第15話 赤坂太一の相談

 放課後、僕は駅前にあるチェーン店のカフェにいた。前に北条から、秋葉のことで恋愛相談をされたところだ。

「赤坂くん、どうしたんですか?」

 僕の前には向かい合って座る委員長がいる。制服に濃紺のカーディガンを羽織り、前髪がややかかる瞳にメガネといういつもの姿。お互いとも、アイスコーヒーがテーブルに置かれていた。

「実は、北条さんに告白するのをやめてほしくて」

「どういうことですか?」

 委員長は僕の頼みを受け入れられないのか、棘がある口調で問いかけてくる。

「北条さん、どうも、秋葉のことをうっすらと覚えてるらしくて」

「赤坂くんが前にいた、未来の北条さんが好きな秋葉くんですか?」

「うん」

 僕は首を縦に振り、ストローでアイスコーヒーを飲む。

「もしかしたら、北条さんは秋葉が好きだったことをいずれ思い出すかもしれない」

「それが、何で、わたしの告白をやめなければいけないことになるんですか?」

「それはその……」

 僕は口ごもり、どう話そうかと頭を悩ませる。

「わたしが確実にフラれるかもしれないからですか?」

 見れば、委員長は瞳が潤んでいた。

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「だったら、何だって言うんですか? わたしは別にフラれてもいいです。ただ、自分の気持ちをちゃんと伝えたいんです。なのに、フラれるかもしれないから、告白をやめてほしいっていうのは、あんまりです」

 委員長は僕の方へ真っすぐな眼差しを送ったまま、強い語気で言葉をぶつけてくる。

「ごめん、その色々と勝手なことを言い過ぎました」

「まったくです」

 委員長はメガネを外し、涙を手で拭う。店内にいる客の何人かが視線をやっていたが、僕はあえて気にしないようにした。

「それで、赤坂くんはどうしたいんですか?」

「どうしたいって、それは……」

「わたしはクラス委員長です。『何かあったら、わたし、相談に乗りますから』って言いましたよね?」

「はい……」

 僕はうなずき、申し訳なさで俯いてしまう。委員長のことを考えていたつもりが、自分の都合優先とわかり、目を合わせられなかった。

「顔、上げてください」

「委員長?」

「赤坂くんは、北条さんに思い出してほしいんですよね? その、好きだった秋葉くんのことを」

「はい」

「なら、わたしにこうやって変なことをしないで、それに真っすぐ取り組めばいいだけだと思います」

「委員長は、本当にそれでいいの?」

「いいです」

 委員長ははっきりと言い切る。

「わたしのことは気にしないでください」

「でも」

「でもじゃないです」

 首を何回も横に振る委員長。先ほどは泣いていたというのに、強い人だなと、僕は内心で感じていた。

「結局は北条さんが決めることですから」

「そう、だね」

「だから、わたしに変に気を遣わなくても大丈夫です」

 委員長の言葉に、僕は抗おうとはしなかった。真っすぐ、自分のやるべきことをやれということなら。

「そしたら、委員長には別の相談があって」

「別の相談?」

「その、北条さんに、秋葉のことを思い出してもらうように協力をしてほしくて」

「例えば、どんな協力ですか?」

「それはこれから、色々考えようと」

「そうですか」

 委員長はため息をつくと、「わかりました」と口にした。

「協力します。今度、北条さんと話をするってことですよね?」

「そうなると思う」

「そしたら、話は別になりますね」

「別って、告白すること?」

「その前に告白して、北条さんとわたしの関係がぎくしゃくしたら、事がうまく進まないですよね」

「まあ、うん」

「だったら、北条さんが秋葉くんのことを思い出すまでは、告白することをやめます」

「それで、本当にいいの?」

「いいんです。秋葉くんを思い出す前に告白してうまくいったとしても、後で思い出されたりしたら、色々と複雑かもしれないですし……」

 委員長は表情に陰りを走らせつつ、ぽつりと口にした。

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