実況:モイ 解説:ルビイ

「こんにちは!そちらの世界ではウイルスで大騒ぎしているみたいですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?実況のモイです!」

「解説を担当するルビイじゃ。ゆるりとお付き合い願おうか」

「今回は、勇者様の初戦闘の模様をお送りしますよ!」

「どんな無様な死に様を見せるのか楽しみじゃな」

「冒険に出て早々に死んだりしませんよぉ。たとえ、一般的な男性並みの筋力しかなくて魔術も使えないという一見なんの取り柄のなさそうな方でも、勇者様は勇者様ですから!」

「今の台詞を自分から吐いておいてなお、勇者の実力に疑問を覚えないというポジティブさ。妾には眩しすぎる」

「あ、早速ミューカスと遭遇したみたいですよ!」

「ミューカスとは、意思を持った粘液体のモンスターじゃ。スライムと言い換えた方がイメージしやすいかもしれんのう」

「勇者様が短剣を抜いて身構えました!どうやらやる気の様です!」

「脚が震えておるな。初々しい事じゃて」

「あ!覚悟を決めて仕掛けるようです!」

「ふむ。必死の形相でめくらめっぽうに斬撃を繰り出しておるな」

「あれ?ミューカスが地面に溶けて消えていきましたよ!これは撃破って事でいいんでしょうか?」

「うむ。ミューカスは複数の”小核”という器官を持っていて、それらを全て潰せば息絶える。今回は、滅多切りによってそれらをすべて破壊できたというわけじゃな」

「流石勇者様!ちゃんと相手の弱点を突いていたんですね!」

「いや、今回のは単なるまぐれだと思うのじゃが……」

「そんな事ありませんよ!きっと全て計算内のはずです!なんたって、勇者様ですから!」

「お主がそう思いたいなら、それでよいがな」

「現に、にじりよってくるミューカスを次々と撃破していますよ!」

「半狂乱になって、寄ってくるミューカスを防衛本能のままに斬り刻んでいるようにしか見えんのじゃが」

「ほら!十体くらいいた周囲のミューカスが、あっという間に全滅していますよ!」

「既に肩で息をしている上に若干涙目で、後続がいないかと怯えながら周囲を眺めておる。皆が抱く勇者のイメージからは程遠いように思われるが」

「あ、突然座りこんじゃいましたね。休憩でしょうか?」

「いや、自身の安全が確認できた事で緊張の糸が切れただけじゃな。体が小刻みに震えておる。これは、先が思いやられるわ」

「あ!勇者様危ない!背後からミューカスが!」

「放心していて気づいておらんな。これはマズいのう」

「ミューカスが勇者様に飛び掛かりました!一体何をする気なんでしょう!?」

「勇者の頭を粘液で覆って、呼吸を封じて窒息死させる気じゃ。この世界におけるスライムは、黙って倒されてくれるような雑魚モンスターではないからのう」

「ミューカスを頭に装備したまま、勇者様がのたうち回ってますね」

「完全にパニックを起こしておるな。このままだとあやつ、本当に初陣で死ぬぞ」

「顔から引きはがそうとして、懸命にもがいてますね」

「粘液体が、そう簡単に掴めるわけなかろう。自分の顔を切らないよう注意しつつ、短剣で小核を潰すしかないというに」

「他の手段はないんですか!?」

「魔術で凍らせるなり、高熱で蒸発させるなりすればよい。簡単であろう?」

「でも、勇者様は魔術なんてまだ使いこなしては……あれ?ミューカスが凍り付いていく……?」

「ふむ。通りがかった魔術師が助けてくれた様じゃな。こんな低級モンスターにやられ、挙句に助けまで借りるとは。とても勇者とは思えんな」

「し、失敗は誰にでもある事です!生きている限り次があります!!」

「今回のような幸運がそう何度も続くとも思えんし、先は真っ暗のように思えるが」

「でもでも!勇者様なんですよ!世界を救うために召喚されたんですよ!?」

「じゃが、あの顔を見てみよ。涎と涙と鼻水に加え、ミューカスの粘液の残りも合わさってでぐしゃぐしゃじゃ。とてもじゃないが、期待できるとは思えん」

「でも!だって!……ぐすっ」

「あーあー、わかったから泣くでない。ともかく、今回はここまでにしようか」

「ううっ……そうですね。では、また次回お会い致しましょう」

「さらばじゃ」

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勇者の活躍を実況&解説してみた PKT @pekathin

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