【第4話】ハゲとケモミミ

ゼルバからの話を聞く限り、クランへの入団はこちらからお願いしたいくらいだ。しかし、現状分からない事がたくさんある。転生して早々に起こさなくてもよい事件は起こしたくはない。


「あの、クランを移ることって簡単に出来るのでしょうか?」


「ああ、移ること自体は簡単なんだが、本来は簡単には移らない。基本的には1つのクランにずっといるもんだ。だが、他のクランに移ることが禁止されてるわけではない、大した理由もなしに移ることは、他の冒険者に良い顔をされないから普通はしないだけだ」


ゼルバの話をまとめると、このような感じだった、パーティー内でもめ事が起きた場合は、クラン内でパーティの再編成などが考えられるが、そもそもクラン自体に問題が発生している場合は、抜けることが出来る。


それと、才能のある冒険者の場合、皆で同じクエストを受けていても、クランやパーティ内で一人だけレベル差がついて行くことがあるようだ、その場合もレベルの合わないクランを抜けることが可能らしい。


話を聞く限り、クランを移った方がいいな、今のクランにいてもメリットは無さそうだ。


「こんな僕でよければ、よろしくお願いします」


「ああ、歓迎する」

二かっと笑い白い歯を見せるゼルバ、智也が女だったら惚れる笑顔だ。異世界でもイケメンは最強だね。


その後も、皆に色々なことを聞きながら街に帰った。


帰る途中、ゴブリンやビッグラビットというモンスターがちょくちょく襲ってきたが、このパーティの連携が素晴らしく、危なげなく狩っていく。ちなみに皆の冒険者ランクを聞いたのだが、このパーティは全員Bランク。ヒューは1番低いGランクだったようだ。


そんなこんなで森を抜けると目の前には草原が広がっている。その先には石で作られた長い壁と立派な門があった。


「おい坊主、大丈夫か?」

草原を進み、街につくと門番と思わしき人がこちらに近寄ってきて智也に声をかけてきた。


「平気ですが、どうしてでしょうか?」


「いや、ジースの野郎が3人で帰ってきたもんだから、出てくとき一緒だった坊主はどうしたっ?て聞いたんだが、ニヤニヤしながら「森の中で秘密の特訓でもしてるんじゃないか? がははは」とかぬかしやがったから心配してたんだ」


「そうだったんですか、心配してくれてありがとうございます」


「ああ、無事なら良いんだ」

そう言うと門番は自分の持ち場に戻っていった。


なんか、今のところ良い人しかいないな、異世界の人間って、もっと野蛮な奴が多いと思ってたよ。


内心そんなことを考えている智也だった。


そんなこんなありつつも街に入ると、これぞ異世界転生って感じの中世的な街並みだった。木造とレンガの家が多く、あちこちに街灯が見える。建物も高くて3階建ての物で、高い建造物は、特に見当たらなかった。


この街を詳しく語る前に、まずこの大陸の話をしよう。

この大陸は、バルク大陸と呼ばれており、5つの国家からなる。中央に位置するのは中央国家ガルーダ、ガルーダを中心に東にイースマルク、西にウェートス、南にサイリス、北にノーザベルがある。


そしてここは、東の国イースマルクの西部にあたり、マウラの街というらしい。西側には広大な山脈が広がっており、モンスターも多く生息しているため頑丈な壁で覆われているようだ。その山脈を越え、さらに西に進むと、中央国家ルイーダが存在している。






街の中の主要な建物を教えてもらいながら、冒険者ギルドへ向かう。クランを移る場合はギルドにも申請を行わねばならないためだ。皆にも早くクランを移ることを勧められたし、智也も出来ることなら早いうちにクランを移ってしまいたかった。


歩いていると、他の建物よりひときわ大きなものが現れた。現代に例えるなら、木で造られた市役所みたいな感じだ。


木で出来た両開きの扉を通り、中に入ると左奥にクエストボードらしきもの

右手に酒場、正面奥には受付が並んでいた。


すると酒場から、山賊のような恰好をした3人の男がこちらに近づいてくる。


「あれぇ? 生きてたのか! そりゃあよかったなぁ! がははは!」


「俺たちお前の事が心配で心配でよ! ひひひ」


「心配で酒も喉を…… 通ってたわ! へへへ」


ハゲ、デブ、チビの順で智也に向けて語りかけてきた。少し臭い。


なんだ、この見た目がいかにもで、話し方も気持ち悪い奴らは…… 言動から考えて、多分こいつらがパーティメンバーだったんだろうが、ヒューはどんな感じで、こいつらに対応してたのか分からんな。


