【第6話】魔法?なにそれ美味しいの?


伸びをしながら目覚める。


良く夢を見る智也だが昨日の夢はいつもとは違っていた。いや、あれは夢ではなかったのだろう。眠りについたと同時に、ヒューの記憶と思わしきものが、ゆっくりと智也の中に流れ込んできたのだった。




窓の外を眺め、暫らくボーっとする。



生きてる俺がしけてちゃ、あいつに申し訳が立たんな。

そんなことを考えながら、気合を入れてベットから起き上がった。






それから1週間が経ち。


智也は貴族の家で子供に勉強を教えていた。


クランメンバーはとても優しいので「無理するなよ」とか「あんなことがあったんだからもう少しゆっくり休めば?」と言ってくれたのだが、さすがに自分の食い扶持ぐらいは稼ごうと思ったのだ。


やはり、と言ってはなんだが異世界の数学は地球と比べて遅れているので智也にも難なく教えることができた。しかし、こんなことばかりしていては1流冒険者として名を轟かすことなどできない。


冒険者など危ないことはせずに、家庭教師をして平穏に暮らしたいという気持ちが全く無かったわけではない。だが、智也には冒険者としてやっていかねばならぬ理由が存在していた。


その理由の1つは、ヒューの夢である。


ヒューは孤児院で育ったが、そこに定期的に物資を届けたり支援してくれる冒険者がいた。その冒険者は名をグライドといい、ヒューはその人にあこがれて冒険者になった。


グライドはSランクギルド(剣士の宴)のリーダーで、年齢は60歳だったが、引き締まった肉体とキリっとした顔立ちによって、全くその年齢に見えず、皆40歳ぐらいだと勘違いしていたほどだ。


青髪をオールバックにしており、優しそうだが目力が強く、まさに「イケてるおじさま」といった感じで女性からの人気も高かった。彼は物資を届ける以外も、旅の話をしたり、ワクワクするような話をたくさんしてくれた。



そんな平穏の中。


この街を【ブラックドラゴン】という、途方もない力を持ったモンスターが襲う。そこで冒険者ギルドは、マウラの街にいる、全クランに対し緊急クエストを発令し、グライド率いる【剣士の宴】も参加することとなった。グライドは全軍を率いる総大将に任命されたが、司令塔というよりは自らが切り込んで、味方を鼓舞するタイプの冒険者だったため、いつものように部隊の先頭に立つ。


そして、冒険者達がドラゴンのもとにたどり着き、戦いの火蓋が切って落とされた。




参加した冒険者は、ブラックドラゴンという強敵と相対することで、いつものような力が発揮できず、委縮してしまっていた。そんな中、グライドは自ら先頭に立ち、冒険者たちを鼓舞する


「俺たちなら勝てる!! 自分の力を信じて戦え!! 恐れるな!! お前達にドラゴンの攻撃が襲いかかろうとも、俺がこの剣で切り裂こう!!」


ブレスを切り裂きながらドラゴンに迫るグライド。


「俺は、俺たち冒険者の方が強いと信じている!!」


その背中はとても大きく。そして、とても頼もしく見えた。


先陣を切るグライドの放った言葉だからこそ、冒険者たちの心に響き、皆の心にやる気が満ちてくる。剣士達は果敢に切り込んでいき、魔法使いは遠くから攻撃魔法と補助魔法を使う。そこからは、ドラゴンと冒険者の一進一退の攻防が続く。





どれほど時間が経ったであろうか。




そしてついに、ドラゴンが大きな悲鳴を上げる。




皆が思った。


討伐まであと少しだ。



そんな時、ドラゴンが今までと違った行動をとる。負けると、本能的に理解したのだろう、自滅覚悟で全魔力、全生命力をつぎ込んだブレスを放つ。


「全員下がれ!!」

味方全員を撤退させると同時に、そのブレスを1人で受け止めるグライド、魔法使い達も遠距離から必死で補助魔法をかけるが、強烈なブレスの前に、効果は微々たるものだった。


