【第2話】絶体絶命
拝啓
草木が生い茂る今日この頃。
母上様。お元気でしょうか?
私は今、人生で2回目のピンチに陥っています。1回目は死んだけど。
智也の眼前には、人間には似ても似つかない、二足歩行する豚のような化け物がいた。手には大きな斧を持っており、人間程度の首であれば、一撃で切り落とすことが出来そうだ。
これはオークとか言うやつなんじゃ…… 焦るな俺。まだそうと決まった訳じゃない。多少…… いや、相当気持ち悪いが、こういう風貌のおじさんかもしれない。この世界の人間は皆こういう風貌なのかもしれない。
とりあえず挨拶してみよう。
「ハ、ハロー。コンニチワ。ワタシノコトバ、ワカリマスカ?」
………。
挨拶に対して無反応なオーク。しかし目線は智也をしっかりと捉えており、どうやら観察しているようだ。
ん? 攻撃してこないし言葉が通じたのかな? この様子を見るにシャイなおじさんなのかもしれない。
少し安心したのもつかの間。
―――フゴ―!!
オークが斧を振りかぶる。
少しの間、考える素振りを見せたオークだが、目の前の獲物に強い力を感じ無かったので、気にしないことにしたようだ。
まずい!! やられる!!
目の前に迫る斧を必死に避けようとするが、体が思うように動いてくれない。
万事休すかと思われた。その時。
―――ヒュン!
そんな音と共に、一本の矢がオークの頭部めがけて飛んできた。矢はそのまま頭部を貫通し反対側の木に刺さる。振りかぶった斧を地面に落とすオーク。2秒ほど停止していたが、目から光が消え、そのまま横に倒れた。
あれ、矢って貫通するものだっけ? ゴリラが矢を放ったのかな?
そんなことを考えていると。矢が飛んできた方向から人がやってきた。
「おい、怪我はないか?」
大剣を背負った赤い髪の男が智也に話しかけてくる。その後ろには弓を持っている金髪の女、大きな盾を持っている大男 、とんがり帽子をかぶった魔法使い風の女が立っていた。
とりあえず、言葉は通じるみたいだな。良かった、通じなかったら身振り手振りから始めないといけないしな。まずは第一関門突破って所か。
「だ、大丈夫です。」
智也は自信なさげにそう答えた。
「その服の血は!? 大けがじゃないのか?」
大剣の男が驚いた顔で話しかけてくる。
「いえ、これは」
見やすいように服をまくり上げる。とりあえず大きなケガがないことを確認するとホッとする4人。
「お前、確か【シャンドゥシャス】の荷物持ちだったな。なんで荷物持ちが、一人でこんなところにいる?」
今度は盾を持った大男が話しかけてきた。
不味いな、シャンドゥシャス? 分からん。多分、パーティ名とかクラン名だろうけど、この世界にはそういう概念があるのか、というか荷物持ち!? 滅茶苦茶弱そうだな、もとの体の持ち主。
その時。
『弱く…… ないもん……』
―――!?
何か聞こえた気がしたが、4人は喋っていないし、聞こえてもいないようだった。周りを見渡すも、自分を含めこの場には5人しか存在しない。
なんだったんだ、今の声。不安による幻聴か? まあ、それよりも今はこの場をどう切り抜けるかが勝負だな。
「あの、えっと……」
それ以上話すことが出来ないので、じっと黙ってしまう。すると、彼らがメンバー同士で目配せして、頷き始めた。
「ねえ、あなた」
金髪の女が話しかけてきた、よく見ると目鼻立ちが整っており、体も出るとこは出て引っ込むところは引っ込み、とても良いプロポーションだ。正直、顔も体もタイプである。
「あ、あの、さっきはありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
「気にしなくていいのよ。それで、もし嫌じゃなかったら、私たちと一緒に街に帰る?」
笑顔でそう提案してきた美人なお姉さん。
「え、いいんですか?」
怪しまれていると思っていたので、少しだけ肩透かしをくらった気分だったが、すかさずそう答える。
こんな怪しい奴を、なんて良いおっぱ、あ、違う違う。なんて良い人たちなんだろう。
「自己紹介がまだだったな、俺たちはクラン【イノセントロンド】のメンバーだ、俺の名はゼルバという」
「エレナよ」
「ボッカスだ」
「セイレン」
順番に大剣の男、おっぱい、盾の男、魔法使いの女が自己紹介した。
「えーと、その」
そこで、また言葉に詰まってしまう智也。
ま、まずい…… ここで何か言わんと確実に怪しまれる。流れ的に自己紹介しないといけないよなぁ。でも名前分からんし、どうしよう。
そのように悩んでいると、何かを察したように、優しい笑顔で智也を見る4人。
「無理に喋らなくて良い。つらかったな、日々のお前を見てれば大体想像はつく」
そう言ってゼルバが智也の肩に手を置いた。
「話は歩きながら聞くからゆっくりでいいわよ」
エレナが笑いながらそう言ってくれる。
それから、街に向かい森の中を歩く5人。皆、智也に歩く速度を合わせてくれている。
話すったって、なに話せばいいんだよ、俺、全然この世界の事も、この体の持ち主のことも知らんし。先ずはどうやって情報を入手していくかが問題だな。
深刻な顔をし、そんなことを考えながら、とぼとぼ歩く智也。それを暖かく見守る4人。
(ひどいな、この様子だと、パーティーに置き去りにされたのだろう)
(ひどいわ)
(むごいことをする)
(最低)
と、それぞれ勘違いするのであった。
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