【第8話】髭だるまとロリ
「知らない天井だ」
智也が目覚めると、そこには知らない天井があった。一度言ってみたかったセリフなのでとりあえず呟いてみる。
「目が覚めたか?」
声がした方に目を向けると、部屋の入口に髭を生やした厳つい男が立っていた。
彼はこの道場の師範をしているゼブラだ
身長は190近くあり、強面の髭だるまだが、意外と優しい所がある。
そして、自分の娘にとても甘いらしい。
「お前、何か娘を怒らせるようなこと言ったんだろ?」
あきれ顔でこちらを見るゼブラ。
娘? ああ、あのバイオレンスなロリっ子が師範の娘か、確か、年齢の話をしていたら急に目の前にいて。
「怒っていたのか、については分かりませんが、確か年齢の話をしてましたね。それよりも、なんですか? あの暴力的な女の子は! それと、娘さんの顔が奥さんに似てよかったですね」
「おい、どういう意味だこら!! はぁ、まあよく言われるけどよ」
クワっと目を見開いて、怒るが。溜息を吐き、あきらめた顔で納得している。
「きっと、大人のレディに見られたい多感なお年頃だったんですね、人間だれしもそういう時期がありますよね」
最後に何をされたかは動きが早すぎて分からなかったが、年齢の話をしていた時に様子がおかしかったので、そう結論付けた智也。
「はぁ、あのな、娘はお前より年上だぞ? あと確か、お前の年齢14歳じゃなかった? 何そのセリフ、達観してんの?」
「14歳? ああ…… そうです14歳です。え? 娘さん俺より年上!?」
…
……
………。
「じゃあ15歳ぐらい?」
「違うもっと上だ」
「16!!」
「上」
「17!!」
「上」
築地とかの競りってこんな感じなのかな。
そんなことを考えていた。
まさか……。
「に、20?」
髭だるまがニヤつく。
「そうだ」
「いやいや、ありえないでしょ!! あのロリっ子が? ああ、でも、あり得るのか?」
ぶつぶつと独り言を言いながら下を向く智也。
「ほう、まだ懲りてないと見える」
「え?」
師範の後ろから声がしたのでそちらを向くと、そこには、またもプルプルしているマチの姿があった。このままだと、先ほどの二の舞は避けられない。
落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。落ち着け、俺はできる子だ。死なないためにも、問題を紐解いていこう。まず、年齢は20歳、怒った様子からすると、小さな子供に見られて困っているようだ。次に見た目の話だな、あの見た目だと…うんうん。ということは、彼女が望む答えは…
詐欺師になったつもりで話し始める。
「いや、とても美しいお姉さんが、急に話しかけてきたから、照れ隠しであんなことを言ってしまったんですよ。気分を悪くされたのなら、すいません。あ、それと髪の色がとても美しくて好きです。胸も大きくて素晴らしいです!」
言ってから自分の失敗に気づいて、焦る智也。
しまったああああ!! 見た目の大人な部分を、どう言おうか考えてたら、勢いで胸の話を言ってしまった、おしめえだあああ…… 殺されるううう。
歯を食いしばって目を閉じる。
…
……
………。
何も起きない。
恐る恐る彼女の顔を見る智也だが、なにやら、もじもじしている。顔が赤く、耳まで真っ赤である、どうやら照れている様子だ。
えっ? まさかのチョロイン?
