタンピード、明らかに人為的なものだ。それが個人の所業だとすれば、もはや、そいつは神もしくは邪神だ。


少し距離をとりながら、後ろをついて行く2人。見つかるといけないので、明かりは持っていない。しかし、ゼルバの照らす明かりで、ほのかに足元が見えているので問題ない。ゼルバがこちらに振り返ったとしても、照らされなければ、バレることはないだろう。


ゼルバはそのまま振り返ることなく進んでいく。そして進むこと数分。ついに目的の場所にたどり着く。


そこには、開けた空間になっており、そこにフードを被った沢山の人が集まっていた。その中心には、良く分からない形をした像が立っている。そんな中、1人が像の横に立った。


「皆集まったようなので始めたいと思う」

低い男の声が、空間に響き渡る。


「今回のオークの件は残念だった。成功していれば、多くの冒険者、そして逃げ遅れた住民達を殺し、贄にすることができたのに」

皆、真剣な様子でその話に耳を傾ける。


「しかし悲観することは無い! ついに、我々の理想が!! 執念が!! 恨みが!! 全てが解放される、そんな時が来たのだ!!」


「「うぉおおおおお!!」」

色めき立つ、集まった人々。


「我々の命をもって、この儀式を成功させよう!!」


「「ダ―ヴァネス!!」」



その様子を広間の入口から覗き込む2人。


「なぁ、不穏なこと言ってないか?」


「ああ、これはさすがに止めないと不味いな」


仮面をつけるニコス、それに対しヒューも黒い仮面を取り出した。


「なんだ、その黒い仮面は」


「え? かっこいいかなって」


微妙な顔をするニコス。

「まあ、いいんじゃないか? 俺は別に好きで仮面を着けてる訳じゃないけどな」


「とりあえず行こう」


「そうだな」


素早く飛び出した2人。わざと声を上げてこちらに注目を集める。


「おい、引きこもり共!! 何こんなとこに隠れてコソコソやってんだ!!」


ヒューの大声で、皆の視線が一斉に集まる。そして薄暗い空間を利用することにした2人は、アイコンタクトを取り同時に目をつぶる。


――――フラッシュ!!


その瞬間、眩い光が人々の視界を奪う。2人は、その機を逃すことなく、素早く動き気絶させていく。生活魔法のライトを長く使用する場合には光は小さいが、一瞬なら眩く光らせることが出来る。


だがそんな中、ゼルバがヒューの前に立ちはだかる。


「お前は…… ヒューだな?」


「さあ、そんな奴は知らないな」


「なぜ邪魔をする?」


「逆に問いたい、なぜこんなことをする?」


「世の中が腐っているからだ」


「なるほど、それは分かるが、これが賢い選択だとは思えんな」


「お前も分かっているはずだ、力の持たないもの、権力を持たないものは生きていけない世の中だと」


「言っている事はごもっともだ。しかし、この方法が許される訳じゃない」


それを聞いて腰から剣を抜くゼルバ。


「俺たちは分かり合えないみたいだ。残念だよ」





一方、ニコスの前にも先ほど話をしていた男が立ちはだかる。


「貴様は、国の番犬だな?」


「どうかな」


「他の街にも同じような奴がいると聞く」


「それはそちらも同じでは? おかしな思想を持った奴等が、沢山居ると聞くが?」


「言わせておけば」


「御託はいらん、始めよう」




ゼルバとヒューの戦いは一進一退の攻防を極めた。大剣使いであるゼルバは、普通のブロードソードを大剣までは使いこなせていない。一方、ヒューは最近、積極的に剣術を使い、モンスターを倒しているため、多少は使える。しかし、ゼルバと剣術の練度が違いすぎるため、気を使用して身体能力を上げ、ぎりぎり戦えている感じだ。


しかもゼルバは、ヒューの能力について知っている人物の一人のため、距離を取らずに常に近距離戦を仕掛けてきている。それにより、遠距離攻撃を仕掛けることが難しい。近距離でオーラボールを撃つことはできるが、自分も巻き込んでしまう恐れもあるし、気を練るのに集中しなければならず、撃てないでいた。


