【第28話】ミミック?
山を登り始めた4人。3人がAランクなこともあり、平地よりも強力なゴブリンやオークを簡単に屠っていく。少し進むと岩が平らになっており、座りやすそうだったので、ここで昼食を摂ることになった。
3人が座り、ヒューが見張る。すると、座ったことで油断したと思ったのかマウンテンラットが襲いかかってきた。ヒューは、そのマウンテンラットを素早く切り捨てる。干し肉を食べようと思っていたが、ここで火を起こし、討伐したラットの肉を焼くことにする。
腹を満たした4人は、少し休憩を取ってから、再び歩き始める。道中にある、山にしか自生しない薬草を採取しながら、歩を進めていく。すると、山道の横に洞窟の入り口が見えてきた。
「どうする?」
3人に確認を取るロバート。
「俺は行ってみたい」
「私はいいわ」
「俺も行きたい」
その結果、レイブンとヒューが洞窟に。ロバートとダリアがこの周辺で採取や討伐を行って待つことが決まった。
「早めに、探索して帰って来いよ」
「了解」
洞窟に足を踏み入れる2人。ライトの魔法を発動し、歩を進めていく。ヒューは生活魔法の習熟度が高いので、魔力消費を極限まで抑えて長時間発動できる。
「なにも、いない」
残念そうな顔をするレイブン。
「山に登ってそれほど経たないところにある洞窟だし、探索しつくされてるんじゃないのか?」
「そうかもしれないな」
そのまま、進むと道が2つに分かれていた。2人でどちらに進もうか話し合った結果右から行くことになった。右の道に行く前に、来た道の真ん中に、魔物除けの液体を染み込ませた布を石に巻きつけて設置する。これで、ここまで戻った際にどこから来たかが分かるようになる。魔物避けの液体を染み込ませたのは、万が一モンスターが付近を通っても目印を移動させないためだ。
奥に進むと、行き止まりになっていた。
「ここまでか?」
「道としてはそうだが、上を見て見ろ」
ヒューは上を指さした。それに従い上を見上げると、ひと一人が通れるような穴が続いていた。
「この穴は、無理そうだな」
「引き返そう」
2人は分かれ道に引き返そうとした、その時。何かの気配が近づいてくる。場所は、先ほどの穴だ。その穴から大量のコウモリが出てきた。このモンスターはルグルバットというルグル山脈の洞窟に生息するモンスターだ。
風魔法で、一掃しようとしたレイブンだが、ヒューがそれを制した。
「どうした?」
「試したいことがある」
「分かった早くしろ」
ヒューは生活魔法の汎用性について、ずっと研究してきた。生活魔法には殺傷力が無い。しかし、属性や、型にとらわれず、様々なことが出来ることに気づいた。それを実戦で試そうとしている。
「耳をふさげレイブン」
言われた通りに耳をふさぐ。次の瞬間。
――――ワッ!!
