【第27話】そこに山があるから
街に帰り、冒険者ギルドに向かった4人は、クエスト達成の報告と、クエストの受注を行った。翌日準備を行い、翌々日からルグル山脈に向かう予定なので、山脈の探索クエストを受けておくのだ。
ルグル山脈のクエストは主に3つある。
1つ目が、大型モンスターの盗伐。これは森や草原のクエストと同じだ。
2つ目は、採取クエスト。これは鉱石の採掘や薬草の採取になる。
3つ目が、山脈の探索。探索クエストは、特に何か指定されているわけではないが、持ち帰る素材や討伐したモンスターによって報酬が変わるものだ。なので、目標が明確な、1つ目や2つ目に比べてモンスターや採取物の報酬単価は低くなる。
今回受けるのは、この3つ目にあたる。何か討伐目標がいて、向かうのではなく、モンスターに出会ったら討伐したり、採取を行ったりする予定だ。
ルグル山脈までは、そもそも広大な森があるので、そこを抜けるのにも時間がかかる。そのため、クエストを受注してから1か月は、クエスト達成までの猶予があるので、準備が整ったら行けばよい。
そして、出発の日になった。
西門に集合する4人。朝早いこともあり、朝が苦手なレイブンは、まだ眠そうにしている。山脈に向けて門を出る一行。この辺は、低レベルなモンスターしかいない草原なこともあり、皆それほど緊張などはしていないようだ。草原を抜ける際に、ビッグラビットなどに襲われたが難なく狩っていく。
そして森に入る。森に入ると、早速ゴブリンが集団で襲ってきたが、ヒューが一人で対応する。剣の練習にもってこいなので、皆に断りを入れてから1人で戦っているのだ。ゴブリンを倒し終え、再び歩き始める。
ちなみに、モンスターと戦っている時以外は会話しながら移動している。
それぞれと話してみたが、ロバートは主に武器の話、レイブンは戦い方の話、ダリアはずっとからかってくる。
ロバートには、大剣の話を詳しく聞き、自分も使ってみたいという話もした。すると、街に帰ったら一緒に大剣を選んでくれることになった。
「ねぇ、ヒュー君は彼女いるの?」
「え? いないけど」
「じゃあ、食べちゃっても平気よね」
「え?」
このように時折、魔性の女ダリアにからかわれながら森を進む。
ゴブリンやオークを倒しながら、森の中を進むと、ちらほらと野営ポイントが目立ってきた。しかし、まだ昼頃なので、簡単に昼食だけ摂り先に進む。持ち運べる食料は、乾パンと干した果物や肉がメインだ。なので昼食は干し肉だった。
干したものばかりじゃ物足りないので、近くの木に実っていた果物をもいで、食べながら歩く4人。
特に何もなく進んでいたが、ヒューが何かに気づき立ち止まる。
「どうした?」
ロバートが訝しげにヒューの顔を見る。
「何かいる」
そう言われて、辺りを確認する3人だが、なにも見当たらない。そもそも、この森にいるモンスターは近づくと直ぐに分かる。
ここでヒューは、生活魔法のエコーの話をしようか悩む。クエストの際は定期的に全方位に放つようにしているのだ。しかし、エコーはオリジナルの魔法であり、現代知識がない人間には説明しづらいので、ざっくりと説明する事にした。
「魔法で気配を察知出来るんだ」
「なるほど、そうなのか」
ヒューを信頼しているレイブンは、すんなりと受け入れる。
「それは、どこにいるんだ?」
ロバートは周りを見渡しながら、背中に背負った大剣を鞘から抜く。ロバートの大剣は、無骨というよりスタイリッシュなデザインをしている。
「ダリア、ロバートの右斜め後ろを狙ってサンダーアローを」
ヒューはダリアに耳打ちをする。
「サンダーアロー!!」
ロバートの斜め後ろにサンダーアローを撃つ。すると、「ぎゃ」という鳴き声が聞こえ、姿が露になる。カメレオンのような姿をした1メートル程のモンスターが黒焦げになっていた。
「何だこのモンスターは」
「見たことないぞ」
「なんか気持ち悪いわね」
興味津々といった感じで、黒焦げ死体を見る3人。ヒューは別にそこまで興味はないので少し離れてその様子を見る。
ギルドの本でも見なかった、もしかして新種のモンスターか?
