第2話 こんな女がいた。

 生れながらにして、不幸を背負い、人を憎んで生きてきた。


 上手くいかない事はすべて他人にせいにした。


 そうすることで、自分を保っていた。


 嫌われているのは分かっている。


 櫻井彩乃は、そうしなければ生きていく事ができなかった。


 もう疲れ果て、死のうと、ある山奥に入り、当てもなく歩いていた。


 どれくらい歩いただろうか、雨でぬかるんだ道で、足を滑らせ川岸まで滑落してしまった。


 身体中の痛みで、動くことができない。


 このまま、死ねるのかな…。楽になりたい。


 ゆっくりと目を閉じ、雨に打たれるままその時を待った。


 しかし。


 あの女だけは許せない。


 身体の痛みが増すとともに、ふつふつと、怒りが沸き起こってきた。


 意識があるなんて…罪だよ。


 やっぱり、そう簡単には死ねないよな…。死ぬことも出来ないなんて…。


「櫻井さーん!」


 遠くから、自分を呼ぶ声が近づいてくる。

 こんなところに知り合いなんているはずがないのに…。

 誰か、降りてくる。

 来なくていいのに…。


「大丈夫か?真っ赤なヤッケで、分かったよ。」


「あんた、誰?どっかで、見たことあんだけど。」


「野崎だ。5年前、櫻井さんのバイトしてた飲み屋の常連だった。」


「ああ、あの時の男。なんで、ここに居るのよ。私に貸したお金催促にきたのか。」


「あの時、そんなもん、要らないって言ったはずだ。」


「じゃあ、何故。助けに来なくて良かったのに。」


「あの時と同じ眼だな。」


「ふんっ」


「あんたの跡をつけてきたんだよ。目を離した隙に見失ってしまって。降りて麓で待っていたが、雨もひどくなって来たし、一人降りてこないと事務所から聞いて、あんただと思って、捜しに来たんだよ。それで、赤いあんたを発見した。」


「はあ?ストーカーか?」


「そういわれても仕方ないな。動けるか。」


「無理。で、なんで、私をつけてきたのよ。」


「詳しい事は、あとで話す。」


 野崎は麓の事務所に連絡をし、櫻井彩乃は、地元の病院に搬送され、足の骨折で、そのまま入院となった。



 退院後、1度来たことのあった、祠にあるお願いをしようと訪れたが、祠は、跡形もなく、消えていた。消えたというより、まるで、最初から無かったように、景色が全く違っていたのだった。


 


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