実況:アレフ 解説:ミズナ

「おっす、久しぶり!帰ってきたアレフだぜ。みんな、風邪とか引いてねえか?オレは生まれてからこの方、ひいたことないぜ!」

「おいっす!あたしは初参戦にして、別世界からのゲストキャラクターとしてきているミズナだ!みんなよろしくな!」

「今日は、オレたち二人で勇者の模様をお届けしていくぜ」

「熱い実況と解説に期待しててくれよな!」


「というわけでまずは状況説明だ!」

「今まさに、勇者と連れの三人が敵の首魁である覇王メルガザーンの居城に乗り込もうとしているところだな!」

「一番燃えるシーンって事だな!」

「そういうことだぜ!ただ、覇王メルガザーンって呼び名、イマイチ強そうに思えないんだよな。どうせなら、もっと威厳があって派手な方がいいよな!」

「同感だ!せっかくのラスボスなんだしな!絶死の覇王メルガザーンとか、もっと強敵感あふれるネーミングがいいよな!」

「頭に何かつけるなら、もっと凝った奴の方が良いな。例えば、不可侵の覇王アンタッチャブルメルガザーンとかさ」

「そういうのも、少年漫画っぽくていいな!やっぱ、威厳のある二つ名とか添えとく方が、より強者感が高まっていいと思うぜ!」

「まあ、この話題は後にしようぜ。今は実況だ」

「そうだった!えっと、勇者が城門をぶっ壊して庭に当たる部分へと突入して、待ち構えていた敵兵とやり合っているところだな!」

「しっかし、地味な絵面だなぁ。もっとこう、光線が飛び交ったり、炎が吹き荒れたりしてもいいと思うんだよな」

「迫力が足りないってのはオレも思うぜ!けど、オレは渋い戦闘シーンとかも結構好きだぜ?格闘技の応酬とか、剣戟の交錯とか」

「あたしもそういうのなら好きだ!手に汗握る緊張感がたまんねえよな!ただ、今のこれは、群がってくる敵を勇者側が淡々と始末しているだけだからなぁ。もっとこう、目からビーム出したりとかしてもいいと思うんだ、勇者だし」

