第7話 祠があった場所
彩乃と嵐は、電車の中にいた。
彩乃は、窓の桟に肘をつき車窓を、無言で眺めていた。
向かい合って座っている彩乃との張り詰めた空気感に、耐えかねた嵐は恐るおそる声をかけた。
「櫻井さん、どうしたの?」
「何が。」
「なんかあったんですか?」
「どうして。」
「いや、あの、この前の時より、疲れた顔してるから。」
「余計なお世話よ。」
「すみません。」
目も合わせてくれない。この人と、キャッチボールをするには、どうしたらいいんだ。
それでも、嵐は、時折ウトウトとしている彩乃に、優しい眼差しを向けていた。
寝不足なのかな。寝顔は意外とかわいい。これで、性格が良ければな…。
嵐はそんな事を思いながら、この心地よい緊張感中で、過ごしていた。
1時間ほどで、二人は目的地の神社に着いた。
今日は日曜日とあってか、参道は多くの観光客で賑わっていた。
「どこか、横に逸れていく細い道があったはずよね。」
二人は土産屋を見ながら、どこをどう回ったか思い出していた。
「この辺かな。」
「あんたはどう思う。」
「うん、ここら辺だと思う。土産屋の並びが、ちょうど切れたあたりの、このトイレに入って、出て、そうだ、その脇から細い道があったんだ。確か、そこに入って行ったよ。」
「そうよね、やっぱり、道はあった。絶対、この辺なんなんだけど…2人とも認識は同じってことね。」
彩乃が急に動き出し、道のない草むらを入って行った。
「櫻井さん、いきなりどうしたの。いやだな~もう、虫とか、蛇とか出てきそうだよ。」
嵐は、進もうとしない自分の足に言い聞かせるように、彩乃について行った。
「ねえ、ほら、ここ見て、石がある。礎石っぽい。」
彩乃が指さしたのは、四角い平らな石が、草に隠れるように、敷いてあった。
「やっぱり、なんか建ってた。」
「でも、彩乃ちゃん、この石だいぶ欠けてるし、3か所って中途半端だし、祠を見たの最近じゃん。こんな何十年も前みたいな跡、どう考えても違うよ。」
「その呼び方、気持ち悪いから、やめて。」
「だって櫻井さんって呼ぶのも、なんか…。」
「彩乃でいい。」
「そんな、呼び捨てなんて、出来ないよ。」
「じゃ、喋ってあげない。」
「う、わかった。あやの。」
「なんか、ムズムズするけど、まあいいや。私は嵐って呼ぶよ。」
「あ、はい、お願いします。」
「嵐もこの場所で、間違いなかったと思っているでしょ。」
「そう、確かにこの場所だった。でもどこにも祠なんて無いし、そもそも道がない。」
しばらく、考えてた彩乃が、とんでもないことを言い出した。
「こんなこと言ったら信じられないかもしれないけど、違う世界が、たまたま現れた。ほら、よく昔から神隠しなんていうじゃない。そのタイミングで現れた祠に、私たちは参拝した。そして祠は消えた。」
「まさか~」
「人が真剣に言ってるのよ。」
「え、でも、そんな事があるわけない。」
「だったら、この現象どう説明するの?」
「説明はできないけど…。」
「ね、あの時、どういう状態だった?私の時は雨降ってた。」
「自分の時も、雨だった。とういか、祠のところだけだったけど。」
「時間は?」
「午後、3時か4時かくらいだったと思う。」
「私も、そんな時間だった。」
「じゃ、今度、雨の日の午後、来てみよう。」
「いつ降るか分からないよ。」
「天気予報見ればいいでしょ。」
「そんな土日に、都合よく降るかな?」
「平日でも来るのよ。仕事休んでよ。」
「え~。」
「知りたいんでしょ。それに、元にもどして欲しいんでしょ。」
「そうだけど…。分かったよ。」
彩乃は思った。
なんか、遠い昔に感じた匂いがある。ここには…。
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