第5話 放課後の公園にて

「遠回りしてるわよね?」

 学校を出て、数十分経ったところで、北条はつぶやいてきた。

 今いる場所は住宅街の一角にある公園の中。

 砂場には子供らが遊んでおり、母親らしき女性らはそばのベンチに座り、話をしている。

「もう、そろそろ着くと思うから」

「とぼけてる?」

「さあ、何のことか……」

「赤坂くんがそういう気なら、わたしにも考えがあるんだけど?」

 北条は口にするなり、学校の鞄から何かを出そうとする。

「ストップ!」

 僕はすぐに手を突き出し、声を張り上げた。

「なら、何で遠回りしてるの? わたしを秋葉くんに会わせないため?」

「いや、その何て言うか……」

 理由としては単純、北条の言う通り、秋葉と顔を合わせたくないからだ。

 何となくだけど、彼女がどういうことをするのか、わからないからだ。下手すれば、僕は殺されるのではないかという予感もよぎる。

 だけど、自分が今持っているプリント数枚は届けなければならない。

 とまあ、色々と頭を巡らした挙句の結果が、変に遠回りするという行動を起こしていた。

 お互いに足を止め、正面を合わせると、北条は両腕を組んで、訝し気な視線を送ってくる。

「図星みたいだけど、なら、何で、学校でわたしを誘ったの?」

「あれは何となく、だけど、よくよく考えてみると、やっぱり……」

「優柔不断ね」

 北条はため息をつくと、僕から背を向けた。

「北条さん?」

「今日はいいわ。赤坂くんひとりで行ってきて」

「行かないんですか?」

「わたしは場所も知ってるし、やろうと思えば、中に入ることもできるから」

「それって、不法侵入とかじゃないですよね?」

「そうね。法律的にはそうなるけど、わたしは気にしないわね」

 さらりと答える北条に対して、僕はただ、「そうですか……」と言うしかない。

「じゃあ、その、お言葉に甘えて」

「気を付けなさいよ」

 不意に、北条がぽつりと口にしたので、僕は「えっ?」と聞き返す。

「何でもないわ」

「いや、その、まるで、僕が危ないところへ行くかのような言い方に聞こえるんだけど……」

「そうね。その捉え方はあながち間違いじゃないわね」

 北条は声をこぼすと、顔を逸らし、場から立ち去っていった。

 取り残された僕は、北条の言葉についてを頭で巡らしたものの、答えは浮かばなかった。

 頭を掻き、僕はおもむろに足を動かし始める。

「まあ、秋葉にプリントを渡すだけだから」

 日が傾き始め、陽光が照りつける公園内を僕は進んでいった。

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