第16話 秋葉の手がかり
「ところで」
委員長はメガネをかけ直すと、正面を合わせてきた。
「秋葉くんは、赤坂くんと同じ男子ですか?」
「そうだね」
「クラスメイトの友達で、この世界にはいない人間。それで、北条さんが好きだった相手」
「うん。で、前にいた世界で殺された」
「殺されたんですか?」
委員長は驚いたのか、目を丸くする。
「犯人は誰だったんですか?」
「わからない」
「そうだったんですね……」
「ついでに言うと、僕はその犯人に頭を殴られた」
「その時、顔を見ていないんですか?」
「残念だけど」
僕が首を横に振ると、委員長は肩を落とした。
「色々と大変だったんですね。お察しします」
「いや、そもそも、今のことは僕が喋ったことを信じるしかないから」
「いえ、一度信じると決めたからには、そういう話も信じます」
「何だか、その、ありがとうございます」
僕は思わず、頭を下げる。
対して、委員長は僕の行動に慌てたのか、「顔、上げてください」と声をかけてくれた。
「とりあえずは、北条さんに秋葉くんのことを思い出してもらうことから始めるんですよね」
委員長は言うなり、スマホを取り出す。瞳にややかかっている前髪が気になったのか、手でわずかに掻き上げた。
「ネットでそういうのでいい方法とかあるかもしれません」
「いや、そういうのって、大抵オカルト的な内容しかないと思うけど……」
「そこは承知の上で頼るしかないかなと思います」
答える委員長はスマホを操り始めた。
僕は自分のアイスコーヒーに口をつけ、どうしようかと考える。持ってきていたガムシロップを入れ忘れたので、味は苦い。
「ちなみに、念のために聞きたいんだけど、委員長は秋葉のことって、何か覚えてたりする?」
「いえ、何も……。赤坂くんには申し訳ないですけど」
かぶりを振る委員長。やはり、北条に思い出してもらうしかないのか。そもそも、できるかも怪しい。委員長がスマホで調べているものの、気難しそうな表情を浮かべているだけだ。
「秋葉の手がかりとか、残ってないかな……」
「手がかりですか?」
「違う世界とはいえ、どこかしらに別の世界で存在してた跡とか」
「でも、わたし含めて、誰も秋葉くんのことを覚えている人はいないですから……」
「そうだよね……」
「後は秋葉くんが住んでいたところとか」
「住んでいたところ……。あっ」
僕が漏らした声に、委員長はスマホの液晶画面から、僕の方へ視線を変えた。
「心当たりがあるんですか?」
「あるも何も、僕が頭を殴られたところ」
「それって、さっき話していた秋葉くんを殺した犯人にですか?」
「うん」
「ということは、秋葉くんは」
「自分の家で殺された」
僕の言葉に、委員長は立ち上がった。
「委員長?」
「場所、覚えてますか?」
「そこは一応」
「この後、予定ありますか?」
「もしかしてだけど」
「はい。今から、秋葉くんの家に行ってみる価値はあると思います」
委員長は言うなり、持っていたスマホを学校の鞄にしまい、肩に提げる。もう、出る気満々のようだ。
「一応、その確認するけど、秋葉のこと、委員長は本当に協力してくれるの?」
「はい」
うなずく委員長。
僕は見るなり、意を決して、残っていたアイスコーヒーを飲み干した。ガムシロップはないものの、もう、いい。北条はブラックコーヒーだったのだからと、変な理由を自分に言い聞かせる。
「ちょっと歩くけど」
「構いません」
委員長の返事に、僕は、「それなら、行こう」と言い、腰を上げた。
口の中は苦いアイスコーヒーの味が染み渡っていたものの、僕は気にしないことにした。
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