実況:アレフ 解説:ルビイ

「よう、みんな!愉快、痛快、後悔の三拍子でおなじみ、アレフだぜ!今日は実況をさせてもらうことになった、よろしくな!さて、肝心の相方だが……今日はこの方!」

「ルビイじゃ。とりあえず、勇者という存在は尽く滅びるべし」

「いきなり何言ってんだ!?」

「ほほ、構わずに進めてくれて構わんぞ?」

「いや、そんな簡単にスルーできる発言では……」

「いいから、とっとと進めなされ」

「え、えーと。今回の勇者は、いわゆる俺TUEEEEEEEEE系ですね」

「反吐が出るわ」

「え、えっと、ルビイさん?」

「それだけの力があるなら、何故悪を為さぬ?力さえあれば、あらゆるものがお前の望みのままだ」

「おーい?」

「さあ、それを理解したなら、ちゃちな正義ごっこなぞ捨てて、自分だけの覇道を行くがよい!従わぬものは全て捻り潰せ!!気に入らぬものはすべて破壊せよ!!」

「オーケー。どうやら、お前は俺の敵らしいな」

「敵?……はん!たかだか少年漫画に影響されて吠えている程度の小童に何ができようか」

「それの何が悪い!」

「頭が悪い」

「上等だ!表へ出ろ!!」

「お前の喧嘩など買いたくもない。もう少し高い喧嘩を売って欲しいものだな」

「くそぉ、言いたい放題言いやがって!」

「ほれ。吠えてるばかりでなく義務を果たせ、犬。それとも、お前は吠える事しかできない駄犬か?」

「くそ、癪に障るがともかく実況だ。えっとだな、今は勇者が王都へと乗り込んでいるところだな……あれ?」

「資料によると、そこの勇者は国王から早々に見捨てられた上に、身に覚えのない侮辱すら受けたという話だ。おそらく、その復讐をしに来たという事だろうな」

「くっ、同情してしまう境遇だ。だが!それでも勇者という肩書を持つ以上、人間を守るのが務めのはず!それを、逆に牙を向けるなんて」

「おお、早速衛兵との戦闘が始まったようだ。さあ、思う存分、これまで胸の中で熟成してきた恨みを力と変えて暴れるがよい!それでもその猛りが静まらぬというなら、人間尽く滅ぼしてしまうがよい」

「いくらなんでもそれはやりすぎだ!」

「彼の者が人間へと感じている憤りは、貴様が今感じている物とは比べ物にならん。それこそ、月とミドリガメじゃ」

「くっ、俺はすっぽん以下なのか!!」

「もはや、元凶を殺傷したところで止まりはすまい。彼の者が味わった絶望を、人間すべてに味合わせるまではな」

「正気に戻れ、勇者!人間は、決して愚かなだけの存在ではない!!」

「お主の言葉には重みがなさすぎる。貴様のその言葉と、あの勇者が味わってきた絶望。はたしてどちらが重いじゃろうな?」

「うおっ!?衛兵たちが触れることもできずに次々と絶命していきやがる!なんて力だ……」

「あれこそ、執念の結実。やはり、人を最も成長させるのは怒りや妬みじゃ。ありきたりの綺麗事などでは辿りつけぬ境地がそこにはある」

「知ったような事言ってんじゃねえ!」

「知っておるともさ。我は、そういったマイナスの感情から生まれた化身なのじゃから」

「なんてこった!?あんたがラスボスか!!」

「うむ、いいぞ勇者よ!血風を振りまきながら、ゆるりゆるりと歩を進めるその様は我が愛するに値する姿じゃ。もしも復讐を成し遂げた暁には、我の愛でその無聊を満たしてやらなくもないぞよ」

「ダメだ。親衛隊でも奴の歩みを止めることができない!これほどの悪意をどうやって止めればいいんだ!?」

「そも、悪とは何か?お主はそこから考えてみてはどうじゃ?」

「悪ってのは、ええと……」

「人が人を殺すことが悪なのに、魔物を殺すのは善か?」

「魔物は悪だから、悪を斬るのは悪じゃない」

「なんで、魔物は悪なんじゃ?」

「自らの欲の為に人を襲うからだ」

「なら、生ける者を自らの糧の為に殺している人間も悪か?」

「いや、それは……」

「それに、悪を殺すのが悪ではないなら、今勇者がやっていることも悪ではない。彼が斬ろうとしているのは、まさしく彼にとっての悪じゃ」

「でも、同族殺しなんて……!」

「お主は時代劇など見たことはあるか?あれも、主人公が悪漢を斬り殺したりしておるが、それらも悪か?」

「……」

「何が悪で何が正義かなど、結局は己の主観にすぎん。道徳や法などというものは、社会の為に正義のベクトルを特定の方向へと導こうとするだけのものよ」

「……いや、法や道徳の根底の一つである弱者救済は、普遍的な正義だ!」

「そうじゃな」

「だったら……!」

「彼は、国王の都合によって弱者の地位へと蹴落とされた。なら、彼は正義に救われなかったことになる。それなら、救済を悪に求めても仕方なかろう」

「それは……」

「それに、あの行いは彼にとっては正義じゃ。そのようなものが国王をしておっては、国民に不利益をもたらすのは確実。であれば、その目は早めに摘んでしまわんとなぁ?」

「ぐっ、反論が思いつかねえ」

「さあ、勇者が城内への侵入を果たしたぞよ。目的の首は目の前じゃ」

「……」

「小童、お主は真っ直ぐすぎる。漫画だけでなく現実を見よ、ああいった正義も世の中にはあるのだ」

「そう……なのかな?」

「お主が、彼の者が救われることを真に願うのなら、お主はあの勇者を応援するべきじゃ」

「むぅ……」

「自らの正義を果たす為に、彼の者は地獄と言うも生温いどん底から這い上がってきたのじゃ。我々の想像を絶する苦悩もあったじゃろうなぁ。なんと哀れな男か。じゃが、そんな彼は血の滲むような努力を経て、ようやくここまで来た。そんな男の雄姿を応援せずして、なんとするか!」

「!?…………そうだな!俺が間違っていたかもしれねえ!!俺はあの勇者を応援するぜ!!」

「それでよい。……ゆけ勇者よ!障害はすべて排除せよ!立ち塞がる物は血の海へと沈めよ!お前には我ら二人がついておるぞ!!」

「頑張れ勇者!お前の信じる正義ってやつを見せてくれ!!」

「む、ついに王の前まで辿りついたか」

「あいつが諸悪の根源だな!やれ勇者!容赦なくやっちまえ!!」

「そうじゃ!肺腑を貫き、脛骨をへし折り、脳髄を引きずり出し、目玉をくりぬき、局部を切断し、指をささくれだらけにし、足の爪を全て深爪にし、眉毛を全てそり落とし、耳の穴をレロレロと舐め回し、とどめとして額に肉と書いてやるがよいわ!!」

「鼻の穴から牛乳も注ぎ込んでやれ!」

「ふ、お主もわかってきたではないか」

「ウス、ルビイさん!なんか、胸がすくような気持ちです!!」

「お主には素質がある。どうじゃ?我の下で必要悪について学んでみぬか?」

「……は、はい!今日から師匠と呼ばせてください!!」

「うむ。では、実況などという些事は投げ捨てて、早速赴くとしよう」

「押忍!お供します、師匠!!」



















「……なあ、オドリーさん?」

「わかってる。ちゃんとアレフが元に戻るよう、手は打っておくさクスト」

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