智也が黙り込んでいるとハゲが近づいてくる。


「おい行くぞクソガキ」

そして、乱暴に腕をつかんできた。


行きたくなかったので振り払おうとしたが、この体にそんな力はなく、当然のように引っ張られてしまう。そのとき、ゼルバがハゲの腕をつかんで引き離す。


「てめぇ、なにしやがる」


「ヒューは、俺たちのクランが引き取ることになった。だからお前らは、この子にもう関わるな」

ハゲが腕をさすりながらゼルバを睨んでいるが、目線を合わせて正面から言い放つ。


「くっ、クランからメンバーを引き抜くのは禁止だろ?」

その鋭い眼光にビビりながら言葉を返すハゲ。


「確かに、勝手に引き抜くのはマナー違反だ、だが今回は度が過ぎているため例外に当たる。そもそも、お前らのような、仲間を仲間とも思わないような奴らに、クランだなんだと語る資格はない」


「だが……」


「それに、この話は俺たちが持ち掛けた話ではあるが、本人も同意している」


一同の視線が智也に集中する。


「おいクソガキ、お前本当にクラン抜けるのか? 勝手に抜けたらどうなるか分かってるよなぁ?」

ハゲが威圧しながら智也に語り掛ける、ゼルバにはビビるくせに、子供には粋がるとは…… 分かってはいたがやはり小物だ。


「え? 当然抜けますよ、お世話になりました、さようなら」

淡々とそう答える智也。


「は?」

ハゲがその場で固まった、デブとチビも驚いている


(何がどうなってやがる? こいつは脅されたらプルプル震えて、俺たちの言うことには、逆らえなかったはず)


「ということだ、分かっただろ?」

ゼルバは智也とパーティメンバーを連れて奥の受付に向かう。


「おや? そちらの子は、シャンドゥシャスの子じゃないですか。どうしたんです?」

受付に着くと、綺麗な栗色の毛をしたお姉さんがそう言ってきた、髪の長さは背中の中ほどまであるロング、目は切れ長で鋭く、唇は色がピンクで薄い、クールビューティ系美女だ。しかも、ケモミミである。



この耳は…… あまり動物の耳には詳しくないけどキツネの耳みたいだ。



「俺たちのクランに、この子を移すことになった」


「それは本人の意思ですか?」

受付嬢が真剣な表情で智也の目を見る。


「はい、僕の意思です」


その目を数秒間見つめていた受付嬢だったが。意思がしっかり伝わったようで。


「分かりました、そのように手続きいたします」

その後、簡単に移行の理由を聞かれたが、ゼルバから聞いた話をもとに適当に話しておく。


クランを移行すること自体は簡単で、移行したいと思っている本人に理由を聞くだけらしい、手続きって言っても確認だけなんだな、と思っていた時。


「おい!! 俺たちはまだ納得してねえよ!!」

ハゲとその他2人が来た。まだ諦めていなかったようだ。


「本人の意思に基づき、クラン移行の処理がなされましたが?」

受付嬢が冷たい目でハゲを見る。


「そのガキに意思なんてもんはねえ、そいつらに騙されたんじゃないか?」

ハゲがそんな言い訳をしながら食い下がる。


「しかし本人に確認をとったところ、移行の意思は硬いようですよ?」


激しく頷きながら同意する智也。


「前にクランの移行を申告した奴がいたけど、もっと時間かけて調査いたしますって感じでギルドの対応も保留って感じじゃなったか? なんでこのガキだけ、ひいきしてんだよ!!」


デブが口をはさんでくる。


「はぁ」

受付嬢が溜息を吐いた後、めんどくさそうに説明する


「あの時は、痴話喧嘩のような形だったのでクラン内の話し合いで解決したんです。そもそも、あなた達とこの子はとても目立っていましたし、もちろん悪い意味でですけどね。状況を把握するも何もって感じですし、いつも彼に対して、酷く当たっていたのを把握しています。ですが、受付嬢は冒険者に対してあまり口出しすることはできないので黙っていました。そして冒険者は他のクランに対して、基本は口出し出来ませんが、救出計画が水面下で進んでいたみたいですよ?」


そう言って、ゼルバを見るお姉さん。


「ああ、この事件が無くても、俺たちは元々ヒューの事を引き取るつもりだった。同じ冒険者として見かねていたからな、それに他にも同じ考えを持った奴等もいたみたいだぞ」


そう言って冒険者ギルドの中を見渡すと、こちらを心配そうに窺う冒険者たちの姿があった。


この世界の事は、まだよくわからないけど、俺は相当運が良いみたいだ。


「くそっ!! お前ら、行くぞ」


そう言ってその場を去るハゲ達、まさにテンプレである。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ちなみに【イノセントロンド】のクランランクはB、【シャンドゥシャス】はCです。


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