実況:オドリー 解説:クゼツ

「こんにちは。クストと出演数が並びました、オドリーです」

「一方で、解説はしばらくぶりの出演なクゼツが務めます。今回はね、ちょっと真面目にやっていこうかと思ってますのでよろしくお願いします」


「今回の勇者は、まさに今冒険へ旅立とうとしている瞬間なのですが……」

「おや、どうしました?」

「いえ、どうして彼は冷凍秋刀魚を握りしめて呆然としているのかと」

「え?……くっ、はははっ!!なんだありゃ!勇者が、勇者がっ!鎧はそれっぽいのに、携えているのは剣でも槍でもなく秋刀魚って!たしかに、名前に”刀”って入ってるけどもさぁ!!」

「旅立ちまでの過程で何があったのか、すごく気になるところですね」

「気になるどころの話じゃねえわ、これ!前回ははっちゃけすぎたから、今回は真面目にやろうと思ってたのに、くくっ、のっけからこれだよ!あっははは!もう無理だ!決意も意気込みも、粉微塵に吹き飛んだわ」

「何で秋刀魚なんですかね、ホント」

「それな!どうせなら”太刀”魚にでもしろって話よ」

「いや、そのツッコミもおかしいと思うのですが。まあ、今それを考えても仕方ないでしょう。動向を追っていきましょうか」

「ていうか、勇者自身も困惑してるじゃねえか!冷たすぎてまともに持てないから、尻尾の部分をつまんで持ち歩いてるのがめっちゃウケるんですけど!くははははっ!」

「おや、どうやらモンスターらしき存在と遭遇したようですが……ええと」

「は?……あっはははは!!これはアカンって!なんで、なんでだよ!?なんでいかにもモンスターらしき面構えの小鬼が、メイド服にヘッドドレス姿なんだよ!?何だこの世界!ギャグか、世界観からして全部ギャグなのか!?くっ、ははははははっ!!」

「勇者も硬直していますね……まあ、無理もないでしょうね」

「無理もないも何も、くふっ、既に世界に道理がないっ!こんなん笑うやろ!なんでその服装!?いかにもなボロきれとかでええやん!なんで、フリルたっぷりで華やかなメイド服にヘッドドレス!?意味が分かんねえ!し、しかも、小鬼の角がヘッドドレスの真ん中を貫通しちまってるじゃねえか!なんだこれ、なんだよあれ!あっはははは!」

「しかも、小鬼がカーテシーまで決めてますね」

「やめて!これ以上畳みかけないでくれ!なんであの知性の欠片もなさそうな面構えでカーテシーなんか決めてんだよ!お前、淑女じゃねえから!なんなら、どう見ても野郎の面だから!く、くくっ、これはあれか、新手の精神攻撃か!」

「えーと、どうやら勇者が攻撃に移るようです。手に持った冷凍秋刀魚で小鬼を叩きまくってますね」

「もう、もうだめだ。呼吸が、呼吸がっ!笑いすぎて息つく暇がねえのに、追い打ちがどんどんと……!く、はははっ!しかしひでえ絵面だわつくづく!秋刀魚でぺしぺしと、フリルで着飾った小鬼を叩き続ける勇者って!シュールにもほどがあるわ!し、しかも勇者の目が死んでやがる!ひたすら無心でぺちぺちやってやがる……!なんだこれ、わけわかんねえ!」

「あ、小鬼が逃げ出しましたね。勇者は……追わないようですね。呆然と、手に持った秋刀魚を見つめています」

「哀愁漂う背中が面白すぎる……!ちょっと、もう、腹筋が、腹筋が……!く、なっははははは!」

「クゼツさん、気をしっかり!次のモンスターが来たようですよ」

「へ?…………ぎゃははははは!もう、もういいって、そういうの!死ぬ、笑い死ぬから!」

「えっと、代わりに見た目を解説しておきますね。まずあなたたちの世界の狐を想像してもらえますでしょうか。それを二足で直立させて、黒縁の眼鏡をかけさせ、口に割り箸を咥えさせて、両手となった本来の前足にそれぞれ半紙を持たせてください。半紙の片方には、”カップうどんは、指定よりちょっと早いタイミングで食べ始める方が、麺が程よく堅くて美味い!”もう一方には、”きつねうどんは撲滅すべし!”と、墨汁と筆で達筆に書かれています」