グライドも全部の力を注ぎ込んでブレスを押し返す。


まるでそこの空間だけ時間が止まっているようだった。


だが、ブレスの威力が強すぎるため。


ドラゴンとグライドの体が消滅していく。


次の瞬間。


――――ガキン。



大きすぎる力と力のぶつかり合いによって、グライドの剣が砕けてしまう。




そして、辺り一面を真っ白な光が包み込んだ。








光がと音が消え去った後。



その場には、体の表面が半分ほど溶けて動かなくなったドラゴンと。



ボロボロになった折れた剣だけが佇んでいた。


結果として、ブラックドラゴンという強大な敵との戦いで戦死者は【1名】、それは快挙なことである。


しかし、その戦いの参加した冒険者は誰一人としてその結果を喜びはしなかった。






その後、リーダーを失った剣士の宴は解散となる。


孤児院でその訃報を聞いたとき、ヒューは思った「僕にもっと力があれば、助けることができたかもしれないのに」と。


元々、グライドに憧れていたこともあり、より一層、冒険者に対しての憧れも強くなった。そんな理由もあって、俺は冒険者をやめるわけにはいかないのだ。



冒険者になりたい理由はもう1つある。

これは1つ目の理由と種類の違う話なのだが。それは、今までヒューをバカにしていたやつら、特にシャンドゥシャスのハゲたちを見返してやりたいというものだ。


子供っぽいかとも思うが、それほど腹が立っていた。


強くなって、あいつらに言ってやるのさ

『俺の荷物持ちやるか? あ、すまん俺が行くクエストにお前ら連れてったら、秒で死ぬわ』って。


本当は、今すぐにでもぼこぼこにしてやりたいが、現状この体では不可能だ。ヒューの記憶を見たことで分かったのだが剣術も魔術も才能がないらしい。


もしかしたらと思ってスキルも確認してみたのだが



スキル:剣術Lv1、生活魔法Lv10、速読Lv10


このような結果になった。

参考までに一般的な冒険者(剣士)をのせておく。(サンプルデータはギルドで確認できる)


スキル:剣術Lv3、体術Lv2、生活魔法Lv2、炎魔法Lv1


ちなみに、何度試しても出来なかったステータスオープンについてだが、この国では14歳から働くため、14歳になったら教会に行き、ステータス解放の儀式を受ける。


その儀式とは、神官の立ち合いのもと実行され、神の像の前で祈りをささげる。そうすることによりステータスが解放されスキルを授かるのだ。


そしてステータスは目に見えない数値のため見ることが出来ないが、儀式を受ける前と後では大きな違いが現れるようだ。スキルに関しては、儀式を受けた後なら各ギルドで確認が行えるようになる。


話を戻そう、問題のステータスであるが、一見すると10Lvが2つもあるため、良いんじゃないのと思うかもしれないが、なんと、俺の持っているスキルの2つはいずれも、はずれスキルと呼ばれている。


ちなみに、この世界の最高値と言われているのがスキルLv10だ。

剣術スキルlv1の場合だったらモンスターと戦わなくても剣を振るだけで取得できるため、冒険者ではない子供でも持っている場合が多い。


剣術に関しては


Lv2 は少し強い素人

Lv3から初級

Lv4 で中級

Lv5以上で一流


このような感じになっている。ヒューは荷物持ちだったので剣術スキルは上がらなかった。


そして、生活魔法についてだが。これは少量の水、ライターほどの火、キーホルダーのミニライトぐらいの光、など戦闘には役に立たないものがほとんどである。


速読は、ヒューが読書が好きだったようで、冒険者ギルドの図書室や、クランにあるヒューの自室で読み漁っていたためついたようだ。スキルの効果としては、記されている視覚的な情報を素早くインプット出来るようになる。


最後に魔法についてだが、魔道具を使用しない限り、スキル欄に載っている魔法属性しか使用することはできない。そして、魔法スキルを後天的に取得出来た人間は存在しない。魔法の素質がある人間は必ず何かしらの属性魔法Lv1を取得して生まれてくる。


御覧の通り、智也には魔法スキルが無かった。



くそっ、詰んだ。転生直後は魔法を磨けば何とかなるって思ったけど、魔法スキルは後天的に取得出来ないのかよ。どう頑張ってもハゲ共を見返せないじゃないか。こんなんじゃ見返すどころか、二流、いや、三流の冒険者だってなれるわけがない。ヒューごめんな、どうにもなりそうにない。




絶望の顔を浮かべた後、頭を抱えてうつむく。




10秒ほど、経ったであろうか。


顔をあげる智也。その目に絶望はない。どうやら、諦めてはいないようだ。







そんな智也の変化を感じているものがいた。



(先生が壊れちゃった)



智也が勉強を教えている貴族の坊や(10歳)である。

その後も、十面相を繰り返す智也を優しく見守る生徒だった。





それから数日が経過し。


智也は、ある道場に通っていた。


その道場の看板にはこう書かれている。


≪なんと、今なら入門無料!! 友達を連れてきてくれたら師範の娘特製、美味しいお菓子プレゼント!! 小さい男の子や女の子、おじいちゃん、おばあちゃんも歓迎!! ぜひ入門してみてね 【気道】道場師範ゼブラ≫

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