【第24話】嘆きと平等

ゼルバはごく普通の家庭に生まれた。父、母、子の三人家族で、衣食住に不自由はなく、唯一の心配は母親の体が少しだけ弱いことだった。


父親は、曲がったことが嫌いな人で、困った人がいれば助け、街の人々にも慕われていた。そんな父の教えは「力を持つものは、弱いものに対して、その力を振りかざしてはいけない。寄り添って、その声を上の者に届けたり、同じ目線に立って物事を見つめなければ、世の中は良くならない」だった。


そしてゼルバは、そんな父親に憧れていた。


ゼルバが4歳になったある日。

父親と道を歩いていると、道の真ん中で誰かが声を荒げていた。近くにいた人間に話を聞いてみると、小さな男の子が鬼ごっこをしていて、貴族にぶつかり服を汚してしまったそうだ。怒った貴族が男の子を切るように護衛に命令を出す。その時、ゼルバの父が「そこまですることは」と男の子をかばった。


すると貴族は、ターゲットを父に変え「不敬だ!! 切り捨てろ」と護衛に命令を下す。さすがに護衛も「そんなことで人は切れない」と断るが「なら自分が切る」と護衛の腰から剣を抜き父を切り捨てた。


直ぐに父親に駆け寄るゼルバ、傷はそこまで深くないようだった。なぜこんなことをするのか理解できなかったゼルバは、呆然とした顔をして貴族を見ていた。すると貴族は、このガキの目が気に入らないと、今度はゼルバに剣を振るう。怖くて目をつぶってしまったが、痛みはいつまで経っても来なかった。


目を開けると、剣が背中に刺さっている父の姿が映った。父はゼルバを抱きしめるようにして、そのまま息を引き取った。その姿を見ていた貴族は、もう興味を失っており、護衛を連れて去って行った。


その後、父が不当に殺されたことを訴えたが、聞き入れられる事はなかった。後から知ったことだが、その貴族は領主の息子で、この街の中なら何をしても許される人間だった。


その後、母と二人で暮らしていたが、元々体が弱かった母は、ゼルバのために無理をして働き、父が亡くなった3年後に過労死してしまう。


それからのゼルバは、貴族制度の撤廃や、この世の中を変えるための活動に熱を入れるようになる。しかし世の中が良くなることはなかった。飢える人々、その上に立つ腐った貴族、いつまでも無くならない戦争。世の中の理不尽を挙げたらきりがなかった。


もちろん、良い貴族も居ることをゼルバは分かっていた。しかし、良い貴族は所詮一握りであり、今まで見てきた貴族は大抵腐っていた。この頃から、世の中に対する希望を捨てた。


そんなある日、運命の出会いを果たす。たまたま、酒場で出会った人間と世間についての不満で盛り上がってしまった。これが貴族の耳にでも入ればこの時点で殺されていただろう。そして、その相手に連れられて二軒目の店に向かう。あまり人のいない酒場だった。


そこで、その男から邪神ダーヴァについての話を聞く。ダーヴァは暴力の神であり暴力で全てを支配する。その話を聞いて気づいてしまったのだ。


人間は人間である以上、力や知能や存在が近い。

「もしかしたら、自分も出来るのでは」と考える。だからこそ、勝ったり負けたりしたときに、優越感や劣等感を感じる。そして、色々なものが近いからこそ、力を振りかざし己を大きく見せようとする。様々な物を利用し他人を陥れる。そして、敗北した人間には、仄暗い感情が生まれていく。


だが、ダ―ヴァという圧倒的な暴力の前ではどうだろう? 圧倒的な力の前では皆平等であり【権力・能力・知力】など、邪神の圧倒的な力の前では砂粒ほどの価値もないのだ。邪神の前では、国王も貴族も貧民も皆等しく平等だ。





「だからこそ復活に固執する。だからこそ、邪神が必要なんだ。俺の母親は悪だったか? 父親は悪だったのか? 理不尽なんだ!! この世は平等じゃないんだ!! この世は正しくない、だから正しい世の中にしようとしたんだ!! 何がいけない?」


