『第0-2章 ラスタ・アーヴェリークの悩み』
第0-2章 プロローグ
「師匠、頼まれてた素材を採ってきましたよ……師匠?」
師匠に保護されてから2年が経って。
僕は12歳になっていた。
貧民の僕は、生活に困って王都まで無謀な旅をして、途中でゴブりんに出会った。
賢いゴブりんに助けられて、王都までたどり着いた僕。
でも無知で無力なラスタは、王都を目の前にしてモンスターに襲われた。
8匹のゴブリン。
ゴブリンのゴブりんとは違う普通のゴブリン。
僕とゴブりんは、ここで死ぬはずだったのかもしれない。
助けてくれたのは、宮廷魔術師だった。
いまでは師匠のその人の魔法で、ゴブりんは〈
そして。
僕は、師匠の弟子になった。
いつか、ゴブりんを常時召喚して〈世界録〉にゴブりんの記録を書き込めるようになる。
そしてゴブりんがまた生を、自由を取り戻せるように。
それが僕の目標だ。
知らずに誓ったことだけど、その目標はとてつもなく高いらしい。
弟子となってからこの二年、師匠は僕を鍛えてくれた。
厳しく。
「魔術師たるもの、自ら手の内を明かすなど愚の骨頂。見て学べ、やって覚えろ。理論? そんなものは自習しろ」
などと言って、何度、師匠に魔法を撃ち込まれたことか。
王都の外に出て、モンスターと戦わされたこともある。
ほら、魔法を使えなければ死ぬぞ、それとも召喚獣を喚び出すか? なんて煽られながら。
死ぬかと思ったことは数えきれない。
いや、たぶん師匠が師匠じゃなければ死んでたと思う。
治癒の魔法も疲労回復薬を自作するのも、師匠はお手のものだったから。
寝る間を惜しんで書庫の魔法書を読み込んで理論を理解し、師匠の課題を前に実践する。
師匠の屋敷に憑いた
もちろん、ゴブりんの存在も大きかったけど。
とにかく、濃密な2年間だった。
いまでは僕も簡単な魔法を使えるようになって、ゴブりんの召喚もできるようになった。
いわゆる魔力、僕のマナが足りないから、常時召喚はまだできないけど。
「師匠、どこ言ったんだろ。うん? どうしたのゴブりん?」
今日はいつものように師匠に課題を出されて、森に白茸を採りに行った。
モンスターがいる森だから、僕はゴブりんを召喚して護衛をお願いした。
まだマナを使い切っていないから、ゴブりんは具現化したままだ。
そのゴブりんが、机の上を指さした。
何かある、と僕に伝えるように。
「師匠からの手紙? えーっと…………は?」
そこには、僕あての手紙が置かれていた。
思わず固まっちゃうほどの内容の。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
バカ弟子へ
しばらく旅に出る。
手続きをしておいたから、明日から〈学園〉へ通うように。
ああ、入学試験に落ちたら破門だ。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「意味わからないです師匠……だいたい学園って貴族の子弟が通う場所で、元貧民の僕が通える場所じゃ……」
呆然と手紙を見つめる僕。
通称・学園。
王都にあるそれは、街中の私塾なんかとは違う。
正式名称は、〈王立高等学園〉。
王立で高等な、学園。
高貴な血筋の貴族の子弟が、家庭教師をつけて幼い頃から心身を鍛え、勉強して、試験に合格して初めて入学できるエリート養成学校だ。
13歳から15歳の3年間で学業を修め、魔法を習い、戦闘技術を鍛える場所。
騎士や宮廷魔術師、文官のうちの一部は卒業生しか採用されない。
そんな場所に、僕が通うなんて。
というか僕はまだ12歳で……あっ。
「今日、誕生日だ……」
ぼそっと呟いた僕の肩を、ゴブりんがポンと叩く。
祝ってくれたわけじゃない。
ゴブりんはあいかわらず賢いけど、言葉は通じないから。
さっきのようにゴブりんが指さした場所に、木箱と手紙があった。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
追伸
いまの学園長は宮廷魔術師のあのクソジジイだ。
お前も会ったことがあるアイツだ。
話は通してあるから身分は心配するな。
それと制服は用意しておいた。
誕生日おめでとう。
今日からラスタ・アーヴェリークと名乗れ。
両親からもらった名と、ワシと同じ家名だ。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
二通目の手紙にあったのは、書きなぐったような師匠の文字。
「師匠……」
思わず涙ぐむ。
きっと師匠も照れくさかったんだろう。
だから置き手紙で、だから書きなぐったような文字で。
「ありがとうございます。でも……」
木箱の中にあった制服とカバンの手触りを確かめる。
ゴブりんは僕の背後できょとんとしてる。
「いきなり入学試験はキツすぎませんかね! 僕、試験勉強してないんですけど!」
僕の嘆きは師匠には届かない。
どこかで笑ってそうな気もするけど。
とにかく。
「やるしかない。ここで逃げたらまた地獄の修業が……お、思い出しただけでも震えが」
明日。
僕は、ラスタ・アーヴェリークは、〈王立高等学園〉に入学するため、試験を受けることになったらしい。
あいかわらず、師匠は無茶ぶりが過ぎる。
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