祠の記憶 -蛭児姫の祈りー
miyuz
第1話 こんな男がいた
土砂降りの中を歩きたい。
飛ばされるような、暴風の中を歩きたい。
痛いほどの暑さの中を歩きたい。
吹雪の中に身を置いてみたい。
事件に遭遇したい。
不謹慎かもしれないが、こんな願望を持っている男がいた。
台風が来ても自分がいる場所をきれいに避けていく。
5 分ごとに、スマホで天候を確認しているが、雨雲は自分の場所を逸れていく。
斎藤
平和が敷いたレールを辿るように、暴風はその友人に付いて行くのである。
天候だけではない。幼い頃からの、その不運振りには年季が入っている。
小学生の頃、両親の離婚、飛んできたボールに当たり、ジャングルジムから落下し大けがをする。年頃になり、彼女が出来ても彼女の親の転勤で、それっきり。大人になっても、彼女を知り合いに取られたり、交通事故に遭ったり、結婚しても、嫁には逃げられ、散々な人生なのである。
かと思うと、商店街の福引で、旅行が当たったり、落とし物で大金を拾い、お礼をもらったりと、幸運もある。ある意味、メリハリのある人生だ。
自分は、平々凡々な人生を送り、家も持ち、ほどほどの大学に受かり、ほどほどの会社に勤め、何の不満もない人生なのである。
本人はたまったもんではないだろうが、風間平和みたいな人生を送りたい。平凡な生活を望まない奴がいてもいいではないか。自分がそういう奴なのであるから仕方がない。
いつも近くで、何か事件が起こらないか、竜巻でも発生しないか、常に、窓と空をチェックしている。すぐにスクープ写真が撮れるように、スマホも待機させているが、何にも起こらない。
人でも倒れていたら、すぐ助けられるのに。AEDシュミレーションは欠かせないルーティンだ。
今日は、その友人と旅行に行く約束をして駅で待っていたが、時間になっても来ない。
痴漢を捕まえたとかで、遅くなったと。
次の日、新聞に載り、英雄扱いだ。
この友人といたら、何か起きるのではと思うが、自分の平穏、安定パワーが強いのか、何も起こらないのである。なんとつまらない人生なんだ。
そんな今日も静か…のはずだった。
旅先で、山奥にひっそりと佇む小さな祠を見つけた。大きな神社は観光客がこぞって参拝しているが、ここは人の姿がない。こういう古めかしいのがご利益ありそうだと、風間に促され、一緒に参拝した。
いつもなら、神社には日々の報告と感謝をするのだが、この日は何故か、少しは乱暴なお願いも聞いてくれるだろうか。と思ってしまった。
「何か起きますように。」と。
それが間違いだった。
その時から、状況は一変した。
帰りに財布は落とすわ、痴漢に間違えられるわ、コンビニに寄れば、いつもの弁当が売り切れるわ、神様が早速、願いを聞いてくれたようだった。
その些細な不運は続いた。
ある時、交通事故で両足を骨折、とうとう入院してしまうという目に遭ってしまった。
このままだと命も危ない。
退院後、あまりにも続く災難に、元の生活に戻してもらおうと、もう一度、その祠のある場所へ行ってみた。
しかし、どこを探しても、祠は無く、道を間違えたかと、地元の人に尋ねてみるが、そんなものはなかったと話す。
決定的なのは、一緒に行った風間が、そんなところは行っていないという。
その都合のいい希望は叶えられない上に、とうとう、自分は頭もいかれたのかと、日々鬱々としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます