実況:ノマル 解説:ミイヤ

「やはー、お久しぶりだ諸君。俺の事、忘れてないだろうな?実況のノマルだ。これが掲載されるのは、君たちの世界で言うと正月を過ぎたあたりになるだろう。だから、俺達のやりとりを文章に起こしている者の代理で伝えておくことにするよ。新年あけましておめでとう。今年もよろしく頼むよ」

「ま、三が日にすら間に合わないはずだから今更なんじゃないかな?それはさておき、ミイヤの名前はミイヤ!ミイヤはこう見えても神の如き存在なんだから、侮らないよーに!今回は、暇つぶしがてら解説を担当するよ!」

「ツッコミどころが渋滞しているが、ともかく実況に入ろうか。今回の勇者は、かの世界に巣食う悪の権化の討伐を終えた、実績のある勇者だ」

「名実ともに勇者という事だね!」

「そういう事。今は、元の世界に帰る事を拒否してこの異世界で暮らしている。元パーティメンバーをはじめとする数人の親しい女性達と共に、満たされた生活をしているよ」

「本編の後日譚って感じだね!」

「小説で例えるなら、そんなところかもな。で、今はとある王女のボディーガードを務めているわけだ。もちろん、その王女は彼の親しい女性の一人だ。今回は、その模様をお届けしようか」

「りょーかい!」

「今は、どうやら王女様と市街を回っている最中のようだ。それも二人きりで」

「一国の姫君ともあろう人が、ちょっと不用心じゃないかな?」

「勇者がそれだけ信頼されているという事だろうな。それに、人混みの中に護衛達も紛れているようだし、心配は無用だろう」

「これで姫君に何かあれば、勇者の面目丸つぶれだね!」

「ま、大丈夫だろう。……お?露店の人に呼び止められているな」

「果実のようなものを手渡しているね。試食という事なのかな?」

「相手はお姫様だしな。店の宣伝も兼ねてという事なのだろう」

「偉い人に媚びを売っているという事だね」

「まあ、身も蓋もない言い方をするならそうなるな」

「どうせ売るなら、喧嘩にすればいいのに」

「それはどうかと思うが」

「だって、こんなぬるい光景なんて見ててもつまんないじゃん!どうせなら、あの果実に毒とか塗られていたら面白いのに」

「さらりと物騒な発想を挟むなよ。せっかく、勇者が自らの手で勝ち取った平和を享受しているんだから、温かく見守ってやろうぜ?」

「その平和、続くといいけどね」

「不穏な未来を予期させるような発言をしてくれるなよ。っと、今度は服屋に入ったな」

「店主らしき人が、揉み手をしながらへりくだってるね。なんか、うさんくさーい」

「どうやら、気に入った服を姫君が試着するようだ。試着室らしき個室のドアを開いて、中へ入っていったな」

「そして、ドアを閉めた瞬間に試着室の仕掛け床が開き、姫の姿は奈落の暗闇へと消えていくと」

「だから、発想がダークだっての」

「じゃあ、実は鏡の向こう側に隠し通路があって、そこに潜んでいた男達に姫が誘拐されるとか」

「発想力が豊かだな、おい。だが悲しいかな、方向が尽く間違っている」

「そして、姫は国家に敵対する者達によって散々嬲られた挙句慰み者に。一方、姫を守り切れなかった勇者は、王室内どころか市民にまで後ろ指を指され続ける事となり、ついにそれらに耐え切れず蒸発。……うん、いいかもしれない!」

「どこが!?壮絶なバッドエンドじゃねえか!」

「人の不幸は蜜の味っていうでしょ?」

「限度があると思う!今のストーリーラインは、悲惨にもほどがあると思う!」

「ミイヤ、そういう悲劇もありだと思うの」

「自分の名前を一人称にするような女の子が、どうしてそう闇の深い発想をするのか」

「それはもちろん、ミイヤがミイヤだからだよ!」

「その開き直り方は反則だと思う!その屈託のない満面の笑みも含めて!」

「物語の結末は必ずしもハッピーエンドでなくてもいいと思うの。そんな甘ったるくて温い結末、掃いて捨てる程転がってるもん」

「お子ちゃまが、掃いて捨てるなんて言葉を使うな。そして、バッドエンドを好むな。幸せが一番だ」

「それじゃあ意外性がなくてつまんないじゃん。ミイヤ思うんだ。あかずきんちゃんがオオカミの胃の中に収まったり、桃太郎が鬼にコテンパンにやられて首を刎ねられた挙句、その首が塩漬けにされたものをおじいさんたちが見てショック死するとか。そんな、意外性のあるお話の方が面白いと思うの」

「そんな童話読み聞かせたら、子供が泣くわ!」

「え?ミイヤはむしろ手を叩いて喜ぶけど。みんなそうじゃないの?」

「心底不思議そうに、こてっと首を傾げるな!それと、お前を基準に考えるな」

「浦島太郎くらいで及第点だと思うの。欲を言うなら、もう少し過激な描写が欲しいところだけど」

「これを読んでいる諸君は、間違っても自分の子供をこんな風に育てないようにしてくれ」

「ミイヤが最近ハマってるのは、シェイクスピアさんの作品です」

「訊いてねえよ!というか、実況の続きするぞ」

「そうだね!惨劇の瞬間を見逃すわけにはいかないからね!!」

「そんな期待は捨てておけ。ともかく、服屋を出て今度は宝飾店を覗くようだな」

「うわぁ、綺麗な腕輪や首飾り!」

「そういう感性はまともなのな。ちょっと安心したわ」

「その怪しい輝きによって幾多の国を滅ぼしてきた忌まわしき宝石とか、そんな曰く付きの品は置いてないかな?」

「宝飾の輝きが、途端に人を誘う魔性に見えるような発言はよしてくれ。煌びやかでありながら上品なしつらえが台無しだ」

「宝石っていうのは、人間の物欲の象徴みたいなものだと思うの」

「だから、そういうダーティーな発想はよせというに」

「手に取った宝石以上に輝くその瞳の奥には、しかし宝石には存在しえない濁りが混ざっていた」

「それっぽい語りをするな。純粋に宝石の輝きを楽しめ」

「念押しされなくても、ミイヤは純真だよ?」

「きっと、読者のほとんどは今の発言にツッコミを入れたと思う」

「あ!あの鮮血のように紅い宝石、すっごくいい!」

「確かに鮮やかな輝きだが、その表現のせいで台無しだわ」

「所有者の体にゆっくりと浸透して、そうと悟らせないままに寿命を刻々と削っていく呪いとかが付与されているとなお良し!」

「何がだよ!というか、質が悪すぎるだろ!」

「不満?じゃあ、装着した瞬間に心をのっとられて、見境なく目につく人を攻撃する精神汚染の魔術が封されているとか」

「質の悪さは変わんねえよ!」

「あれ、もしかして足りない?じゃあ、装着者と親しい人間ほど惨い殺され方をするってのはどう?」

「そういう事じゃなくて!」

「じゃあ、身体の所有権は奪われても装着者の意識は残っていて、自身の体が引き起こす凶行をまざまざと見せつけられるっていう効果を追加して――」

「もういい、それ以上言うな!あと、実況もここまで!」

「えー!もっと続けようよー。読んでる皆も、物足りないと思うよ?」

「無理!このまま続けたら、俺までお前の心の闇に呑まれる!!」

「なら一緒に堕ちようよ、果てのない深い闇の中へと。どこまでも、どこまでも一緒に……ほら、怖がらないでミイヤの手を取って?ミイヤをひとりにシナイデヨ、ネエ?」

「こいつ怖え!!お、俺は退席させてもらう!さらばっ!!」

「あーあ、逃げられちゃった。仕方ないから、貴方がミイヤと遊んで?……どうしたの?ミイヤが話しかけてるのは、今画面を見てる貴方だよ。あとでそっちに行くから、その時はいーーーーっぱい、ミイヤと遊ンデネ?闇の中でいつまでも、イツマデモ、二人キリデ踊リマショウ?ウフフ――」

























「なあんてね!冗談だよ!またいつか、会えるといいね!」

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