第七話 ラスタ、伊賀に判断を丸投げする
「ふむ……ダンジョンボスの広間の奥。通常なら秘宝がある場所に、マナの噴き出し口がある。それも
「ラスタさん? どういうことでしょう?」
「あくまで私の推論でしかありませんが」
「聞かせてください。我々は些細な情報でも必要としているのです」
奥多摩某所に突如現れた、ラスタいわく「ダンジョン」。
その一番奥、ダンジョンボスが陣取る部屋の前で、伊賀はラスタに話を続けるように促した。
田中ちゃん先生も生徒たちも、姫様や侍女やエルフは獣人娘や魔物っ娘も大人しく話を聞いている。
「あの場所が、私がいた世界と繋がったのでしょう。ゆえに、あちらのマナがここに流れ込んでいる。濃度を増したマナがダンジョンを作り、モンスターが発生したのです」
「へえモンスターってそうやって生まれるんだ。謎生物」
「おい納得するな〈バーバリアン〉。ラノベだってもうちょい設定しっかりしてるぞ」
「うるせえ〈ラノベ作家〉! 細けえことはいいんだよ!」
「脳筋
ラスタの推測を聞いて盛り上がっているのは異世界帰りの勇者たちだけだ。
姫様と侍女とエルフは、納得したとばかりに頷いている。獣人娘はこてんと首を傾げている。ここにも脳筋がいた。
「ダンジョンボスはダンジョンに紐づく存在です。倒せば、マナの噴き出し口がどうなるかわかりません。マナがさらに噴き出すのか、あるいは繋がりを断てるのか。いずれにせよ変化があるでしょう」
そう言って、ラスタは伊賀の目を見つめる。
「ですから伊賀さん。ダンジョンをどうするのか決めてください」
日本の、奥多摩の洞窟がダンジョンになった。
最深部からは異世界のマナが流れ出し、モンスターが発生している。
異常事態にどう対処するのか、ラスタは判断を伊賀に投げた。
いや。
「もちろん、いますぐでなくともかまいません。上の判断が必要でしょうからね」
伊賀を通して、上層部に判断を投げた。
さすが、宮廷魔術師でも下っ端だった男である。
「ラスタさん、猶予はどの程度でしょうか?」
「周辺のモンスターは殲滅、取りこぼしはありません。ダンジョン内の雑魚モンスターは取りこぼしがあるかもしれませんが、ダンジョン外に出るには時間がかかるでしょう。少なくとも一週間は、ダンジョン外に危険はありません」
ラスタの返答を聞いて、伊賀はほっと胸をなでおろした。
ここで即決できる事態ではなかったらしい。
「ただ、このまま放置したその先に、何が起こるかはわかりません。私がいた世界と繋がって誰でも行き来できるようになる可能性もあります。強力なモンスターが大量発生してダンジョンから出てくる可能性もあります」
ラスタがいた異世界であれば、ダンジョンのマナが濃くなればダンジョン内の構造やモンスターが変化する。
ただ、ここは異世界ではない。いやラスタからすればむしろここが異世界だが。ややこしい。
元の世界で魔法を学んできたラスタでも、この世界に生まれたダンジョンが今後どうなるかはわからないようだ。
「ラスタさん、強力なモンスターとは、自衛隊でも対処できるものでしょうか?」
「種族によるでしょうね。中には魔法でしか倒せないモンスターもいます。そうした相手には難しいでしょう」
「無理だって伊賀さん」
「ドラゴンには勝てるかもしれないけどなー、ゴーストとか上位種のスライムとかほんと面倒だからなー」
「周囲一帯を焼き払えばワンチャン?」
「心配いらねえって。そういうのが出てきたら俺たちが対処すっから」
「……ふっ。強力なモンスターを倒せば倒すほど、我は強くなる」
「さすが〈ネクロマンサー〉、タチが悪い」
青ざめる伊賀を慰めるように、生徒たちが喋り出す。
声を聞きつけたダンジョンボスが一行を見る。
が、敵意むき出しの目で睨みつけるだけで攻撃してこない。
「魔法無駄撃ちしてこない。自身は外に出られないことを理解している。知能は低くない、か」
ダンジョンボスの行動を見たラスタが呟く。
がやがや騒がしい生徒たちを止めなかったのは、調査の一環でもあったらしい。
「見るべきものは見ました。伊賀さん、帰りましょうか」
「そう、ですね。まずは報告しなくては。ラスタさん、同席をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
倒すとどうなるかわからないダンジョンボスはそのままに、ラスタたちはダンジョンを後にする。
帰路はモンスターと遭遇することもなく、作戦行動中の伊賀がラスタに質問をぶつけることもなかった。
ダンジョンを出てからは、監視のためにラスタを質問攻めにしていたが。
ともあれ。
決断は先送りにして、奥多摩に現れたモンスターの討伐と原因の調査は終わった。
ラスタはいつもと変わらぬ表情で、ファンタジーに触れた田中ちゃん先生は少し嬉しそうに、生徒たちは遠足気分ではしゃぎながら、奥多摩某所のキャンプ場から帰路についた。
伊賀は居残りである。がんばれ中間管理職。
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