現代の東京に遷都した、ロマノフ朝亡命政府。気高き皇女は、時の涙を見る。
ロマノフ王朝が満州を経て、日本に落ち延びた現代。公務で函館に来ていたロシア帝国亡命政府皇女、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ五世は、ソ連の工作員による爆殺でボディーガードを失い第二次世界大戦で結ばれた休戦協定の破棄を通告される。皇帝に即位したアナスタシアは、高校の同級生で三枝警備保障から派遣されたボディーガードの甘粕忠彦と、その幼馴染で男装少女の三枝ひそかに守られながら学校生活を送っていく。ひそかはソ連隊を指揮するアンナ・アレクサンドロヴナ・ベリンスカヤ少尉補と接敵し、銃撃戦の末に警告を残して亡命政府へと戻る。日ソ国交正常化と日露国交断絶が迫る中、逃げ場を失ったアナスタシアを護るため、忠彦とひそかが取った行動は――
[登場人物紹介]
・甘粕忠彦(あまかす・ただひこ)
筑波大学附属駒場高等学校三年の男子生徒。甘粕正彦憲兵大尉の玄孫で、三枝警備保障株式会社副社長・甘粕義彦の令息。本作のヒロイン・ナーシャの護衛チームにおける運転担当(スバル・レガシィ)。五月生まれであったため三枝警備への入社ができず、ナーシャの初代警護車が爆破された『四月事件』には立ち会っていなかった。日ソの国交正常化を控える中、ナーシャをソ連の魔手から守るために奔走することとなる。『ROR団(ロシアの王政復古団)』副団長。クラスは三年B組。
・アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ(ナーシャ)
ロマノフ王朝第十九代ツァーリ、アナスタシア五世。男子校である筑波大学附属駒場高等学校唯一の女子生徒として、例外的に入学を許可されている。『余』という大仰な一人称を使う。通販番組が好き。甘粕忠彦と三枝ひそかによる警護の対象者。日ソの国交正常化が近づく中、ソ連政府の工作員にその身を狙われる。『ROR団』団長。クラスは三年B組。ロマノフ朝直系としては最後の生き残りである。
・三枝ひそか
三枝警備保障株式会社前社長令愛にして、同社第四号警備課(四課)員。甘粕忠彦の幼馴染。警備業法における身辺護衛を意味する『四号警備』のプロ。日ソの国交正常化が近づいてきた作中の情勢で、警護の必要性が高まったナーシャを護衛するため男装して筑波大学附属駒場高等学校三年次に編入してきた。本作のヒロイン・ナーシャの護衛チームにおける護衛担当。表面的にはナーシャの『彼氏』ということになっている。『ROR団』会計。クラスは三年B組。ナーシャの初代警護車が爆破された『四月事件』で、同車を運転していた父を失う。そのため、物語開始時の三枝警備保障は社長不在であり、代表取締役副社長・甘粕義彦がその事務を代理している。以前の任務で、アーニャが通う柚月野原女学院に通っていた。辛いものが苦手。珠算の心得があり、暗算が早い。
・ボリス・マクシミリアーノヴィチ・ヴォルコフ
亡命政府の駐在武官(大佐)にして、筑波大学附属駒場高等学校校長。兼務発令の交流人事により、ナーシャの通う筑波大学附属駒場高等学校校長に就任する。地歴の教員免許を持っており、高三の必修授業で日露関係を教えている。妻とは死別しており、どことなく陰のある男。名乗っているロシア名はナーシャに与えられたもの。もともとはチェチェン紛争の敗残兵。
・茶沢えり
筑波大学附属駒場高等学校理科教諭。学位は京都大学博士(理学)。ROR団顧問にして、メンバー三名の担任。マッドサイエンティストとしか呼びようのない残念な人物で、特殊相対性理論に挑みタイムマシンを開発することを研究者人生の目標としている。通称えりツィン。
・アンナ・アレクサンドロヴナ・ベリンスカヤ(アーニャ)
ソ連軍参謀本部情報総局(GRU)第三局所属・極東担当の少尉補。フィンランド大使館三等書記官。ロシア系フィンランド人として、都内のお嬢様学校である柚月野原女学院に通学している。ナーシャを狙うソ連部隊(小隊規模)の指揮官。異動前はソ連国内で、ロシア正教系反政府組織に潜入していた。前年度は留学中のフィンランド大使令愛護衛のため、在日。『四月事件』を露払いに、ロマノフ王朝壊滅のために作戦を開始する。
・ミナリンスカヤ
ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領。KGB出身の三十四歳。サラサラの銀髪をした美女。作中では訪日と、日ソ国交正常化を控えている。
・杉原たかね
防衛装備庁の三等陸尉。ヴォルコフの依頼により、忠彦の銃器訓練を請け負う。