第六話 ラスタ、ダンジョンでも容赦なく見敵必殺する
「懐かしいなあ、ダンジョン。冒険者になって探索しまくったなあ」
「お前はほんとハマってたよなあ。いくつ攻略したんだっけ?」
「えーっと、四つかな? 俺と剛力と薩摩で前衛やって、後衛は風間と知花で」
「なにそれ楽しそう! 俺も行けばよかった!」
「〈ソードマスター〉と〈拳闘士〉と〈侍〉、〈
奥多摩某所に出現した、ラスタいわく「ダンジョン」を進む一行。
異世界帰りの生徒たちのテンションは高い。
異世界組のうち姫様と侍女はダンジョンが初めてなのか、目を輝かせている。あと田中ちゃん先生も。
エルフと獣人族の娘は落ち着かないのか、びくついてそれぞれ生徒の袖をつまんでいた。
ラミアとアラクネは悠々と洞窟の中を進み、ハービーは〈テイマー〉に背負われている。
一行の先頭を行くのはラスタだ。
過去の苦労を思い出して顔をしかめながら、前方に〈光球〉を放つ。
洞窟の上方に当たって、ジュッと音を立てた。
「ラスタさん、いまのは?」
「
「はいっ! ラスタ先生、スライムは物理攻撃が効かないパターンもあります! これはどっちでしょうか?」
「美咲先生……? たしかに斬撃や打撃は効きづらいですが、生徒たちは問題ありません」
ラスタの横には大きな懐中電灯を手にした伊賀が、すぐ後ろを田中ちゃん先生が歩いている。
モンスターと戦った経験がない二人をラスタが守る並びである。
けっして教師同士のアレコレがあるわけではない。
ちなみにラスタが勤め、生徒が通う学校では学内恋愛は禁止されていない。男子校だけど。
「仮称『スライム』。こいつらが洞窟の外に出てきたら……」
雑魚だと聞いても、伊賀の顔色は悪い。
魔法には弱く物理攻撃が効きにくいということは、この世界で倒すのは大変だ、ということだ。
そんな伊賀を横目でチラッとうかがってから、ラスタは歩みを再開させた。
奥多摩のとあるエリアには、天然の鍾乳洞がいくつも存在する。
地層のせいか大規模なものは少ないが、ケイビングツアーが組まれる程度の規模はある。
ラスタたちが進むダンジョンも、元はそうした小規模な洞窟の一つ
「分岐なし、宝物もなく、モンスターも弱い。できたばかりのダンジョンですね」
「は、はあ……」
歩きながら、ラスタはときどき指先から魔法を飛ばす。
ゴブリン、スライム、ダンジョン
モンスターに見つかる前に魔法を放って打ち倒し、すたすた進んでいく。
無双である。
異世界で、ラスタはほかの魔法使いよりも内なるマナが少なかった。
それでも、魔法の精度と理論で国で100人しかいない宮廷魔術師として働いていたのだ。
そんな男が、〈二つの世界録〉に記録されたことで強化されて力を得た。
ダンジョン探索が余裕なのも当然だろう。
「ラスタ先生、ダンジョンに宝箱って、誰が置くんですか? さっきのゴブリンさん? それに分岐って、洞窟は自然が長い時間をかけて生み出したものですから分岐があるかどうかは」
「『ダンジョンはダンジョンの法則がある。同じに見えるがあそこは異界だと思え』。師匠の言葉です」
「は、はあ……」
伊賀と田中ちゃん先生は首をかしげるばかりだ。
生徒たちは訳知り顔で頷いているがただのノリである。
「ダンジョンは年経るほど深く、出現するモンスターは強くなると言われています。宝箱の中身は、死者の武器や装備にマナを宿して生み出される疑似餌だと」
「待ってくださいラスタさん。では今後、この仮称『ダンジョン』が強化されていく可能性も」
「高いでしょう。当然、今後はゴブリンとスライムとダンジョン
生徒や異世界組と違って、特務課の伊賀には頭が痛い話だ。
考え込む伊賀を連れて、ラスタはダンジョンを進んでいく。
時おり魔法を放ってモンスターを倒すのは変わらない。
そういえば、伊賀と田中ちゃん先生はスライムやダンジョン
ゴブリンの時は会話が通じるのか、こちらに敵意があるのか確かめようとしたのに。スライム差別である。ちょっと大きめで牙が鋭いネズミは、この世界にもいるためまあいいとして。
やがて、ラスタが足を止めた。
ダンジョンに入ってから20分ほどだろうか。
「この先の広間が、ダンジョンの最奥です」
「え? ラスタ先生、どうしてわかるんですか?」
「〈
曲がり角の先にある広間からはぼんやりと光が漏れる。
「ダンジョンボスのマナを感知しましたから」
ラスタはこともなげに近づいて、岩陰から広間を覗き込む。
続けて田中ちゃん先生も生徒たちも、頭をトーテムポールのように上下に並べて覗き込む。
伊賀だけは小さな鏡を持ち出して覗く。
「ああ、いますね。ゴブリン、魔術師型。ゴブリンソーサラー、もしくはゴブリンプリーストかシャーマンでしょう。さらなる上位種の可能性もありますが」
広間はおよそ20mほどだろうか。
岩壁の凹凸はあるものの、おおむね円形になっている。
中央の地面には魔法陣が描かれて、その中心で、ボロボロのローブをまとい、杖を手にしたゴブリンがブツブツ言っている。
粗末な装飾品は、動物などの骨を加工したものだろう。
明らかにほかのゴブリンとは違う。
「なあおっさん、アイツがボスってことはアイツを倒したらダンジョンはなくなるの?」
「そうだとも言えるし、そうではないとも言える。ダンジョンボスを倒した場合、しばらくは新たなモンスターや宝箱は現れなくなる。マナが溜まってダンジョンボスが復活するまで」
「あー、だから剣持たちがダンジョンを攻略してまわっても、ラスタ先生が謝るだけで済んだのか。復活するから」
「そういうことだ愛川。復活を早めるべく、宮廷魔術師たちがマナを注ぐことになったがな」
「あの、ラスタ先生。私、思ったんですけど……ここ、危なくないですか? ボスから見えますよね?」
「心配いりません。ダンジョンにはダンジョンの法則があると言いましたが……ダンジョンボスはボス部屋から出られないのです」
「え、ええ……?」
「待っておっさん、じゃあ血湧き肉躍る俺たちの接近戦はなんだったの? 遠距離で魔法を撃ちまくればOKだった?」
「外から攻撃した場合、相手を排除するまでは出てくるそうだ」
「すごく……ゲームっぽいです……」
「異世界よりダンジョンの方が謎な件。ひょっとして異世界の神様って日本人?」
「……ならば我に敵はない」
「落ち着け〈ネクロマンサー〉。スライムとダンジョン
「異世界のダンジョン攻略は〈ネクロマンサー〉最強説」
「なあおっさん、出られなくても攻撃してくる可能性はあるんじゃねえの? アイツ魔法使えるっぽいし」
「その心配も無用だ。魔法の阻害は私の得意とするところで、阻害に失敗しても防ぐ手段はある。……死にかけながら師匠に教え込まれたからな」
遠い目をするラスタ。
師匠の厳しい訓練を思い出したのだろう。
ダンジョンボスを前にして、ラスタも生徒たちも余裕の振る舞いである。
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