第六話 ラスタは師匠の屋敷に帰って、今日の出来事を報告する
「ただいま」
扉を開ける。
王立高等学園には寮もあるけど、僕は師匠の屋敷から通っている。
貴族が通う学園だから、僕以外の生徒たちは馬車で通うか寮生活だ。
師匠はいないみたいだ。
僕の13歳の誕生日前からずっと顔を合わせてない。
ときどき指示が残されてるから、ふらっと帰ってきてるみたいだけど。
僕は今日も一人、いや、ゴブりんと二人で——
「おかえりなさーい! ご飯にする? 今日もたくさんお話ししてくれる? それとも」
「ご飯にはまだ早いしじゃあお話で。あとそれともってなんですか」
「えっとねえ、ご主人様がラスタくんにそう言うといいよって教えてくれたの!」
「師匠、何してるんだろ……こんな子供に」
「えー? わたし子供じゃないよ? あ! ワタクシ、子供じゃありませんことよ? 精霊? なんだって!」
「あーはい、そうですよね。実体がない精霊の一種、
僕とゴブりんの二人じゃなかった。
出迎えてくれたのは、13歳の僕より背の低い女の子だった。
師匠からもらったっていう特注のメイド服を着て頭飾りをつけた女の子は、今日もニコニコと楽しそうだ。
師匠の屋敷に憑いている
「ふふー、じゃあお話しよう! わたし、お茶淹れてくる! またねラスタ、ゴブりん!」
「ゲギャ?」
パタパタと小走りで、ブラウニーがお茶の準備に向かう。
掃除や家事だけじゃなくて、お世話するのが楽しいらしい。
あと、師匠や僕とお話しするのも。
いつかゴブりんともお話しするんだー!って、僕の夢を応援してくれている。
「覚えてなくても仕方ないよ、ゴブりん。……いまはまだ。さ、行こうか」
「ゲギャ? グゲッ」
僕はまだゴブりんを常時召喚できないし、〈世界録〉に書き込んでゴブりんの記録を更新することもできない。
だからやっぱりゴブりんは「生きている」とは言えなくて……。
「一歩ずつ、一歩ずつだ。たとえ〈
呟く。
ひょっとしたら僕は、思ったより今日の模擬戦の結果に落ち込んでいるのかもしれない。
首をかしげるゴブりんを連れて、僕は中庭に向かった。
見た目幼いブラウニーと話せば、気分も変わるだろうと思って。
「なにそれヒドーい! ゴブりん、痛くなかった?」
「ゲギャッ?」
王立高等学園に入学してから、帰宅後にブラウニーにその日のことを報告するのが日常になっていた。
今日の召喚獣同士の模擬戦を話したら、ブラウニーは頬を膨らませてぷりぷり怒っている。
ゴブりんはよくわからず首を傾げている。
「それに、ラスタのことを〈できそこない
「いいんだ、ブラウニー。僕が、僕の思い描いた〈
ゴブりんは椅子に座ってお茶を飲んでる。
一口含んで、お茶の風味に驚いてから飲み出すのはいつものことだ。
ゴブりんは召喚獣で、召喚獣になったあとの出来事は蓄積されない。
だから再召喚したゴブりんは、今日の敗北もブラウニーが入れるお茶の美味しさも覚えていない。
いまは、まだ。
「もう、ラスタってば自己評価が低いんだから! ご主人様の弟子なのに!」
「僕のために怒ってくれてありがとう、ブラウニー」
「も、もう! 当たり前のことなんだからね!」
ブラウニーが顔を真っ赤にする。
家妖精は家に住む人の面倒を見るのが好きらしい。
「強くなってやり返すのよラスタ! そうすればみんなラスタのすごさをわかってくれて女の子も寄ってくるわ!」
「いやあ、それはいいかなあ。やり返すより、目標に近づくことが大事だから」
「むう、ほんとラスタは年寄りみたいなんだから! そんなんじゃ友達も恋人もできないわよ?」
「いいんだ、僕はやりたいことがあるし、ゴブりんがいるから。ブラウニーもいるしね」
「も、もう! そんなこと言われたって……今日のおかずを一品増やしてあげる!」
「はは、ありがとう」
師匠の屋敷だけど、最近、師匠はいない。
僕と、ゴブりんと、ブラウニー。
三人? 二人と一匹? 一人と一匹と一体? の生活が、王立高等学園に入学してからの僕の日常だ。
今日の模擬戦の反応を見ると、同級生の友達はできないかもしれない。
でも僕は、
「がんばろう。きっと、師匠が〈王立高等学園〉に通うように言った意味はあるはずだから。ひとまず図書館、かな」
学園に行くのは友達を作るためじゃない。
たぶん師匠は、僕の目標に近づくから通うようにいったはずだ。きっとそうだ。
だからぼっちでも寂しくない。
そもそもぼっちじゃない。
今日の出来事をブラウニーと話して、自分の未熟さを痛感した。
明日から、学園の空き時間は図書館に籠ることにしよう。
学園では訓練のため以外に召喚獣を喚べないから、一人で。
……ぼっちじゃない。
いまはまだ、〈できそこない
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