実況:クレッセ 解説:モイ
「えー、今回の実況はー、覇気のなさに定評のあるクレッセとー、解説はモイちゃんでお送りしますー」
「ふつちゅか……ふつつかものですが、皆様、よろしくお願いします!」
「今回は、どうやら市街へ侵攻してきたリザードマンの大軍を、勇者を始めとする冒険者の集団が迎え撃っているようですね。激しい市街戦が展開されています」
「紫外線はお肌の天敵!ちゃんとケアしましょう」
「建物で死角が多いことですし、ちゃんとケアしないと思わぬところから攻撃を受けますからねー」
「クリームの塗りムラや塗り忘れは要注意ですね!」
「各所を見ていきましょう。まずは、街のシンボルともなっている大聖堂前では、勇者が一人でリザードマンの一団を押しとどめていますね」
「聖堂の天辺にある、鳥を模した彫刻が可愛らしいです!」
「リザードマンの剣士が三人で勇者に挑みますが、それらをたった一太刀でバッサリですね」
「こういう、大きな鐘のある大聖堂で結婚式をするのって、女の子の夢だと思うんです。その場合は、白無垢よりもやはりウェディングドレスですよね」
「今度は勇者から仕掛けていきましたねー。おもむろに敵の中へ躍りこんでいって、白刃を閃かせていますねー」
「白人?勇者様はニホン人ではなかったですか?」
「つづいて、商店立ち並ぶ広場の方ですね。こちらは、広場の中央でにらみ合いを続けている様子ですねー」
「あの花屋さんの軒先にある黄色いお花、すごくかわいいです!髪飾りにしたらモイに似合いますかね?」
「一触即発の雰囲気ですねー。互いに闘争心を漲らせながら、仕掛けるタイミングを窺っています」
「私はクレッセさんにご意見を伺っているのですが」
「私の意見としてはー、他の戦況が動くと、連動してこちらも状況が変化すると考えますー」
「そっちの話ではありません!」
「では続いて、メインストリートの方ですねー」
「せっかくの実況と解説なんですから、会話のキャッチボールをしてくださいな!」
「そちらにも問題があるかとー。それより、こちらは両軍混戦状態ですね。敵味方入り乱れての団子状態です」
「お団子美味しいですよね!モイは、定番のウグイスが好きですよ。みたらしは食べるのに苦労しますし、食べ終えた後に手がベタベタしますしね」
「そうですね。両軍どちらの戦士も、鎧や武器が血でベタベタですねー」
「適当な相槌も大概にしてくださいぃ!」
「生存者の数はリザードマンの方が多いようですが、倒れて動かない者の数もリザードマン側の方が多く見受けられますねー。どうやら、頭数としてはリザードマン側の方が多いようですねー」
「無視もしないでくださいぃ……。いい加減、モイも泣いちゃいますよ?」
「そうですねー、散っていった戦士たちに哀悼の意をささげましょうかー」
「そういう涙じゃないです!」
「次は……街の入り口に当たる南門の方ですねー」
「……ぐすん」
「こちらは衛兵が対処に当たっているようですが、押され気味のようですねー。しかし、秩序だって隊列を乱さず後退しているので、戦線が崩れる様子はなさそうですねー」
「恋も押し引きが肝心って言いますしね!」
「どうやら、衛兵の側も反撃の為に布石を打っている様子。この両軍の駆け引きは見物ですねー」
「恋は駆け引きとも言いますもんね!」
「では、さらに場面を移しまして北門へ。こちらは完全に突破されたようで、物言わぬ死体だけが転がっていますねー」
「モイには、ちょっと刺激が強すぎて直視できないです」
「見るべきものもないのでさらに場所を変えてみましょう」
「さらりと気を遣ってくれるクレッセさん。そういうところが、モイは、その、好きですよ?」
「そうですね。おそらく、油断していた隙に突破されてしまったのでしょう」
「クレッセさんの心の突破口は、どこにありますでしょうかっ!?まったく隙が見えないのですが!!」
「再び大聖堂前ですねー。どうやら、戦闘は早くも終結したようで、勇者の姿はなく、黒焦げになったリザードマンの死体のみが散見されますねー。まさに、トカゲの丸焼きですねー」
「あ、クレッセさん、今の面白かったで――」
「では勇者を追ってみましょうか」
「お願いですから、せめて最後まで聞いてくださいな……」
「勇者は、どうやら南門の救援へと向かうようですねー。それにしても、足が速い。あっという間にゴールの南門前まで辿りつきましたね」
「私がゴールインする日は遠そうです……」
「そうですねー、勇者の加勢を得たことで、血で血を洗う本格的な闘争の幕が上がりましたねー」
「私の、女としての戦いにも加勢が欲しいです」
「流石は勇者ですねー。あっという間に敵の退路を断ち、衛兵と協力して敵の戦列をずたずたにしていきますねー」
「私の心もずたずたです」
「さっくりと敵を壊滅させて、今度は広場へと向かう勇者。メインストリートの方へは衛兵が向かっていますねー。これは、チェックメイトでしょうかー」
「貴方の心にチェックをかけたいです」
「そんなお口はチャックしておいてください」
「実況初めてからようやくまともな返しが来たと思えば、内容がそれって……。クレッセさんは冷たいですよー」
「感想を述べるのではなく、解説をしてください」
「私の心は、砂の吹きすさぶ荒野の如しです」
「さて、メインストリートの方ですがー、衛兵が背後を着いたことにより、これはスマザードメイトのようですねー」
「先程のチェックメイトに続いてチェス繋がりの表現ですね!クレッセさんの表現の巧みさは、まさにグランドマスター級です!」
「広場の方でも、勇者が無双していますね。こういった形で戦線が動くのは予想外でした」
「必死に頭を捻って考えた渾身の一言を、触れもせずスルーされたのも予想外ですぅ!!」
「メインストリートに続いて、広場の方も決着しましたねー。互いの生存を喜び合う勇者と冒険者達の姿を見ていると、心が温かくなりますねー」
「私の凍りついた心を溶かす程ではありませんよ、ふふ……うふふー……」
「では、一連の戦いが丸く収まったところでー、今回はここまでにしておきましょうかー」
「私のもやもやした気持ちは全く収まってませんけどね!」
「それでは、また次回をお楽しみに!」
「……さよーなら……」
「お疲れ様だね、クレッセ」
「あ、オドリーさん。実況って疲れますね」
「よくできてたと思うよ?ただ、モイちゃんの扱いが酷かったかもね。もっと話を振ったり、話に乗ったりしていかないと。彼女が言っていたように、実況と解説の意味がない」
「……すいません。純粋に好意を向けてくるのが、どうしてもこそばゆくて。ああでもしないと、平常心を保てなかったもので」
「そういうのは、本人に言ってあげると喜ぶんじゃないかな?」
「調子に乗って、スキンシップなどが増えるだけです。今でも持て余しがちなのに」
「でも、満更じゃないんだろう?」
「……」
「ははは、顔に出ているよ。君は正直だなぁ」
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