一応サンプルとして、焦げたカメレオンの一部を採取し、先に進む一行。次に同じような気配がしたら、サンダーアローの威力を調節するか、レイブンが素早さを生かして突撃を行い一瞬で仕留める事にした。
しかし、それ以降、気配を感じることは無かった。
そうこうしていると、日が暮れてきたので、野営ポイントを見つけ野営を行う事にした。
テント係がロバート、手慣れているため1人で直ぐに準備できるらしい。
食事係がヒューとダリア。いつも食事係をしているらしいダリアがヒューを指名した。
レイブンは、見張りと薪集めだ。
それぞれの仕事を開始する。ロバートが一人で、てきぱきとテントを組み立てる、テントは2人用らしい。これは2人が見張りで2人が寝るため、わざわざ4人用を買って装備を重くしたり、金を無駄遣いしたくないから、だそうだ。本当は4人パーティらしいが、1人が急用で、今回の旅についてこれなかったらしい。
食事は、途中で倒したビッグラビットの肉を焼く。それと、干し肉と野菜を入れてスープを作る。ヒューはスープを作る際に、スモールボアの骨を持ってきたことを思い出し、沸騰したお湯にそれを入れる。
「え? 今何を入れたの?」
「ボアの骨だ」
「骨なんて食べれないわよ」
「出汁が取れるんだよ」
「ダシ?」
「それがあることで味に濃厚さや、深みが出るんだ」
そのあとアクを取り、なんとなく出汁が出たなと感じたら、野菜などを入れた。もっと細かい出汁の取り方があるような気がする。しかし、ヒューは料理に明るくないので、細かいことは気にしないことにした。実はこの世界でも、出汁を取る技術はあるが、大抵が門外不出として、王宮や貴族の料理にしか使われていない。
レイブンは、薪を拾った後に一人で特訓している。
食事が出来たので、皆で食べるが、スープが好評だった。
寝る時間となり、見張りは、ロバートとレイブン、ヒューとダリアのグループになる。このグループ分けは、ダリアの我がままで決まった。
見張りの時は良いが、寝る際も一緒なので、ヒューは、ほとんど眠れない悶々とした夜を過ごした。
そして次の日の朝、ヒューは目覚めるとテントを出る、するとレイブンが木の棒を振って特訓していた。どれだけ戦うことが好きなのだろうか。ちなみに眠ったまま棒を振っている。
そして、朝食として、近くの木になっている果物を食べ、出発する一行。野営スペースの近くには、食べられる実がなる木を植えているらしい。
昨日に引き続き、モンスターを倒しながら進むが、徐々にモンスターの数が減ってくる、そして山のふもとが見えてきた。この辺りからは、山から強いモンスターが下りてくることもある。そのため、Aランクハンターが3人いると言えど、注意しなければならない。
山に生息するモンスターは基本的に、森にいるモンスターの亜種となる。山の過酷な環境で生き残るために強さを身につけたのだろう。特に注意しなければならないのが、Bランクモンスターであるマウンテンエイプだ。仲間を呼ぶ習性があるため、一流の冒険者でも油断できない相手である。
早速モンスターを発見する。豚のような顔、黒い岩のような肌、あの特徴はマウンテンオークである。通常のオークはDランクだが、マウンテンオークはCランクモンスターだ。
しかし1匹しかいないので、レイブンが速やかに処理する。
そして、ついに山のふもとまで到着した。木々に囲まれた山道が見えるが、始まり地点に看板が立っているので内容を読んでみる。
《この先、ワイバーンが出るので危険!! 冒険者以外の立ち入りを禁止する。冒険者以外が立ち入る場合、正式に申請が必要なので注意されたし》
このように書いてあった。
「ふん、ワイバーンごとき、この俺が一人で倒して見せるさ」
レイブンが息巻くが、確かにレイブンの実力ならA-ランクのワイバーンは倒せるかもしれない。しかし、油断は禁物である。基本的にモンスターのランクが冒険者ランクより、一階級以上低い場合しか安全に対処できない、と言われている。AならB、BならCだ。
レイブンを先頭に、山に足を踏み入れる4人。そして、未知の冒険に胸が高鳴るヒューだった。
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