実況:ロジィ 解説:マッソー
「……さて、今回は久しぶりに私ロジィがお送りしますわよ。で、解説なのだけれど……」
「うむ!解説はこのマッソーが務めさせてもらう!!諸君、脂肪をつけてしまいがちな冬にこそ、トレーニングを欠かさぬようにな!!寒ければ、身体を動かして暖まればよいのだ!」
「私は炎魔術で快適に過ごすことにするわ」
「なんと軟弱な!いいかね諸君!魔術などに頼るな!己の肉体を動かすことによって暖をとるのだ!これぞ、冬の醍醐味ぞ!もちろん、エアコンやストーブなどは使うまでもないぞ」
「脳筋は初級魔術どころか、文明の利器すら扱えないのね。可哀想に」
「ふん!そのような物を必要とせんだけだ。肉体面の強化を怠る、ひきこもりの魔女風情が何を言うか」
「魔術というのは、人間の知性と精神の結晶体なの。人間という存在へのアプローチは、肉体でなく精神から行われるべきよ」
「究極の肉体という命題を突き詰める事にこそ、人間の価値がある」
「人間が他の獣と決定的に違う点は、知性の有無よ。なら、そこを突き詰めていく方が合理的というものでしょう?」
「小賢しい理屈ばかり並べおってからに!戦場で最後にモノを言うのは、やはり身体能力!魔術なぞ、魔力が切れれば役には立たん」
「魔術は貴重な範囲攻撃手段。大軍同士での激突においては、魔術こそが趨勢を握ると言っても過言ではないわ。前衛のサポートとしても、回復役としても、魔術は必須なのよ」
「しかし、前衛と魔術師が1対1で向かい合った場合は、魔術師側は圧倒的に不利!前衛に頼らなければ自衛も覚束ない魔術師なぞ、役に立つものか」
「その前衛をサポートするのが、後衛たる魔術師の本分よ。一方的に前衛が負担を負っているのではなく、ギブアンドテイクよ」
「実際に前線で血を流すのは、その前衛ぞ。前衛のみでも戦はできるが、臆病な魔術師のみでは戦はできまい」
「言ったわね!援護がなければ、敵の遠距離攻撃に一方的に蹂躙されるだけの単純馬鹿共が」
「人の影に隠れねば外も歩けぬ脆弱者が何を言う」
「くぅぅぅぅぅっ!」
「ぬぅぅぅぅぅっ!」
「……この件は一旦置いておくとして、ともかく実況をしましょう」
「む、我としたことが熱くなってしまったか」
「今回の勇者は二人パーティね。今まさに魔王との対決といった場面みたい」
「相方は魔術師か。ふん、華奢な肉体じゃ」
「女性は華奢なくらいでいいのよ。……さて、いよいよ開戦ね」
「ふむ、勇者が剣を構えて仕掛けたな。魔王と刃を交えておるわ」
「魔術師の娘の方は、氷柱や火球を飛ばして援護しているわね」
「全然効いておるように見えんが?」
「そちらだって、傷一つつけられてないじゃない」
「魔王の剣を凌ぎながら、攻撃の機会を窺っているにすぎん。後ろの役立たずも守らねばならんしな」
「確実に魔王へダメージを蓄積させている魔術師と比べて、どちらの貢献が大きいかしらね?」
「こちらは、一撃当たればそれだけで勝負を決する神剣なれば。その一撃が叩き込まれた暁には、その程度の貢献は霞むのみ!」
「……でも、勇者は打ち合うのを止めたわよ?」
「魔術師の方も、援護射撃を止めたようだが……むぅ!?何だこの光は!?」
「これは……融合!?二人の体が溶け合っていくわ」
「なんと!勇者の肉体がより強靭に!」
「しかも、魔術師を取り込んだことで魔力量も増大したわ!今行使した肉体強化の魔術も桁違いの性能よ」
「ふむ、あの魔術剣の輝きは磨き上げられた筋肉の光沢にも勝るか」
「……精神がどうとか肉体がどうとかでなく」
「……両方を兼ね備えてこそ、本当の高みに到達するのかもしれんな」
「でも、それでも魔王に押されているわ!神剣の一撃がどうしても通らない!」
「魔王の方もなかなかの技量!剣技においても魔術についても、融合した勇者の上を行っておる」
「このままだとまずいわね!……頑張りなさい勇者!私たちの結論が正しい事を証明して!」
「知性と野生の融合、肉体と精神の調和こそが極みである事を示して見せよ!!」
「そう、そこよ!……ああ、もう!隙を晒しちゃだめよ!」
「力では勝っておる!相手の剣筋を見切り、適切な反撃を行うべし!」
「……ああっ!?ついに勇者が吹き飛ばされたわ!腹部が薄らと裂かれて血が……」
「だが、回復魔術で補っておる!肉体が強靭だったのも幸いしておる」
「でも、完全にジリ貧ね。打開策を練らないと」
「……うん?見よ、援軍が到着したぞ!」
「何か、大きなモノを台車に乗せてきたみたいね。シートで隠してある一中身は一体……?」
「勇者も心待ちにしていたようだが……む、シートを取るぞ!」
「あ、あれは!?」
「まさか!?」
『ガトリング砲!?』
「ぬおおっ!?何という無粋!勇者対魔王という王道の展開も、魔王の肉体諸共粉微塵にしていきおる!!」
「魔王が張った魔術壁も余裕で貫通されているわ!これはあんまりよ!」
「魔王がミンチよりもひどい有様になってしもうた……。げに恐ろしきは科学技術よ」
「ええ。これも、人間の特権といえばそうなんでしょうけど……」
「……」
「……」
「我らは、競うべき相手を間違っていたのかもしれぬな」
「ええ。早速、科学に対抗するための魔術を研究するわ!」
「我も、ガトリングの弾など跳ね返せるような肉体を実現せねばならぬ!」
「というわけで、私たちは急用ができたから今日はおしまい!」
「我を見習って、耳たぶ伏せや耳たぶプランクなどを怠るでないぞ、画面の前の諸君!」
「では、また機会があれば!」
「さらばじゃ!」
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