彼女のチョロさを思うと心配になるが、どうやら上手くいったようで安心する智也。
しかし。
「誰の前で娘をたぶらかしとるんじゃああああ!! 娘は!!貴様なんぞにやらああああん!!」
今度は師範の正拳突きをモロにくらうのだった。
「知らない天井だ」
もうすでに知っている天井だが、そう言って起き上がる。しかし、何やら違和感を感じた。
体の右側が熱い。
「気が付いたか?」
声がしたので智也がそちらに顔を向けると
隣に寝ている幼女、もとい、マチの姿があった。
熱いのは、こいつのせいか。
「なにしてるんです?」
「寝ている」
「いや、それは見たらわかります、何で隣に寝てるんだって話ですよ!!」
「あれだ、親鳥が卵を温めるような……」
「お前はニワトリか!!」
ベッドから抜け出すマチ、それと同時に上半身を起こす智也。
「冗談はさておき、さすがに2回も気絶させてしまったら、申し訳なくなってな」
「だからと言って隣で寝ることはないよね?」
よくわからない状況に地球の頃の口調に戻る智也。
「ああ、気にするな」
「気にするなって……」
この出来事から10分前。
「あんなこと言われたのは初めてだ」
マチは先ほど智也に言われた言葉を思い出していた。
彼女はこの道場の副師範をしている20歳の女の子だ。20歳と言ったら色恋沙汰の1つや2つと思うかもしれない。しかし彼女には無縁の話だった。
この国は、魔法がメインに考えられる国だ。
それに比べ気道は、メジャーじゃなく。魔法を使える人間にとっては必要のないものとされている。
当然、道場に通う人間も少なく。
それにより極端に人との交流が少ないこと。
この、道場に来るのは子供かお年寄りが多いこと。
そして、親ばかの父親が裏で男を追い払っていること。
以上の理由が重なり、男性に対しての免疫が極端に少ない。
しかしマチも女の子だ、色恋沙汰に興味や憧れはある。
マチ自身は、自分の胸が嫌いだ。
1番の理由が動くときに重くて邪魔だから。2番目の理由が、着たい洋服が着れないから。3番目が、道場に通うエロじじい達が稽古にかこつけて触ってくるからだ。しかし、智也の一言により悪くないかなと思い始めていた。
ベットで眠っている少年に目を向ける。
男にしては少し長い白い髪に、幼い顔立ち、華奢な体。あまり、気道に向いているとは思えなかった。
(こいつは、なぜあんなに必死で鍛錬してるのか。)
少年のそばに近づき、じっと顔を見つめる。
すると。
「エレ…ナ…胸…… さ…い…こう…… むにゃむにゃ……」
寝言を言う智也。
それを聞いてマチは。胸に謎のモヤモヤが発生する。恋をしたことが無いので本人はそのモヤモヤがどういうモノなのか分かっていない。
(まだ、起きないよな?)
そして、そっと智也の寝ているベットにもぐりこむ。
(ああ、なんだか体も心もポカポカする)
布団から顔だけ出し、智也の隣までやってきた。
顔を横に向けると、すぐそこに智也の顔がある。
寝ている智也の体に自分の体を寄せた。なぜだか分からないが、体がより熱くなる。
「うーん」
智也が起きそうな様子を見せた。
そこで急に我に返るマチ。
(はっ!? 私は何をしているんだ)
今の事を思い返すと、急に恥ずかしくなったため、急ピッチで精神を安定させていく。
(落ち着け―。冷静にー。ヒッ、ヒッ、フー! ヒッ、ヒッ、フー!)
ようやく落ち着きを取り戻す。
(まず、ベットから出ないと)
「知らない天井だ」
「そんなことより、ヒューよ、なんでそんなに必死なんだ? 副師範をやっている身で言うのもあれだが、気道は人気もないし、習っていてもモテるわけではないぞ?」
マチが不思議そうに問いかける。
「ああ、それは」
どこまで言おうか考える智也、そして考えた末
「僕には魔法適性が無いから、少しでも気道を習って強くなりたいんです」
この子には、本当のことを言っても大丈夫だと直感で感じた、バカにしたりするような子ではないし、なぜだか信頼できる気がしていた。
「そうか、よく考えた末の事だったんだな。失礼な言い方をした、すまない」
真面目な顔で頭を下げる。
「気にしないでください」
「それとな」
「はい」
「無理に敬語を使わなくても良い、私もその方が気が楽だ」
少しだけ考えた智也だが。
「ハァ…… わかったよ、これでいいか?」
「ああ、同年代の友達と話している気分だ、心地よい」
まあ実際23だからな。
「それと」
「ん?」
「え、エレナとは、仲が良いのか?」
「いや、仲が良いというか、命の恩人かな」
「付き合ったりとかはしてないのか?」
「いや、付き合うも何もそういう感じじゃないし」
「そ、そうか」
「マチは、エレナとは知り合いなのか?」
「ん? ああ、知り合いではないのだが、知ってるような知らないような」
なんだ? 何かのなぞなぞか?
「そんなことはどうでもいい!! 鍛錬だ鍛錬! もう起きて平気だろ?」
「多分、大丈夫だが。なんか、お前、俺よりやる気ないか?」
「あ、当り前だろ副師範だぞ!!」
「そうだけど」
その日から、智也の指導は主にマチが行うことになるのだが
指導する際、妙に体を密着させてくる事が多いな、と思う智也だった。
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