ヒューが大きな声を出す。するとコウモリが落下してきた。コウモリは耳が良いので生活魔法で音を増幅させて放った結果、鼓膜が揺さぶられて落ちてきたのだ。
「すごいな、ほとんど魔力の発生を感じなかった」
「ああ、生活魔法を応用しただけだからな」
「そんなこともできるのか、生活魔法も馬鹿にできんな」
「ああ」
2人は落ちてきたコウモリを仕留めて、アクセサリーに使われる事の多い牙を採取する。そして、そのまま来た道を引き返し、分かれ道まで戻ってきた。
この段階になり、ヒューはほとんど、この洞窟の形状を把握していた。この世界に来る前を含めても洞窟の反響音をモニタリングしたことが無いため最初は分からなかった。しかし、洞窟内でエコーを使用し、実際に突き当りまで歩いたことで、洞窟に向けてエコーを使用した際の反響を感じることが出来るようになった。
「左の道は少し進むと、小さな空間があって、その真ん中に何かあるけど行くか?」
「そんなことまで分かるのか」
「ああ、森で色々試したからな。洞窟の感じも把握できてきた。さすがに全く動かないモンスターを認識することはできないが」
「一応行ってみよう」
左の道を進む2人。しばらくすると開けた5メートル四方の空間に出た。真ん中に目を向けると、そこには、宝箱があった。しかし宝箱を見つめて絶句する2人。
その宝箱からは、腕が生えていた。
「なんだこいつ」
「ミミックだと思う、というか100%ミミックだがどうする?」
普通ミミックは完璧に宝箱に擬態して、冒険者を待ち構えて仕留める。しかしこのミミックは擬態が下手すぎた。2人は少しだけ悩んだが、倒すとレアなアイテムを落とすことがあるため、討伐することにした。
ヒューはライトの魔法を使用しているので、レイブンが戦うことになった。
先手必勝とばかりに、真正面から突撃するレイブン。レイピアでミミックの宝箱部分を攻撃しようとした。するとミミックが、擬態を解き横移動し、その攻撃を避ける。宝箱は本物を使用していることもあれば、擬態で宝箱になりすます場合もある。今回は下手な擬態なので、レイブンはそのまま箱部分を狙ったのだ。
擬態を解いたミミックの見た目は、人間に近い。しかし、頭が大きく、顔には大きな口しか存在しない。回避したミミックの後を追い、レイブンが再び突きを繰り出す。その突きは回避できないと思ったのか、ミミックは右手でガードする。が、レイピアに螺旋状の風魔法が付与されており、そのまま腕ごと貫いた。まるでドリルのようだ。
右腕を失ったミミックは、左手でレイブンに反撃するが、その手も同じように貫かれ、今度はそのまま頭を貫かれる。頭に風穴が開いたミミックはその場に倒れ、口から斧と鎧を吐き出した。きっと、低ランク冒険者が、山に登って、この洞窟に入りやられたのだろう。
戦いが終わりレイブンがレイピアを腰に戻す。
「おつかれ」
「ああ、もう少し手ごたえが欲しい」
「ワイバーンと戦えるといいな」
「ああ、そのために来たからな」
そんなやり取りもあり、ドロップした斧なども大したことが無かったので、その場を後にする2人。洞窟から出て、ロバートとダリアを探す。すると、2人が少しだけ山道を登った所で、オークの群れと戦っていたためそこに合流する。
男三人で、オークを倒し、逃げていくオークはダリアが魔法で仕留めた。
「早かったな、洞窟はどうだった?」
「つまらんかった」
つまらなそうな顔をしてレイブンが答える。
「なんか大きな声が聞こえたが」
「あれは、ヒューの魔法だ」
「そうだったのか」
「声を大きくする魔法なのかしら?」
「そうだ」
ダリアが詳しく聞きたそうだったので、野営の際に仕組みを説明する約束をした。その後、山頂に向かって歩き続ける。ワイバーンは山頂付近に生息しており、そこまでは主にオークが出現するため苦戦はしないだろう。
オークを倒しながら少し登ると、辺りが暗くなってきたので、その場で野営をすることにした。今回も同じように、テントはロバートと言いたいところだが、山道が斜面になっておりテントが上手く張れないため、テント無しの野営となった。平面な部分はあるのだが、テントを張れるほど広くはない。レイブンに見張りを任せて、3人が夕食を作る。
「今、丁度山の半分あたりか?」
「多分そのあたりまで来てる」
ヒューとロバートが会話をする中、ダリアが早速、オークの骨で出汁をとる。スープの具材にはオークの肉と干した野菜を入れた。それとは別にオークの肉を焼いて夕食は完成だ。
夕食を食べながら、洞窟内であったことや、その間、外の二人はどうしていたかを話し夕食が終わる。寝る時間になったので、先ずは、ヒューとダリアが見張り役になった。
約束していた、音増幅魔法(アンプ)についてダリアに話す。その際にエコーについても詳しく説明した。すると、原理が理解できたようで、ダリアも少しだけ使えるようになった。しかし、生活魔法のレベルが低いせいかヒューのようには使えない。
そして、見張り交代の時間になり眠りにつく。朝になり、朝食を摂った4人は再び歩き出した。
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