【第10話】パチンコ爺

話を終えた智也がマチの目の前で、水と空気で覆った気を放つ。壁に向かって進んでいた【気】が壁に当たる直前に消滅した


「壁に当たる直前で消えた?」


「ここまではコントロールできるようになった」


「すごいな、これなら勝てるかもしれない」


「ああ、敵にどんな奴が居るかは分からないが、負ける気はさらさらないさ」


「あいつがいない今なら勝てると思う」


「あいつ?」


「魔法道場に通っていたバルスという男がいてな、そいつがとてつもなく強いんだ」


「何魔法の使い手なんだ?」


「火と土だった気がするが」


火は攻撃力の高い魔法、土は防御力の高い魔法が多かったな、なるほどそれは強そうだ。


「でも、奴の強さは魔法だけじゃないんだ」


「ほう」


「奴は気も使うことができる」


「なんだと? ちなみにそいつは何歳ぐらいなんだ?」


「見た感じ30ぐらいだと思う、詳しい年齢は知らない」


「そのぐらいの年齢で魔法と気を、両方戦闘で使える奴っているのか?」


「戦闘じゃなければいると思うが、戦闘となると私はそいつ以外に見たことがない」


聞いた感じは天才タイプ、だがそいつがいない今はチャンスか。


「色々興味を持つ奴でな、今はどこかに旅をしていると聞く」


「へー詳しいんだな」


「まあ元々、奴はこの道場にも通っていたからな」


「そうなのか?」


「ああ、私の兄弟子というやつだ、実際あいつに教えてもらったことはないけどな」






試合当日。


試合は公平を期すために剣術道場を借りることになった。街の皆も興味津々で集まってくる。その中にはギルドで見かけたことのある冒険者の姿も、ちらほら見えた。



出場選手の紹介が行われる。


試合に出場するメンバーは


チーム気道

・ヒュー

・ゲン

・道場周辺で遊んで居た子供×3


チーム魔術

・キキ

・カイカイ

・リンキ

・オウ

・ヘン


このようになっている。


気道チームはそこら辺にいた子供3人をチームに入れた。

子供たちは試合開始と同時に降参を宣言する事になっている。


そしてゲンだが、こちらは気道道場の門下生であり、なんと90歳のお爺さんだ。

この試合の話を聞きつけ「わしも出るぞい、マチちゃんのためじゃ」と言って出ることになった。


事前に無理はするなと言ってあるので、無理することはないだろう。


ちなみに道場でヒューがマチとのマンツーマンなのは、道場にあまり生徒がいないのもあるが、ただ単に他の門下生と通う時間帯が合わないだけである。


話を戻して、チーム魔術についてだ。

チーム魔術のメンバーは全員20歳程度でそれなりにガタイも良い、どう見ても遠距離でも近距離でもこちらに勝ち目がなさそうな感じだ。


「おいおい!! なんだその、老いぼれ、ヒョロガリ、チンチクリンなガキ3匹は、俺たちをなめてんのか?」


ゲビルドがバカにしたように、こちらを見ながらそう言った。チーム魔術内で笑いが巻き起こる。


そんなこんなあったが、マチとゲビルドが道場の真ん中で握手を行うと。結界術士が20メートル四方の結界を張った。


結界の効果は

・結界の外に攻撃を出さないこと

・結界内では攻撃を浴びても人が死なないこと

主に、この2つである。


ちなみに結界を戦闘で使うことができるが、結界内に入っている生物全体の同意がなければ効力が発揮されない。よって、結界内に無理やりモンスターを引き入れても都合良いルールを作って縛ることはできない。強力な効果にはそれなりの制約があるということだ。


