対米戦争を回避した現代日本。道庁に赤旗が翻る日、少年と少女は銃を執る。
[あらすじ]
昭和十三年に発見された満州の油田が対米戦争を回避した現代日本。ソ連で反政府組織にテロ行為を強要されていた少年・宮坂航也は記憶を失い、甘粕真琴憲兵中尉に保護され北海道庁立南高文科甲類に通っていた。
幼馴染で同級生の蝦夷森マヤ、ソ連からの留学生のアーニャ、そして航也の三人は弱小部活の剣道部。三人はある日、ススキノで北海道独立を目指す『アイヌモシリ共和同盟』が道会選挙を間近に控え起こした騒乱に巻き込まれるも、現場に急行した甘粕憲兵中尉に救出される。騒乱を指揮した共和同盟の大幹部である樺太ウィルタ族の北川小五郎は予備役軍人であり、憲兵隊の監視対象だったのだ。同じ夜、共和同盟に属するアイヌ民族のマヤは未来の現実世界から昭和十三年への時間遡及者が遺した現実世界の歴史教科書を入手する。マヤは現実世界の歴史を知り、アイヌ民族の権利確立へと思いを新たにする。
北海道独立を目指す共和同盟。核保有を目論む日本。緩衝地帯の成立と北樺太の原油採掘権返還を謀るソ連。三者三様の思惑が入り乱れる中、道庁長官で内務官僚の榎本隆之は特高警察を敵に回して陸軍省と通謀。甘粕憲兵中尉や南高歴史学准教授の高山圭介と連携し、民族自決を大義名分にアイヌモシリ共和国成立へと動き始める――
[登場人物紹介]
宮坂航也:北海道庁立南高等学校高等科文科甲類(英語)二年。十八歳。剣道部。剣術経験者。ロシア・スクールの一等書記官を父に持つ。モスクワ日本人学校中等部に在籍していた時期に、一家揃っての交通事故に遭遇。それにより両親を亡くし、自身も一年間の記憶を失っている。その後、中学校卒業程度認定試験を経て南高高等科に入学。現在は甘粕真琴憲兵中尉と同居し、彼女の後見を受けている。尋常小学校で幼馴染の蝦夷森マヤとアーニャは同級生。正担任は高山圭介准教授、副担任は配属将校で剣道部顧問の杉原たかね少尉。
蝦夷森マヤ:北海道庁立南高等学校高等科文科甲類(英語)二年。十八歳。剣道部。尋常小学校で幼馴染の宮坂航也と、留学生のアーニャは同級生。父方がアイヌ民族であるため、戸籍上は『北海道旧土人』。アイヌモシリ共和同盟の軍事組織・アイヌモシリ共和国軍の情報部に所属する少尉補。正担任は高山圭介准教授、副担任は配属将校で剣道部顧問の杉原たかね少尉。甘粕真琴憲兵中尉は義理の従姉。
アーニャ:北海道庁立南高等学校高等科文科甲類(英語)二年。十八歳。剣道部。フルネームはアンナ・アレクサンドロヴナ・ベリンスカヤ。ソヴィエト社会主義共和国連邦ロシア共和国ヴォルゴグラード市(スターリン批判前のスターリングラード市)出身の留学生。清楚な雰囲気をまとい、丁寧で品のある日本語を流暢に話す。宮坂航也と蝦夷森マヤは同級生。正担任は高山圭介准教授、副担任は配属将校で剣道部顧問の杉原たかね少尉。
杉原たかね:北海道庁立南高等学校配属将校(学校での軍事教練を担当する現役将校)。尋常小学校で一年飛び級しており、南高尋常科で同期だった高山圭介より一歳若い二十三歳。歩兵少尉。剣道部顧問で、宮坂航也・蝦夷森マヤ・アーニャの副担任。特技は家事。「陸軍式両手軍刀術」にかけては陸軍でも有数の名手だが、ペーパーテストと剣術以外には何の取り柄もない時代遅れの剣術家。札幌市真駒内(まこまない)に司令部を持つ第十一旅団抜刀隊の隊長として朝鮮半島の武装勢力鎮圧に当たったのち、とある事情で左遷され母校・南高の配属将校に着任している。プライベートは少女趣味。高山圭介准教授とは南高尋常科時代の同期で、甘粕真琴憲兵中尉は一期上。
高山圭介:北海道庁立南高等学校歴史学准教授。二十四歳。宮坂航也・蝦夷森マヤ・アーニャの正担任。南高高等科を経て京都帝国大学法学部卒。大学在学中、甲種幹部候補生制度により仙台予備士官学校で陸軍予備役少尉となっている。卒業後は大学院を経ずに京都帝大法学部助教として採用されたのち、准教授として母校・南高に着任。配属将校の杉原たかね少尉とは南高尋常科時代の同期で、甘粕真琴憲兵中尉は一期上。専門は日本政治外交史。道庁長官で内務官僚の榎本隆之は、大学時代の恩師。
甘粕真琴:憲兵中尉。北部方面憲兵隊第百二十地区憲兵隊真駒内憲兵分隊長。二十五歳。北海道庁立南高等学校尋常科を修了後、陸軍航空士官学校に入校。陸軍航空総軍北部航空方面隊第二航空団の戦闘機パイロットだったが、目の故障(ぶどう膜炎)で陸軍憲兵学校に入校し、憲兵に転科する。北部方面憲兵隊朝鮮派遣隊平壌分隊長、在ソ連日本国大使館駐在武官補佐官を経て現職。宮坂航也の後見人であり、蝦夷森マヤは義理の従妹に当たる。杉原たかねと高山圭介は、南高尋常科時代の一期下。