第3話 遅れての登校

 SNSにて、朝から続くいくつもの沙友里のメッセージは、僕を気にかける言葉で溢れていた。

 スマホで既読にしつつ、返事をすると、すぐにメッセージがやってくるという繰り返し。沙友里は中学生で、授業とかあるはずなのに、大変だなと逆に心配をするようになってしまう。

 気づけば、五時間目の数学が終わり、午後の休み時間。次は日本史のはずだ。

「兄想いのいい妹さんね」

 顔をやれば、僕が座る席の前に、北条が近寄ってきていた。髪はいつの間にかサイドアップにしている。

「ちょっと午前休んだだけなんだけど」

「わたしはわかるわ。秋葉くんなんて、風邪で一日お休みでしょ? だから、朝、家まで様子を見に行って、窓から顔を出す秋葉くんを見て、ホッとしたわね」

「そ、そうですか」

 僕は内容に突っ込むことをせず、ただ抑揚がない調子で相づちを打つだけだった。

「それで、赤坂くん。放課後は、秋葉くんの見舞いに行くのよね?」

「えっ? まあ、うん。少しは顔を出そうかと」

「そうなの」

「ついてきます?」

 僕がぶっきらぼうに投げかけてみると、案の定というか、「可能なら」という答え。

「可能じゃないなら、聞かないと思いますけど」

「それもそうね」

「とりあえず、可能です」

「それもそうね」

「あのう、その前に言ってることと一字一句変わらないんですけど?」

 僕の質問に、頬を赤く染め、無言のままでいる北条。

 やはり、今日は学校を休めばよかったかもしれない。秋葉と同じように風邪とかウソをついて。

 だが、北条は恥ずかしさのあまり、風邪を引いた秋葉に何をしでかすかわからない。

 僕は教室の窓へ視線をやり、場をどうしようかと頭を悩ます。

「北条さんは、秋葉と付き合いたいんですよね?」

「可能なら」

「それは聞き慣れたんですけど」

「なら、わかってるでしょ?」

 顔を逸らしながらも、強気そうな調子で声をこぼす北条。もう、話を長引かせるのはやめよう。下手すれば、「殺してもいい?」と脅される。

「学校終わったら、秋葉の家に行くってことで」

「了解」

 北条は言うと、僕のそばから離れ、自分の席に戻っていってしまった。

「面倒なことになりそうだな……」

 僕はつぶやくなり、スマホの画面に映る沙友里からの新しいメッセージへ目を走らせた。

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