実況:ロイン 解説:ヒヤ
「第六回目となります勇者実況ですが、今回はこの僕、ロインがお送りしていきます。解説はヒヤさんです」
「熱いお茶が飲みたいです」
「今回の勇者は女性!ただし、勇者としての活動を諦めて、異世界で定住生活をしてらっしゃる変わり種です。ということで、今回は実況解説も女性コンビでお送りします」
「最近よくある変化球タイプですね」
「しかし、素敵な一軒家ですねぇ。煙突があるという事は、中には暖炉があるのでしょうか」
「煤まみれになるので、掃除が大変なんですよね」
「でも、暖炉の前で誰かと語り合ったりするのって憧れません?ほんわかした雰囲気といいますか」
「一人寂しく火を眺めているイメージの方が強いです。体は温かいのに心は凍えそう。そんな哀愁を感じさせる姿が幻視されます」
「は、はあ。ところで、家の傍らでは菜園をされてますね。自給自足といったところでしょうか。ヒヤさんは、ああいうの憧れたりします?」
「虫が寄ってくるので、断固拒否です。あと、潔癖症気味なので土とか触るのもちょっと」
「まあ、人それぞれですよね。僕は、ああいうスローライフっていうの憧れるんですよ」
「刺激のない人生なんて願い下げです。ゆったりと死を待つなんて耐えられそうにありません」
「い、意外とヒヤさんはアクティブな方なんですね。……でも、採れたての野菜をそのまま生で食べるのって、美味しいって言いますよね」
「錯覚でしょう。新鮮なのは認めますが、捥いだ後も急激に鮮度が落ちる訳でもありませんし。それに、ああいうのはたまに食べるから美味しいのであって、毎日のルーチンという事なら、感動も薄れていくだけです」
「それでも、僕は羨ましいと思いますけどね!」
「好みは人それぞれですから。貴方は貴方の思う道を信じればいいと思います。女性なのに、一人称が僕な所とか。私は私の道を行きます」
「は、はあ。ちなみに、ヒヤさんは趣味とかあります?」
「家に侵入してきた蟻の手足を、ピンセットで引き千切ることです」
「ぅえっ!?」
「冗談ですよ?」
「びっくりしました」
「ということは、一瞬信じたという事ですね。なるほど、貴方が私をどう見ているか、少しわかった気がします」
「こ、声に抑揚をつけてくださいよ。冗談めかして言うとか」
「キャラじゃないので」
「あ、そう、ですか。で、本当の趣味は?」
「話し相手を煙に巻くことです」
「悪質!?」
「安心してください。二割は冗談です」
「八割以上本気ってことですよね!?」
「ふふ、ロインさんって面白い方ですね」
「今このタイミングでそう言われるのは、甚だ不本意なのですが……」
「安心してください。心にも無いことを言ってるだけなんで」
「僕は、その発言についてどこをツッコめばいいのでしょうか?」
「実況をすればよろしいかと」
「あっ、ハイ。えっと、今はポーションを作っているようですね。色鮮やかできれいですね」
「着色料の実験をした時を思い出しますね」
「……。ちなみに、ヒヤさんが好きな色って何ですか?」
「無色です」
「それは色のうちに入るのでしょうか!?」
「無色透明が好きです。何にも染まっていない、どこまでもクリアな美しさ」
「は、はあ」
「ふふ。生まれたばかりの貴方の心のような、ピュアな美しさ。素晴らしいと思いませんか?」
「間接的に、現在の僕の心が汚れていると言ってませんか?」
「汚れてないんですか?」
「そう訊かれると返答に困りますが」
「つまり、下水のような色をしていると」
「そこまで濁ってはいませんが!?」
「ちなみに、貴方が好きな色は?」
「僕はやっぱり赤ですかね」
「血のような?」
「例え方に悪意が見えるのは僕の気のせいでしょうか!?」
「鮮血のような?」
「そういう変化を求めた訳ではなく!」
「まあ、それはさておき」
「勝手に畳まれた!ともかく、ポーションを作って、それを売ってお金を稼いでいるようですね」
「間に仲介業者が入っていないので、安くて済みますね」
「そ、そうですね。効き目もなかなかで、村の人々からは好評のようですよ?」
「勇者なのだから、そんなところでちまちま好感度を稼がなくてもいいと思うのですが」
「好感度が目当てではないと思いますが……」
「じゃあお金ですかね。魔王討伐の軍資金と偽って、富豪や貴族から巻き上げれば早いと思いますよ?」
「ヒヤさん、発想が黒いです!」
「平和が欲しいなら、対価を払え。無償奉仕が当たり前だと思うな、愚民共 by勇者」
「そんなダークな発想をしないでください!勇者という肩書を何だと思ってるんですか!」
「神輿」
「ものすごく生々しくて想像の余地が多い二字熟語をありがとうございますっ!でもその認識は改めてください!」
「民衆の不安を静めるための、都合のいい偶像」
「いちいち表現に棘があるのは何なんですか!民衆の希望の象徴とかでいいじゃないですか!」
「ふっ」
「何で鼻で笑いました!?」
「ロマンチストですね、ロインさんは。まだまだ夢見る乙女ですか?心は下水なのに?」
「何でそこまで言われなきゃいけないんでしょうか!?」
「知ってますか?人間は、自分と正反対の人間に憧れるらしいですよ?」
「どうして、今、その話をしようと思いました!?」
「お察しください」
「察したくない!それより、誰か勇者様を訪ねてきましたよ?」
「見たところ、村の青年のようですね」
「あ!二人が抱き合ってますよ!恋人同士なんですかね?」
「この後、男性が勇者をぶすりと」
「不穏な展開を望むのは止めてください。ほら、二人とも満面の笑顔ですよ」
「その笑顔の裏に潜むものは……」
「いちいち妙な勘繰りを入れるのは止めてください!でも、こうしてみると勇者さん可愛いですね。青年が惚れるのもわかる気がします」
「なにせ、相手は勇者ですからね。結婚でもしようものなら、勇者の家系として歴史に名が残せますから」
「純粋な愛というものを信じましょうよ!ヒヤさんはドライすぎます」
「私は、三番目だから」
「アイン、ツヴァイ、ドライのドライではありません!心が乾燥しすぎって言ってるんです」
「ジメジメしてるよりはいいでしょう」
「そういう事ではなくて……あ!見てください、二人がキスしてますよ!」
「潔癖症な私からすると、キスは拷問でしかありませんね」
「やっぱり、キスシーンっていいと思いません?お互いの愛を交換し合うような感じがして」
「交換するのは唾液だけです。唾液に愛は含まれていません」
「もう!そんなこと言ってるから、ヒヤさんには彼氏ができないんですよ!」
「必要ありません。愛だの恋だの、煩わしいだけです」
「またそんなこと言って……」
「むしろ、貴方こそ恋人を作ればいいんじゃないですか。そんなに乙女チックな憧れがあるのなら」
「簡単にできれば苦労はしないんです!早く僕にも春よ来い!」
「なら、私が良い男性を紹介してあげましょうか?」
「本当ですか!?」
「ええ。男らしい魅力にあふれていて、頼りがいがあって、純粋で、自分の信じた道を貫き通せる、逞しい人です」
「すごく理想的じゃないですか!ぜひ、紹介してくださいよ」
「じゃあ、後でコンタクト取っておきますね」
「ちなみに、その殿方のお名前は?」
「マッソーさんです」
「前言撤回しますっ!!」
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