【第3話】ぽよよんと壁

街に向かい森の中を歩く5人。


4人を信頼し真実を話すべきか。話すとしてもどこまでを話し、どこから話さないのか。智也は歩きながら、そのような考えを巡らせていた。


異世界とか言ったらドン引きされそうだし、特にエレナには、頭おかしいと思われて嫌われたくないな……。そうか!! なにも地球の事は話さなくて良い。そして、あまり真実から離れすぎているとボロが出そうだし。ここは定番のあの手で行くか。


智也は急に足を止める、それに合わせて止まる一同。


軽く息を吸い、緊張を取り払ってから話し始めた。


「あの、実は記憶がなくて、自分の名前も分からないんです」

申し訳なさそうな顔をして俯く。尚これは演技も入っているが、騙している事の罪悪感があるため半分演技ではない。


皆は、一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに優しい顔になる。


――――ぽよよん。 


智也は一瞬何が起こったか分からなくなったが、すぐに理解した。


エレナの最高。


いつの間に近づいたのかは、分からなかったが、エレナに抱きしめられ、顔を胸にうずめられながら、能天気にそう考える。


「可愛そう、ヒュー君、これで元気が分けてあげられたら、苦労はしないんだけど」


いえ、最高です、励みになります。


だが、たるんでばかりもいれらない。智也は胸から抜け出すと真剣な顔で尋ねた。


「僕の名前はヒューなんですか?」


「ええ、そうよ」


なるほど、ん? エレナたちが知ってるってことは、けっこう有名人だったのか?


「僕って有名だったんですか?」


目を合わせて困った顔をする4人、少し気まずそうな空気になってしまった。


「その、なんだ、ある意味な…… 記憶が無いのなら、身を守るためにも自分の置かれた環境を知った方がいいかもしれんが、どこまで言って良いものか」


そう言って悩むそぶりを見せるゼルバ。


「言ってもらって構わないです、僕、自分のこと知りたいし、それに知らないと前には進めそうにないですから」


俺的には、正直に言ってもらった方がいいな、この空気的に良い話ではないと思うが、聞かないとヒューについてなにも分からんし。


すると、黙って見ていたセイレンが智也に近づき、抱擁する。


————。


そう、彼女は絶壁である。だが智也はそれでもうれしい。


「良い子、ヒューは健気でかわいい」


両手で頭を抑え込み壁に押し付ける。


「あー、話してもいいか?」

ゼルバが困りながら問いかける。


「このまま、話してOK」


セイレンが真顔で、そう返す。それに対して「やれやれ」といった感じで諦めるゼルバ。



転生して早々、女子に抱きつかれるとか。この状況も悪くないが、早急に自分の事を知りたいな。



「いえ、甘えてばかりはいられないので」

理性の限界もあるので、名残惜しいがセイレンの腕から脱出する。


「もっと甘えても良いんだよ?」

そう言うと、名残惜しそうに智也のそばから離れていった。


「よし、じゃあ話すぞ」


気を取り直して話を開始するゼルバ。


どうやらヒューは冒険者であり、クランというものに所属していたらしい。


クランとは何のなのか? それについて説明する前に、先ずはギルドについての話をしなければならない。


冒険者ギルドは街ごとに存在しており、それぞれのギルドでは討伐、採取など様々なクエストの受注が行える。そしてギルドで受注したクエストをソロもしくはパーティーで達成しギルドに報告すると、その時点でお金がもらえる。


冒険者がクエストを受ける際にパーティを組むのだが、基本的にはメンバーを変えることはない。しかし、メンバーがケガをすることや、やむを得ない理由がある場合、臨時でメンバーを募集する場合がある。その際、クランが存在することにより、気心の知れたメンバーから募集することができるためトラブルが少なくなる。


他にも大規模なクエストを大人数で受注する際に、同じクランの方が、情報伝達をスムーズに行うことができるため、便利なんだそうだ。


大体の目安として、街が危ないクエストは、冒険者ギルドが全クランに呼びかける、単独のパーティでの達成が、極めて困難なクエストにおいては、複数パーティーもしくはクランで対処に当たる、普通のクエストは、パーティーもしくはソロで、遂行することになっている。


ここからはヒューの話に移ろう。


クラン【シャンドゥシャス】のメンバーで荷物持ち。魔力、剣術共に適性が低く、クランメンバーに暴力を振るわれていたようだ。暴力を受けていた理由について話を聞くと、ゼルバ達が知る限り【シャンドゥシャス】は、クランメンバー内で序列があり、その序列が低いものが、上の物にこき使われる。そして、ヒューはその序列の中で最下位のため、序列が1つ上の者から、うっぷん晴らしに使われていたのだろう、ということだ。


冒険者ギルドで暴力行為が行われている場合は、受付嬢や他クランの冒険者が助けてくれる場合もあるが、クランハウス内で暴力を振るわれる場合や、クエスト中に暴力を振るわれても他のパーティからは分からないため、やりたい放題な状態だったという。



そもそも荷物持ちというのは、ランクが低いものが多く、言い方は悪いが、戦闘面で役立たずなので、暴力を振るわれないにしても扱いが雑になるパーティやクランが多いらしい。


だが、シャンドゥシャスというクランは、そもそもの評判が良くないらしく、犯罪まがいのことにも手を出している、という噂があるようだ。


「分かりました、ありがとうございます」

頭を下げる智也。


「いや、別に、君の負担にならないのなら話すのはいくらでも構わないさ」

そう言って優しく笑いかけるゼルバ。


やだ、このお兄さんかっこいい、俺にそっちの気はないけどな。


さっきまでの笑顔とは一転、ゼルバは急に真剣な面持ちになり、智也を見る。


「そこでだ、俺たちのクランに入らないか?」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


冒険者ギルドの説明


基本的にはクエストの発注と受注を行う機関

冒険者のランク

S,A,B,C,D,E,F,Gの8(それぞれのランクの+-合わせ24)ランクがある 例:Sの場合 S+ S  S-の3つ

クエストの種類

採取:薬草、鉱石の採取

討伐:モンスターの討伐

護衛:要人の護衛

緊急:街に危険が迫った時発令される基本はランク関係なしの強制依頼

指名:個人的な指名、内容は様々

その他:雑用や、街の頼み事

ランクアップの条件は一定のポイントを貯めること、なおDに上がるときとSに上がる際には追加条件が指定される、その際の条件はその人物に合わせたもの(ギルド職員がその人物が苦手だと思われるものをチョイスすることが多い)

冒険者ランクとは別にギルドランクがあるが、高ランク冒険者が入れば必ず上がるわけではない、知名度、ランク平均値、クランの素行など様々なものが審査対象となる

クランランクはS,A,B,CでありCランク以上の冒険者が5人以上集まらなければ申請できない

なお、各クラン内にはクラン内ランク(冒険者ランクとは別)が存在する場合もあるが、各クランで定められたローカルな既定のため冒険者ギルドは関与しない。

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