「ミズナの中の勇者像はどうなってるんだ!?」

「あと、指先一つで相手を破裂させたりとか」

「それ暗殺拳!そして、あの人は勇者と言うより救世主!!」

「空のペットボトルを投げつけるだけで、敵の頭を吹き飛ばしたりとか」

「どういう理屈!?ていうか、空ってのが余計にやべえ!」

「つまようじ一本で、相手の体を切断、あるいは貫通したりとか」

「なんでまともな武器を使わないのかとツッコみたい!」

「だって、勇者だし?」

「ミズナの中の勇者は絶対におかしい!」

「え?勇者の手にかかれば、綿棒や座布団だって武器だろ?」

「勇者のハードル高すぎませんかねえ!?」

「あたしですら、ビー玉や菜箸くらいは武器として使えるんだし、それくらいはなぁ?」

「基準がおかしい!あと、良い子のみんなは真似をするなよ!オレとの約束だ!」

「ともあれ、あの勇者はまだまだあたしの理想からは程遠いな」

「まあ、ミズナの理想とする姿はさておくとして。逆に考えようぜ!今は、勇者側が力を温存してるだけさ!とっておきは、ラスボスまで温存してるんだって!」

「なるほど、それなら納得できるな!つまり、今は最終戦を盛り上げるための前座、期待感を煽る演出ってわけだ!」

「にしてもすげえな、庭園にひしめいていた敵があっという間に殲滅されていくぜ」

「いや、むしろ退き始めているようだな。どうやら、いよいよお出ましらしいぜ」

「ん?城内から誰か出てくるな。いよいよ、敵の首領たちの出陣か?」

「多分そうだろうな。強者感が伝わってくるぜ」

「敵の数は四体か。どうやら、それぞれとタイマンで勝負するらしいな」

「他の三人も気になるが、勇者に絞って観ていこうか」

「了解したぜ。どうやら、相対しているのが超級覇王暫定二つ名メルガザーンと見たが?」

「おそらくそうだろう。威圧感があいつだけ別格だ」

「勇者は素手で戦っているんだな。武器は使用しないのか?」

「聖拳とやらが彼の武器らしい。あの、拳に纏っている光のようなものだな。いわば、闘気と聖気で形作られるガントレットのようなものだとさ」

「いいねえ。聖剣とかもいいけど、やっぱ素手喧嘩ステゴロが一番燃えるよな!相手が双剣を使ってるのが気に食わないが」

双裂覇そうれっぱ剣という業物らしいぜ?幾多の人間を引き裂いたことから、その名が冠されたとか」

「名前だけは好みだわ。それはそうと、始まったな。まずは、双剣と両拳の打ち合いか」

「お互いに速さを突き詰めた、手数重視の立ち合いだな」

「どっちもなっちゃいねえなあ。速さだけじゃだめだ。速さに加えて、的確に敵の急所を狙う技術と、敵の反応に合わせて攻撃の軌道を変える観察力と判断力、さらには速さ自体もまだまだ未熟だ」

「これは、ウォーミングアップみたいなものかもしれないぜ?あるいは、強者同士の挨拶かも」

「いや、双方全力だ。両者の表情と体の動きを見ればわかる」

「へえ、すげえな。解説に呼ばれるだけはあるぜ」

「まあな。見た所、パワーは敵が上でスピードは勇者が上だな。技術は五分五分。ただ、腕そのものが武器な分、小回りは勇者の方が上かな」

「なら、このまま続ければ押し切れるか?」

「どうだろうな?向こうは、真剣ながらもまだわずかに余裕がある。勇者の方は、顔に焦りが見え始めているが」

「きっと、聖拳の連続使用による疲労だな。先の雑魚戦も含めて、疲労が蓄積してきているんだろうさ」

「そんなものは精神力で抑え込めばいいだろう。というか、一撃で相手を仕留める実力がないのが悪い」

「言い切るなあ」

「架空の物語や漫画なら、両者の実力が拮抗するのは見所の一つだからいいんだが、現実世界の命運をかけての戦いというなら拮抗では不足だ。負ける可能性を摘む為にも、圧倒的な力をもってして、さっさと片付けたほうがいいに決まってる」

「まあ、たしかに。敵に付け入るスキを与えないに越したことはないし、不慮の事故も起きないからな」

「まあ、そんなことをここで言っても仕方ねえけどな」

「一旦、両者が距離を取ったな。これは、勇者がとっておきを出すのか?」

「拳の輝きが増している。きっと、必殺技ってやつだな。期待できるといいが」

「そうだな。せっかくだし、派手な技で目を楽しませてもらいたいところだな」

「お!巨大な光が拳から照射され始めたぜ!これは威力も期待できるんじゃないか?」

「いや、ダメだな」

「どうしてだ?」

「技が終わったらしいぜ。けど見てみな?」

「多少ダメージはありそうだが、敵は健在……あれだけの攻撃を受けたのに?」

「攻撃範囲を大きくし過ぎだ。敵の急所を狙って、エネルギーを一点に集中する方が効率的だ。敵の回避を許し辛いのはメリットだが、あれでは命中しても効果は望めないさ」

「なるほどな。少年漫画の様なのは非効率ってことか」

「まあ、見た目は派手だし、魅せ技としてならあたしは嫌いじゃないけどな。ただ、実戦的ではないかもしれないってだけさ。同格以上の相手に使うには、間違いなく不足だな。必殺技とは言えそうにない」

「なるほどな。っと、今度は敵のターンらしいぜ?」

「斬撃の軌跡に合わせて、魔力で補強した風刃を放っているな。それも、無数に」

「あれなら、勇者のとはまた違うベクトルで回避は難しいし、当たれば切断待ったなしだろうから、威力も問題ないな」

「いや、よく見てみろ」

「ん?勇者は飛ばされた魔力の斬撃全てを弾いている?」

「手数が多い分、威力が犠牲になってる。あれでは、プレッシャー程度にしかならない」

「なるほど」

「あれも、必殺技というには及ばないな。にしても、両者とも肩書の割に情けねえな。もっと、スカッとした戦いができないもんかねえ」

「そう言うミズナは、口で言うほどの戦いができるのか?体つきは一般的な女子高生のそれにしか見えないし、マッソーさんあたりと比べると、どうしても劣っているようにしか見えないんだが」

「確かにな。実力もないのに口だけと思われるのも癪だし、ちょっくら見せてやるよ」

「え!?ちょ、実況中なのにどこに!?」

「あそこ」

「あそこって、まさか!?……うわ!もう現地にいるし!しかも、右ストレート一発で覇王が消し飛んだ!?規格外すぎる!勇者達も唖然としてるし!……オレ、あの人だけは怒らせないようにしようっと」

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