第9話 違和感

「ここは?」

 目を覚ました僕が体を起こすと、視界には見慣れた光景が広がっていた。

 いつもの平日受けている授業中の教室。

 教壇の方へ目をやれば、平家滅亡の内容が黒板に記されており、今が日本史だと気づく。

「もしかして、過去に戻った?」

 記憶の片隅にチョークで書き続ける白髪交じりの男性、大滝先生の言葉が思い出される。今度のテストに出すとか何とか。

 僕は記憶違いだろうと、机に広げているノートへ写そうとする。

 と、男性教師が手を止め、僕らの方へ正面を向けた。

「このあたり、今度のテストに出すからな」

 チョークで黒板を叩きつつ、大滝先生は口にする。

 同時に、クラスメイトらの多くは真剣そうな様子でノートを取っていた。一部は寝ていたり、勉強嫌いなのか、何もしない奴もいるけど。

 って、他人の反応など、どうでもいい。

「これ、過去に戻ってるってことだよね?」

 僕はおもむろに机の下でスマホを手に取り、液晶画面から日付を確かめる。

「五日前に戻ってる……」

 確かめた事実に対して、僕は戸惑いを隠せなかった。

 病院の屋上から飛び降りたはずなのに、僕は生きていて、しかも、過去にやってきている。

 北条の言う通りになっているなんて。

 僕はとっさにとある方へ視線を動かす。

 髪をヘアピンでサイドアップにまとめ、いつもの整った目鼻立ち。

 窓際の席に座る北条は、他のクラスメイトと同じように、教科書やノートを開いていた。

 だが、北条は驚いているような表情をしていない。

 おかしい。

 僕は違和感を抱かずにいられなかった。

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