「これより、試合開始とする。公平を期すため審判はわたくし、剣術道場のシバが行う」


試合が開始され、会場の空気がヒートアップする。


「先鋒前へ」


「へい」

魔法チームの先鋒はキキ。


「はい」

気道チームは適当に見繕った子供。


「では、はじめ!!」


「降参します」


「気道チーム降参により勝者キキ!!」


その後も、同じやり取りが2回続いて、流石に会場の空気も冷えてきた。


「そろそろ戦えよー」「試合じゃねえぞー」「つまんねえ」

そんな声が聞こえてくる中でも、真面目に試合を進行していく審判。


「次の試合、気道チーム副将前へ!!」


「さあ、わしの出番かの。よっこらせ」


立ち上がり、トボトボと歩くゲン。


「あの爺さん大丈夫か?」「おい、おい、ヨボヨボだぞ」「またつまらない試合か」


心配する声が観客から上がる。


「マチ、あの爺さん大丈夫か?」

マチに確認する智也。


「うーん、あんまり真面目に練習はしてないからな、道場に来るときは私の胸が目当てだ」


「そうか、あまり期待できそうにないな。元々、俺だけで終わらせるつもりだから問題はないが」


「それでは、試合開始!!」


「ファイアー!」

キキが魔法で早期決着を狙う。


「ひょいっと」


その魔法を簡単にかわすゲン。


「たまたまだろ、もう1回、ファイアー!!」


「あらよっと」


すいすい避けていくゲン、その動きは洗練されていて一切の無駄がない


「あの爺さんすごいな」


「ああ、こんなに動けるとは予想もしてなかった」


「でも、避けてばかりじゃ勝てないぞ」


「そうだな、ん? ゲン爺が何か取り出したぞ」


ゲンが取り出したのは、パチンコ玉のような物だった。それを爪ではじくゲン。

「お主のような若造など、これで十分じゃ」


次の瞬間、相手のあごにヒットしたパチンコ玉は床に落ちた。それと同時に、白目をむいて床に倒れるキキ。


近寄って状態を確認する審判。

「判定の結果、魔法チーム戦闘不能により勝者ゲン!!」


「あの爺さんスゲー」「なんだ!? なんだ!?」「かっけ―」

色めき立つ観客たち。


これは、予想外だ。この様子だと、ゲンの爺さん1人で全員倒せそうだな。





「次の試合、始め!!」


さっきの試合と同じように魔法を避けるゲン。そして、魔法を撃ちまくるカイカイ。


「どうした若いの、もうおしまいかの?」


余裕の表情で避け続けるゲンだったが


―――ゴキッ!!


突然、大きな音が会場に響き渡った。


「ギブ、ギブアップじゃ」


調子に乗って動き回ったゲンが、腰を痛めたようだ。


「気道チーム降参により、勝者カイカイ!!」


マチに肩を担がれ智也のもとに来るゲン。

「後は頼むぞ、若者よ」


「ああ、任せろ」


そうしてついに智也の出番となった。


「ついにヒョロガリの出番か、おいコテンパンにしてやれ!!」

ゲビルドが指示を出す。


「言われなくても本気で行きますよ」


(やれやれ、何でこんなガキを相手にせんといかんのだ)


「それでは、試合開始!!」


「ウォーターボール!!」

カイカイのウォーターボールが智也に向かう。


「甘いんだよ」


足に気を集中させて横に避ける、そして素早く距離を詰め、目の前まで迫る。


「な、なに!? は、早い!!」

直ぐに魔法を放とうとするが、それよりも早く智也が動いた。相手の右側を陣取り、ボディブローを打ち込む。


「ぐはっ」


相手は膝をつく。


「降参するか?」


「だ、誰が降参など」


「そうか」


容赦なく顔面に膝蹴りを入れる智也。白目をむいて後ろに倒れこむカイカイ。そして、完全に意識を手放した。


「戦闘不能、勝者ヒュー!!」


智也を心配そうに見守っていたマチだが、ホッとした様子だ。




一方、ゲビルドは意外にも冷静にその様子を見ていた。


「ふん、あの爺さんを相手にした疲れもあり、油断でもしたんだろう。まあ、いつまでもまぐれは続かんさ」

そう言って余裕な顔をしている。



こういう試合は初めてだが、意外に何とかなるな。


智也はさっきのゲンの試合を見て避ける動きを真似している。そして今の試合に取り入れたのだ。


「次、両者前へ!!」


智也とリンキは、互いに中心まで行くと目を合わせる。


「試合開始!!」


「機動力を奪ってやる、アースサンド!!」

リンキが先手を打った、アースサンドは一時的に地面を砂漠化する魔法で、素早く動きにくくする効果がある。


ちなみに地面が土でなくても有効である。


ほう、少しは頭を使ってきたな、さてどうするかな。


まだ2試合残しているため、力を温存したい智也は消費する魔力や気をなるべく小さくしたい。


行動を起こすために準備を整えた智也。


「気道を習っているものは、基本的に遠距離が苦手だと聞く、これでこちらが一方的に攻撃できる」


そんなこととも知らず得意げに語り掛けてくる相手。


「そんなに、無駄話してていいのか?」


「なに?」


次の瞬間リンキの目に砂が入った。


「がっ、いつの間に砂の魔法を唱えたんだ?」


「馬鹿か? 砂ならここに沢山あるだろ?」


「ば、ばかな。いつの間に掴んで投げたんだ。そんな素振りしてなかっただろ!!」


「さあ、知らないな」

タネをあかせば単純な話で、エコーに下に敷いてある砂を纏わせた風魔法を乗せて、それを相手の目にめがけて放っただけだ。生活魔法の風のみを使って砂を巻き上げるだけだと、出力が足りないだろうし、仮に成功しても避けられる可能性があったので、音波に風と砂を乗せ飛ばしたのである。


(目が痛い、だが早く目を開かないと!!)


砂が目から取れて目を開けたときには視界に智也はいない。


「どこだ?」


「ここだ」

相手の懐に潜り込み、屈んだ姿勢から相手のあごを目掛け拳を突き上げる。


そして、見事なアッパーが入って吹っ飛ぶリンキ。

落ちてきてそのまま床に崩れ去った、その姿は誰が見ても分かるぐらい伸びている。


「戦闘不能により勝者、ヒュー!!」


「いいぞー」「面白くなってきたー」「最高だぞ坊主ー」


ここにきて会場も、盛り上がりを見せる。

しかし、ここで試合は休憩となった。


リンキを倒して、残りはあと2人。勝負の行方はどうなるのか。


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