最終話 保健室再び
「大丈夫ですか?」
聞き覚えがある声で目を覚ますと、委員長と北条が上から覗き込むような形で立っていた。
「ここは?」
「保健室よ。赤坂くん、ここまで運ばれたの、覚えてなさそうね」
「運ばれた?」
「はい」
返事をする委員長。横にある窓は開いており、時折そよ風で白いカーテンが揺れていた。
「授業中、急に倒れたんです。多分、疲れてたのかもしれません」
「疲れてたって、昨日、秋葉さんの家に行ったこととか?」
「わかりません。ただ、今日はどうしますか? 中止にしますか?」
心配そうな表情をする委員長。対して、保健室のベッドで横になっていた僕は上半身だけ体を起こすなり、「いや」と首を横に振った。
「行かないと。もしかしたら、今日かもしれないし……」
「その秋葉さんが殺される日が今日っていうことかしら?」
北条の言葉に、僕はうなずく。
「今って、もしかしてもう、放課後?」
「はい。わたしたちはもう、学校を出ようかと思ってます。赤坂くんの鞄も持ってきました」
見れば、委員長が僕のであろう学校の鞄を足元に置いていた。
「その、ありがとう」
「いいえ。それより、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫。というより、倒れたこと、何も覚えてないんだけど……」
「そうみたいね」
北条がさも当然そうに声をこぼす。
「何か、眠ってる時にあったとか? 変な夢を見たとか」
「夢……。あっ、というより、夢か、どうかわからないですけど、北条さんに会いました」
「わたし?」
「いえ、正確に言えば、あっちの世界の北条さんです」
僕の答えに、北条は首を傾げる。
一方で委員長は、興味深そうな顔を移してきた。
「北条さんも、秋葉さんと同じように、別の世界にもいるんですか?」
「そうみたいだね」
「もしかしてですけど、別の世界の北条さんは、男だったりするんですか?」
「いや、同じ女子だけど……」
「そうなの。一度会ってみたいわね。もうひとりのわたしに」
北条は笑みを浮かべた後、学校の鞄を肩に提げる。
「とりあえず、わたしは先に校門前で待ってるわね」
「は、はい」
委員長の声と同時に、北条は先に保健室から立ち去っていった。
「それじゃあ、僕も行かないと」
「ですね。保健室の先生にはわたしから先に一声かけておきます」
「ありがとう」
「いえいえ」
委員長は口にするなり、僕がいるカーテンに囲まれたベッドから離れ、保健室の奥へ向かう。
僕は持ってきてもらった学校の鞄を手に、立ち上がる。脱いでいた上履きに踵を通し、遅れて出る。
僕と委員長は保健室の先生に挨拶を済ませると、北条が待つ校門まで足を急がせた。
北条綾乃の妙な恋愛相談 青見銀縁 @aomi_ginbuchi
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