くそ、このままではじり貧だ。


「戦闘中にそんなに考え込んでいたら隙が多くなるぞ?」


ゼルバの強烈な斬撃が顔面を狙うが、腕に気を集中して辛うじてガードする。そのがら空きになった胴体にゼルバの膝蹴りが決まった。激痛により、ヒューの顔がゆがむが、休む間を与えることなく斬撃を繰り出す。


集中できないこともあり、傷が増えていく。明らかにピンチな状態だが、顔に絶望の色は見られない。そして大きなため息を吐き、吐き終えると、意を決した顔になる。


出し惜しみはしていられないな。


その瞬間、ヒューの動きが大きく変わる。

先ほどの動きは嘘のように、ゼルバを一方的に押していく。


(ばかな、どこにそんな力が、いままで隠していた? なぜ最初に使わなかったんだ)


次第に、動きが鈍くなるゼルバ。一方、ヒューの動きは鈍くなるどころか加速する。加速する。さらに加速する。


(ありえない、これだけ動けば疲れるはず、どこにこんな力が)


そしてついに、ゼルバの剣が折れた。そして、防ぐ術がなくなったゼルバの顔面にヒューの力のこもった拳が入る。5メートル程飛んで、体を壁に叩きつけられたゼルバは動かなくなった。それを見て、一息つくヒューだが。苦い顔をして、その場に倒れこむ。


急に動きが変わった理由は、今まで使っていたオーラアーマーを発展させた、バトルアーマーを使用したためだ。オーラアーマーは、気を体の外に張り、その周りを魔素抜きの空気、さらに魔法で覆うことで防御力を上げることが目的である。バトルアーマーは、その過程まではオーラアーマーと同じである。違うところは、体に纏った気を操作することにある。


体を覆っている気を無理やり操作するとどうなるか。それは、常人の動きを超えることが出来るようになるのだ。だが、いくら最近筋肉がついたといっても、無理な動きをさせすぎてしまい、体にダメージがきているのだ。



これは、もっと筋肉つけないと不味いな。

そんなことを考えながら、ニコス達の戦いに目を向けた。


ニコスとフードの男の戦いは、ある意味一方的な物だった。男が魔法を撃つのに対し、全てを最小の動きで躱していく。そして、戦いながら、情報を聞き出していく。


「お前らは、何者だ?」


「誰がそんな質問に答えるか」


「ダ―ヴァネスとか言ってて恥ずかしくないのか?」


「な、貴様!! ダーヴァ様を侮辱するか!!」


「ダーヴァ様? 邪神か何かの名前か?」


「だまれ!! お前のような奴に話すことなどないわ!!」


そう言って魔法を撃ちまくるが一向に当たらない。


「ダーヴァも、このような雑魚なのか?」


「貴様ぁ!! ダーヴァ様を侮辱するな!! ダーヴァ様こそ本物の神!! 我々人類に平等を与えてくださるのだ!!」


「なるほど、だったら今、ダーヴァ様に助けてもらえよ」


「くっ、貴様には分からぬだろうが、こんなことに手は貸して下さぬ、それが真の平等なのだ」


「なんだそれ、命までささげるのに、何もしてくれない? いいように使われてるだけじゃないか」


「だまれ!! だまれ!!」


またも、魔法を乱射する、もはや冷静な判断は出来そうにない。


(こいつも、所詮操り人形か、有益な情報は得られそうにないな)


そう判断したニコスは、瞬時に後ろに回り込んで、手刀を首に入れ気絶させる。





戦いが終わったニコスとヒューは全員を拘束する。


「ヒュー、あとはお前に任せる。俺は姿がバレるわけにはいかないから、ここで失礼する」


そう言って姿を消すニコス。


その後、ギルドにこの件を報告し、ゼルバたちは刑務所のような所に連行されていった。




そこから数日が立った。ヒューは現在、ゼルバが収容されている牢屋の前に立っていた。


「何しに来た?」


「何でこんなことをしたのかを、聞きに来た」


「話すことは無い」


「そんなこと言うなよ、皆の代表で、俺だけ会いに来れたんだから」

事件の後、パーティメンバーにはギルドマスターから今回の件が伝えられた。その際、皆が動揺していたので、代表としてヒューが会いに来た。


少し考える素振りをした後、ゼルバは口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る