ゼルバはヒューの目を見据えて言葉をぶつける。


「確かに、邪神がいれば平等な世の中が来るのかもな」


その言葉にゼルバの顔がほころぶ。


「ああ!! そうだよ! ヒューも分かっ「でもな」


ゼルバの言葉を遮り言葉を紡ぐヒュー。


「お前の語る平等には自由と成長がない。お前が言う世の中は、生きながらにして死んでるのと等しいんだ。確かに人は成長の仕方を間違えることもある。確かに自由があることで人は増長するかもしれない。道を間違えるかもしれない。けれど今の世の中は、必ず死ぬわけじゃない。少なくとも、もがく権利はある。だがお前の言う世の中はどうだ? 圧倒的な力で押さえつけられ、もがく事も出来ず、成長することの芽も詰まれ、自由もない。それは、生まれた瞬間に死んでいるのと同じなんだよ」


一呼吸おいて、再び語る。


「そして、平等という言葉に甘えてはいけない。平等について、俺だって上手く説明は出来ない。でもな、その平等が違うって事だけは分かる。邪神が平等をもたらす? 違うね。邪神がもたらすのは所詮、かりそめの平等だ。平等な社会を作りたいんなら必死で考えろよ!! どうすれば平等になるのか、邪神などに頼るんじゃなく。本当に全部試したのか? やるべきことは、もうないのか? 本当は平等という甘い言葉に逃げてるだけじゃないのか?」


そもそも、ヒューは平等なんてものは、無いと考えている。誰かにとっての平等は違う誰かにとっての不平等になるため、皆の意思が本当の意味で統一されなければならない。人間はそれぞれ考え方が違うのだから。人と人が関わり生きていくということは、平等を求めるのではなく、互いに、ある程度譲歩して生きていかなければならないのだ。


何も言葉が出ないゼルバ。下を向き俯いている。


面会は、そこで終了となった。




一応、今回のキングオーク騒動は、終結。それに伴い、ヒューの特命任務も終了した。しかし、この事件の闇は根深く、それについては、国が主導となり解決すべき問題だろう。




そして、事件から数日が過ぎ。

ヒューは、今回の戦いを通じて、色々と学んだ。まず単純に、戦闘経験の少なさ。一流の冒険者で、尚且つ能力が知られている場合、今回のように苦戦を強いられてしまう。


次に、体力、筋力の不足。最終手段として、バトルアーマーを使用したが、使用後、全身筋肉痛と腕や指の疲労骨折が見られた。


最後が、気と魔法の習熟だ。近づかれても、瞬時に使用できる速度のあるオーラボールを使用できるようになららければいけない。バルスの時に使ったオーラガンは、手を銃の形にしないと使うことが出来ない。これについては、時間をかけて練習すれば手の形に捉われる事無く撃つことが出来そうだ。


以上の事から、基礎体力の向上、筋力増強、気と魔法の習熟が早急の目標となる。


ほとんどは、気道道場に行けばクリア出来そうだな。剣術はどうするか、やはり素手で近接武器の対応をするには、まだまだ修行が足りないよな。



ということで、気道道場で訓練をするヒューだが。その右側には、無言で正拳突きを行う、顔面凶器の男。左側には、大きな子供がいる。修行に集中したいのに横から子供が話しかけてきた。


「おい!! 聞いてるのか? 俺は、お前に負けたわけじゃねえぞ!! お前に負けたのはバルスだ!!」


そう、見た目は大人、頭脳は子供のゲビルドだ。ちなみに、右側で特訓をしているのはガノンだ。


「やかましいな、邪魔だから帰れ」


「残念でしたぁ、俺の家はココですぅ」


言い方もムカつくが、表情筋の活躍が恨めしいほど、ムカつく顔をしている。優秀な表情筋よ、なぜゲビルドの表情筋に生まれてしまったのか、ちゃんとした職についていれば今頃もっと活躍できていただろうに。


道場同士の試合があった後。ヒューに対して、ズルだ何だと喚いていたが、マチと一緒に暮らせることに気づき、おとなしく気道道場に入門した。別に家から通えない距離ではないが、マチの添い寝狙いで住み込みを希望した。しかし思惑は、はずれ、道場で一人さみしく寝ている。逆になぜマチと一緒に寝れると考えたのか、脳みそを調べたい。


ガノンは、単純にヒューと仲が良いから来ている。


以上の理由から、このメンバーで修行している訳だ。丁度よかったので、ガノンに武器を使った稽古を頼んだら一つ返事で了承してくれた。そして、実際に稽古してみたのだが。手加減を知らないガノンは、危険すぎた。危うくミンチにされかけたので、ヒューはおとなしく他の相手を探すことにした。




そんなこんなで、時が経ち。ヒューに新たな出会いが訪れる。

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