実況:クゼツ 解説:クスト
「はーい、始まってしまいましたぁ。勇者の動向を実況するという、どこに需要があるのか全く分からないこの企画。実況は渋々ですがクゼツがお送りします」
「解説のクストです。よろしく頼みます」
「さて、今回の場面は……勇者一行と、なんか全身黒ずくめの陰気そうな怪物がにらみ合ってますね」
「あ、その陰気な黒ずくめさん、魔宰相とかいう存在みたいです」
「どうせ魔王の前座でしょ?通過点、通過点」
「事実としてはそうですが、ちょっと扱いがかわいそうすぎませんかね!」
「とりあえず、ファッションセンスはゼロですね」
「そんなところに着目していません!ていうか、解説役とらないでください!」
「お、魔宰相とやらが長ったらしい口舌を述べてますね。この隙に斬りかかればいいんじゃないですかね」
「お約束なので、無粋なことは言わないでやってください」
「でも、勇者一行はこっそりと詠唱とかはじめてますよ?」
「勇者、意外に強か!!」
「ああ、魔宰相も周囲に手下が集まるのを待ってますね」
「どっちも腹芸してやがる!」
「お、言葉が終わる前に勇者が仕掛けましたね」
「容赦なし!?」
「悪・即・滅の精神ですね」
「最後が違う気がする!」
「早速フルパワーの大技ぶっぱですね」
「様々な色にグラデーションしていく光線が、非常に美しいですね。このイルミネーションは、もはや攻撃とは思えません」
「ちなみに、資料によると技名は『死ね死ね光線』らしいです」
「ネーミングセンス皆無!色々台無し!!」
「色だけに?」
「そんな意図はないです!!」
「さあ、ファッションセンスなしVSネーミングセンスなしの戦い、勝つのはどちらか!」
「両者とも、もはや威厳が皆無ですね」
「おやぁ?ファッションセンスなし側、どうやら防ぎ切ったようです」
「素直に魔宰相と呼んであげてくれませんかね!」
「そうしましょうか。ファッションセンスなしさんって呼ぶの、長くてだるいですしね」
「そういう観点での要求ではないんですが」
「さて、一方で防ぎ切られたネーミングセンスなし側、驚愕の表情を浮かべています!」
「そっちも勇者と呼んであげて!」
「え?なんで?」
「心底不思議そうな顔するのやめてください!」
「…………」
「いや、にらめっこしたいわけじゃないんで、その変顔もやめてくださいな!?」
「結構評判良いのに。隠し芸大会とかでは」
「それをここで披露しないでください!あと、どうでもいいです!」
「じゃあ、勇者(仮)で」
「なんで余計なもの付けたんですか!」
「え?だって、まだ世界を救ったわけでもないのに、既に勇者って呼ぶのはおかしくない?何様のつもりかって話ですよ。増長も甚だしいわ!」
「急に毒を吐かないでもらえます!?」
「ぺっ」
「唾もダメです!」
「やれやれ、わがままな解説だぜ」
「そうですかねぇ!」
「ほら、そんなくだらない事言ってないで、解説しなよ」
「元凶に言われたくないわ!というツッコミはさておき、力を使い果たした勇者に代わって、仲間達が戦うようですね」
「結局人任せかよ。勇者(仮)の名が泣くぜ」
「皆で協力し合って、強大な敵と立ち向かう!これぞ冒険の醍醐味じゃないですか
!」
「数の暴力やね。戦隊ものじゃあるまいし」
「それは言ってはいけない!あと何故に関西弁!?」
「意味なんてありゃあしまへん」
「せめて理由があって欲しかった!」
「特に理由のないボケがツッコミを襲う!」
「自覚あるならやめてください!ていうか、ツッコミじゃなくて解説です!!」
「……今の自分達を鑑みても、そう言い切れるかね?」
「確かに反論しづらいですが、元凶に言われると腹が立ちますね!」
「格闘家が前衛として注意を引き、後衛のソーサラーが援護と牽制。そして、隙を見て戦士が斬りかかる。見事なフォーメーションですね」
「そうですね。阿吽の呼吸で連携が取れていて、見事と言う他ありません」
「……あれ?勇者要らなくね?」
「それは、心によぎっても言っちゃだめです!」
「もうあの三人で魔王倒してこいよ、ぱぱーって」
「そんなあっさりできたら苦労しません!」
「大丈夫大丈夫、あいつらならできる。俺は信じてる」
「すごく無責任に聞こえますが!?」
「何言ってるのかね、ツッコミ役。こういう物語の王道は、主人公が窮地に陥ったところで、彼らを信じている皆から力を貰って、逆転するって流れが鉄板でしょ!」
「それは確かに鉄板なんでしょうけど。ところで、さらりと肩書をツッコミ役にするのやめてくださいません?」
