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「セイホ、ホクト、トウマ。旦那様に私たちの過去をお話します。いままでは黙っていましたが王政との関係性を話さないのは旦那様に対して貴女たちにも礼節を欠いていると思うのです。
旦那様、ここまで黙ってお付き合いありがとうございます。申し訳ありませんがお時間を頂戴致します。過ぎた話なので、おとぎ話として聞いていただけると助かります。
始まりは、私が特異体質を誰かの役に立てると思っていたところから。
私の血液を錬金術により昇華させ不治の病を治せる新薬を創りたい。そんな口車が私には心地よい響きでした。単純に不老不死の研究であるはずなのに、言い換えるだけでとてもよい行いだと錯覚し、思いたかった。
当然、不老不死の禁術を完成させるのに臨床実験が行われたのです。内容は私の血液を他者へ注入し続け細胞を入れ替え、内部構造を順応化させるもの。その臨床実験により多くの失敗作、人死を増やしながら実験は続けられました。
失敗作は処理しきれないほど膨れ上がり困り果てた王政はダンジョンへ遺体を遺棄し始めるのです。私の力を中途半端に受け継いだ遺体は人知れず脈動を始め、殺意に支配された魔物となっていたと私が生きてきてそのとき解ったのです。
魔物の正式な誕生は私にも判りませんが魔へ堕ちる者は人間がいたときから少なからずいた。数は多くはいなくとも魔物になっていたのです。しかし、いまほど多く魔物はいなかった。増えた原因は私にあるのは確かです。
失敗作は他人の感情にも感化され、支配された者は魔物となった。では、成功作となればよいかといえばそうではありません。三人は殺戮兵器として扱われ続け感情のないからっぽになってしまいます。
状況を知った私は三人を連れ研究施設を逃げました。そのときの私の力は弱く、始めは王政から逃げるだけで必死でした。襲ってくるゴミの殺意に溺れながらも、その感情が相手の本意だと信じたくなく、幾多に生き死にを繰り返し続け抵抗する力をつけるまで諦めなかったのは独りではなかったから。
勝手にからっぽの三人に名前を付け、愚妹にした三人がいてくれたから。それは、傍からみれば偽物であってもごっこ遊びに見えたとしても、私には嘘ではなかったのです。
切羽詰まった状況の最中。少しずつこの子たちのからっぽだった心が満ちていくを見ていくのが嬉しかった。意思を持ち、言葉を発し、表情を変え、温かみを覚えていく姿を見せてくれるのがありがたかった。
幸せでした。
しかし、四人で過ごせた時間が永遠に続けばとそう願っても、長くは続きませんでした。
あの日あのとき。追ってきた一人の殺意の帯びた言葉が引き金を引いたのです。
人殺し。
私に浴びせられた言葉は否定できない嘘でした。セイホが私のために怒ってくれていると感じてはいましたが聞こえてはいなかった。
彼の言葉だけが聞こえていた。
私はどこかで隠そうとしていた。自身の罪を和らげようとしていた。
できるはずはないのに。
妹に人殺しをさせていた私が人殺しでないわけがなかったのに。臨床実験に協力していた私が人殺しでないわけがなかったのに。魔物を殺していた私が人殺しでないわけがなかったのに。
だから、私は、正直者となった。
それから長い年月、ゴミを掃除し続け魔物のように殺意に支配され続けた私は限界を迎えホクトに封印を願ったのです。
三人と一緒にい続ければいつか、私が魔物になって愚妹を殺すか、魔物になった愚妹を殺すかの選択を迫られる未来しかありません。どちらも嫌だった私は縷の望みを持って眠り続けたのです。
あれこれ、もしもの話をしてどうしようもないのに、起きてからもずっと考え続けていたのですが旦那様のおかげでご存知の通りいまをみることができています。
私は、もう、この子たちが魔物になっても救えませんが、そのときはそのときで、いまと同じようにぎゅっとすればどうにかなる気がします。
あ、申し訳ございません。余談が過ぎました。
王政は力を手に入れようと私たちに接触してきます。
掃除はしましたが情報は伝えられてはいるでしょう。
接触されるのはうっとうしいですが、よい活用方法を思いつきましたのでよしとしましょう。
おとぎ話は一旦ここで止めておきましょうか。多くの事柄あり処理がしきれなくなりますからね。それに旦那様のお言葉から吐露しすぎるのはよろしくないと学びました」
え?
「『女性は甘く美しい秘密を着飾って男を利用ものだ』私の好きな旦那様のお言葉の一つです」
え、どこか甘く美しい話がありました?
「これからもよろしくお願いします、旦那様」
「ぬし様、どんな話に聞こえた?」
そっちはただの姉妹の絆の話でした。
「あるじ様、解ってるじゃん!」
それじゃ危険が迫ってきてるので、逃げていいですか?
「「「駄目です」」」
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