「知らんがな!いや、あそこって異世界だよな!?なんでカップ麺って単語が存在してんだよ!ていうか、モンスターは一体何をさせたいんだよ!?目的がわからな過ぎて、どうツッコんでいいかもわかんねえよ、もう……!」

「おや、仲間を呼んだようですね。加勢したのは、読者の皆様の想像通り、二足歩行する狸ですね」

「何その定番みたいな扱い、なんか関係あんの?ていうか、やっぱり半紙持ってんの?」

「え、ええ。持ってることは持ってるのですが」

「内容は?どうせ、たぬきうどんも撲滅しろとかだろ?」

「いえ、”睡眠は一日六時間とろう!”と”俺達に構わず、先に行け!!”ですね。……なんですかね?」

「なんですかね?じゃねえよ!?く、ふふ、もう、もうシュールさが振り切れ過ぎてるよ。もう、こうして座ってるのが辛い!床の上を笑い転げたいわ!ていうか、俺達に構わず先に行け……!じゃねえよ!到底素通りを許さないインパクト持ってんじゃねえか!!それをスルーしろとか、無茶ぶりにもほどがあるわ!!そもそも、モンスターとしての役割を果たせてねえ!何の為に出てきたんだよ!く、かかかっ」

「でも、勇者はスルーするようですね。あ、ちなみに狸の方は眼鏡ではなくサングラスです」

「もうここまでくると、そんなんどうでもいいわ!」

「勇者の背を見送りながら、サングラスを外してキメ顔をしてますね」

「なにカッコつけてんだよ!シュールさが強すぎて、ハードボイルドにもストイックにもならねえよ!く、くくっ、もうなんなんだよこれ!」

「えっと、次のモンスターですよ」

「こ、今度はどんなのだよ」

「えっと、皆さんの世界で言うならゴリラが近いかと思います。毛むくじゃらで、手足が太くて、指も五本あります」

「へぇ、ようやくまともなのが登場したか」

「その、両手合わせて合計十本の指全てに、CDがはめ込まれてますね。真ん中の穴に指を入れる形で」

「前言撤回!まともじゃねえ!なんだよそれ、子供の遊びかよ!?何がしたかったんだよ!?もう、もう意味が分からな過ぎて脳味噌が蕩けそうなんだけど!シュールレアリスムがオーバーフローしてるんですけど!くっ、かっははははっ!」

「あ、背中を向けましたよ。えっと、赤マジックか何かで文字が書かれてますね」

「なんて、書いて、あんの?」

「”おネガいします、ぬいてクダさい”と」

「指から抜けねえのかよ、そのCD!!ホントに何がしたかったんだよ!!ていうか、んなもん勇者に頼むなや!!くははははは!」

「そんなこんなで、次の街に着いたようですよ」

「そんなこんなって言葉で済ませていいような道程ではなかったと思うんだが!?ていうか、冷凍秋刀魚の氷が溶け切って、へんなりとしてるのが面白すぎるんだが!ま、まあいいや。これで少しは落ち着けるかもしれんな」

「おや、どうやら新パーティメンバー加入のようですね。女性の……魔術師、でしょうかね?」

「あー、もうキツイ。これ以上無理。ちょっと水飲ませて」

「あ、はい、どうぞ」

「――ふぅ、生き返った。……で?なんで疑問形?」

「あー、彼女を見てもらえばわかるかと」

「ほぇ?……ぎゃはははは!何だよ、勇者が勇者なら仲間も仲間かよ!?なんで、なんで杖の代わりに持ってんのがゴボウなんだよ!どんだけ食材で戦いたいんだよ!」

「しかも、防具は全身甲冑ですしね」

「魔術師の装備じゃねえよ、あれ!どう見ても前衛職だろ!ていうか、くふっ、せっかくの女性メンバーなのに顔隠されてて見えねえし!」

「勇者も困惑してますね」

「そりゃそうだろうよ!あんなん、誰だって困惑するわ!も、もう無理!ホント無理!オドリー、俺はギブだ。笑いすぎて、これ以上は体が持たん、くふっ!」

「ええ、流石にわたしも精神的に疲れたので、ここらでお開きにしましょうか」

「そうしてくれ、マジで」

「では、そういうことで、皆様さようなら!!」
















「はぁ、やっと落ち着いたぜ。ところでオドリー?」

「はいはい?」

「勇者が旅立つまでの過程を、記録映像で見ようぜ。ゼッタイ面白いし、なにより興味あるし」

「いいですね。せっかくですし、あの世界についての資料も探してみましょうか」

「ナイスだな、そうしようぜ!」

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