第三話 ラスタは〈王立高等学園〉に入学して授業を受ける
〈王立高等学園〉の入学試験が終わってから一週間。
騎士志望・文官志望・魔法専攻はそれぞれ別の教室で、授業がはじまっていた。
「世界に満ちたマナ、そして自らの内にあるマナを使って放つのが『魔法』です」
僕は師匠からもらった制服を着て、「魔法学基礎」の授業を受けている。
合格者発表の掲示板に、僕の名前があった時はホッとした。
僕が実技試験を受けた時の試験官さんの反応はイマイチだったし、ほかの受験生たちはざわついてたから。
「基本となる魔法は火・水・土・風、それに光と闇を加えた六種です」
「先生、召喚魔法は六種のうちどこに属するのでしょうか?」
「
教師の説明と同級生の質問を聞いて、僕はこっそりため息をついた。
……魔法は「放つ」んじゃないんだけどなあ。それに、最近「魔法の塔」が発表した論文で六属性理論は否定されてる。
授業を受けたのはまだ数日だけど、わかったことがある。
〈王立高等学園〉の、少なくとも魔法専攻の「魔法学基礎」はイマイチだ。
これなら師匠の屋敷にあった書物や覚え書きを読んでた方がよっぽどタメになる気がする。
できるなら実技の授業を増やすか「中級魔法学」や「マナ操作」なんかの細分化された授業を受けたいけど、初年度は授業を選べないらしい。
「師匠は何を考えて僕を〈王立高等学園〉に入れたんだろうなあ……」
誰にも聞かれないようにボヤく。
同級生はみんな瞳をキラキラと輝かせて、学習意欲が高い。
3つの志望を合わせて、今年の合格者は100人だった。
僕以外はみんな貴族で、幼い頃からの友人だったり親が同じ派閥だったり、入学前から知り合いだった人たちばかりらしい。
つまり、僕は一人ぼっちだ。
実技の授業中以外の召喚魔法も禁じられてるから、ゴブりんもいない。
とりあえず、師匠から貰った「アーヴェリーク」の家名のおかげで「平民ごときが!」って言われないだけまだマシだろう。
「マナの量は訓練で多少は増えることが確認されている。魔法の構築やマナの制御次第で効率を上げれば、いずれ上級魔法を使える者も出てくるだろう」
教師の授業を聞きながら、ぼんやりと外を眺める。
内なるマナを体に巡らせているため、聴力も視力も強化されている。
遠く訓練場で剣を打ち合わせる騎士志望の同級生たちの姿が見える。
……師匠の使い魔の黒騎士より弱い。
魔法使いでも身を守る術は必要だって、師匠は何度も黒騎士をけしかけてきたっけ。
「僕は何をしてるんだろう。ゴブりんを常時召喚して〈世界録〉に書き込めるようになるって決めたのに」
僕のただ一人の友達が、「自由」に「生」を送れるように。
入学してから何度目かもわからないため息をつく。
「むっ、鐘が鳴ったな。次の授業は実技となる。各自、遅れずに訓練場に来るように」
「はい!」
「次ってなんだっけ?」
「さあ、詳細はその場で説明するって」
授業終了の鐘と教師の言葉をきっかけに、同級生が立ち上がる。
イスは鳴らない。
きっと貴族らしい振る舞いの教育を受けてきたんだろう。
自分が浮いていることを自覚しながら、音を鳴らさないように僕もそっと立ち上がる。
「実技か……役に立つと授業だといいなあ」
同級生が連れ立って訓練場に向かう中、僕は一人で教室を出た。
このままじゃ、〈王立高等学園〉に入った利点は図書館を利用できることぐらいしかない。
でも、きっと師匠が入学させた意味はどこかにあるはずだ。
そんなことを考えながら、僕は廊下を歩いて訓練場に向かった。
一人で。
そういえば、こんなに長く一人でいるのもひさしぶりな気がする。
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