「俺は、勇者をハブってあの三人が魔王を打倒するのを信じてる」
「そんな信頼は要らないと思う!」
「そして、結局物の役にも立たなかった勇者が、後ろ指さされている痛快な姿が見たい!」
「この実況、性根が腐ってやがる!」
「そして最終的に勇者は、一人でめそめそ泣きながらひっそりと野垂れ死にました、と」
「報われなさすぎる!?」
「めでたしめでたし」
「何もめでたくない!」
「一人の犠牲で世界が救えるなら、安いもんですよ」
「ありがちな台詞ですけど、この場合は犠牲はいらなかったと思います!」
「そして、やがて怨みを抱えて死んだ勇者はアンデッドとなり、人間達への復讐を開始」
「まさかの第二部スタート!?」
「しかし、かつての三人の仲間に瞬殺されて、骨も残らず消滅」
「あれ、なんでだろう?涙が止まらないや」
「さて、絶妙な連携で魔宰相を追い詰めていく三人ですが……」
「いきなり話を戻すのやめてくれませんかね!?」
「お前なんで泣いてんの?うわ、キモッ!?」
「そこまで言うか!?ていうか、元凶はお前だ!」
「責任転嫁、よくない!」
「あるべきところに責任を求めているだけですが!?」
「おっと、戦士が必殺技を繰り出した!」
「無視すんなやゴルァ!!」
「奥義、『魔族絶対殺す剣』が炸裂したぁ!」
「またもや残念なネーミングセンス!!」
「連携して格闘家も攻めたてる!こちらも奥の手を発動するようだ!!」
「おお!これは見事なコンビネーション!!」
「裏二十八式、『ヒップアタック』が、魔宰相の体勢を崩したぁ!!」
「ネーミングセンスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!ていうか、絵面もひでぇ!!なんで魔宰相、何の変哲もないヒップアタックで怯んでんの!?」
「腕と脚から放出した闘気の勢いを利用した、渾身のヒップアタックだからだよ?」
「闘気の使い方、もうちょっと考えようよ!!」
「ご先祖様の代からの秘伝だそうで」
「そんなのが秘伝って……」
「そしてとどめに、ソーサラーが大魔法を行使する!!」
「素朴な疑問なんですが、なんでソーサラーは、天術師とか魔法師とか呼ばないんですかねえ?格闘家と戦士はカタカナ呼びじゃないのに」
「今良いところだぞ!?そんな質問をしている場合か!ちゃんと解説しろ!!」
「あんたに言われたくないわっ!!」
「冷気が魔宰相と、様子を窺っていた取り巻の魔物をも凍らせていく!!」
「凄まじい威力!これぞまさに大魔法!!」
「『エターナルフォースブリザード』が見事に決まったぁ!!」
「ネーミングセンスううううううううううううううっ!!」
「凄まじい威力です!それ以上に素晴らしいのは三人のコンビネーション!発動の瞬間に、前衛二人はしっかり効果範囲から離脱していますね!」
「流石の連携ですね。互いに切磋琢磨してきた賜物でしょう」
「一面氷漬けになっています。敵はもちろん、勇者までしっかり氷漬けになっております」
「ダメじゃねえか!!なんで味方まで氷漬けにしてんだよ!!勇者ぁ!はやく勇者の救出を!!」
「三人が互いの健闘をたたえてハイタッチしていますね」
「それはいいから、さっさと勇者を助けてあげてよ!」
「風邪ひきそうですもんね」
「そういう心配はしていない!ていうか、風邪で済むような状況でもない!」
「しっかし、あの氷漬けになった勇者の情けない姿ったら……ぷふっ」
「まあ、確かに。ポーションを飲んだ姿で固まってますからね」
「顔を上に向けて、栄養剤を飲むかのようなポーズで固まっている様が、どうにも滑稽で……くふっ」
「気持ちは分かりますが、何もそこまで……」
「あのまま勇者の部分だけ切り出して、街の中央にオブジェとして飾っておきましょう」
「晒し者!?」
「満足気な顔をした三人が、凱旋のために街への帰路へとつきました」
「うぉい!?勇者を置いていかないでよ!忘れてあげないでよ!!仲間でしょ!?」
「大丈夫大丈夫。『エターナルフォースブリザード』の解説にこう書いてありますから」
「へ?なんて書いてあるんです?」
「『相手は死ぬ』。つまり?」
「!?ゆうしゃあああああああああああああああああああああああああ!?」
「こうして、勇者は自らの身を犠牲にして、魔宰相を討ち果たす人柱となったのでした」
「報われなさすぎるわ!!」
「では、また次回でお会いしましょう。さようなら」
「もう嫌だ、この解説って役目!!」
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