実況:クスト 解説:モイ

「どうも。ツッコミ役が定位置になりつつあります、実況のクストです。今回はなるべく実況に専念します」

「こんばんわ!そしてお久しぶりです!今回の解説はモイがお送りしますよぉ!」

「早速ですが、今回の勇者はどんな人なのでしょうか」

「こんな人です」

「なるほどわからん」

「えっとですね、顔はとっても美形です」

「あ、はい」

「そして、女性からすごく人気があります。既に、異世界の地に恋人もいるようです」

「それだけ聞くと異世界モノのテンプレ主人公ですね」

「でも、モイは心に決めた方がいるので、心を奪われることはないのですよ」

「不必要な解説をありがとうございます。まずは状況説明をしましょうか」

「森の中心にあるという妖精の湖を目指して、勇者様一行が進撃している場面ですね」

「道中のモンスターを片手間のように片付けていますね」

「そうですね、空がすごく青くて清々しいですね」

「……。パーティメンバーは、勇者と魔術師の女性のみですね」

「あの魔術師の人、すごくかわいい服装ですね!魔術師と言うとローブなんかをイメージしますけど、あの方はフリルたっぷりの水色ワンピースです。すごくモイ好みです!」

「確かに、魔術師のイメージからは外れていますね。可愛らしいというのも同意見です」

「でも、木の枝や藪に引っかかって、すぐにボロボロになりそうですね」

「そうですね。どうやら、わずかながら服自体に効果の魔術をかけているようですが――」

「そんな事より、あの木の枝の上にいる鳥さんがすっごく可愛いです!」

「えっと、確かに可愛いですけど――」

「あ!あそこに川がありますよ!!水も濁ってなくて、すごく綺麗です!まさに清水って感じですね」

「あれを辿っていけば、目的の湖へ到着できそうですね」

「いいなぁ。モイも、ああいう所でピクニックとかしたいです」

「さすがに、モンスターに囲まれてのピクニックは遠慮したい――」

「うわぁ!自然のお花畑もありますよ!勇者様たちも足を止めて和んでいますね!」

「その背後から蜂型のモンスターが迫ってますけど、気づいてるんですかね?」

「そんな事どうでもいいですよ!あのお花畑の素晴らしさについて伝えましょうよ!」

「いや、これはあくまでも勇者の実況であって、旅番組とかでは――」

「まさに、木々に守られた聖域といった風景です!女性なら絶対心に響く構図ですよ、これ!清流の音を木漏れ日のハーモニーもあいまって、何時間でも滞在したくなること間違いなしです!ねえ、クストさん?」

「え、あ、はい、そうですね。って、そうじゃなくて勇者を――」

「見てください!リスさんがいましたよ!あれは確か、ハナミツリスですね!名前の通り、花の蜜を主食とする、とても小柄なリスです!どれくらい小柄かというと、幼稚園児の手の平の上に乗る程度です!ハムスターと同じくらいの大きさですね!」

「それより、勇者達が戦闘に――」

「にゅっ!?あそこにいるのはイッカクシカですよ!その名の通り、角が一本しかない鹿で、体表が銀色なのでたまにユニコーンと間違われる事もあるらしいですね!」

「いや、動物や花なんかは置いておいて。勇者達が蜂のモンスターに囲まれて――」

「なんかとは何ですか!心の清い乙女なら、いや女性であれば誰でも夢見るような、秘密の花園ですよ!?こういう場所で、癒されたいと思う女の子は多いのですよ!」

「え、いや、はい、すみません?じゃなくて!」

「すごくメルヘンチックです!ピクニックバスケットにサンドイッチとか詰めて訪れたいですね!華冠とか作るのも素敵ですね!カッコイイ男の人と来られたら、一生の思い出になりますですよ!わふぅ!!」

「テンションめっちゃ上がってますね」

「いやぁ、モイとしたことが、ついつい乙女モード全開にしちゃいました!でも、共感してくれる方は多いと思うのですよ!こういうのは、年齢に関係なく憧れる光景なのですよ。あ、そうだ!あとで芸術の化身に絵でも描いてもらいましょう」

「ああ、それはいいかもしれませんね」

「よし!じゃあ楽しみが増えたところで勇者様の実況に戻りましょうか!……あれ?勇者様たちはどこですか?」

「モイちゃんが熱く語っている間に、蜂のモンスターに刺されました。毒が全身に回って、二人ともとうに絶命していますけど?」

「……」

「……」

「こ、今回はここまでなのです!次回をお楽しみに!」

「まあ、こんな美しい光景の中で二人で逝けるのなら本望かもしれませんね……。それでは、後味の悪い結末でしたがお付き合いいただきありがとうございました」

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