第4話 割れずの盆
科州は州内に多数の島嶼を持っている。そのため出所不明の漂流物がよく流れ着く。
夏の初めのころ、特に嵐の翌日、早い夜明けに島の浜を訪れた者は、生ぬるい潮風を感じながら、剃刀のような日の出、そして太陽に照らされて光る紺色の、砂粒とほとんど大きさでは区別がつかない漂流物を見るだろう。
空の紺色が薄い青色に変わるにつれ、異国もしくは異界からの漂流物は青色に輝き、日没には橙色に染まる。
砂を集めて、適当な大きさの器に移せば、数日後には器の底に漂流物は沈殿して、適当な大きさの異物になる。大きさが不十分の場合は砕き、さらに大きな器に砂を加えて混ぜると、詰まりは団扇ほどの盆状のものになり、そうなるとどのような道具をもってしても砕けない。色は、はじめは砂を集めた時刻に応じたもので(朝には紺、夕には橙)、砕いて大きくすると虹色となる。
異物にくわしい賢者は、それは「龍の鱗」であると言う。
別の賢者は、それは天上を飛ぶ船のかけらだと言う。
確かに、実にしばしば、盆になりそこなった異物は、ヒトには知る由もない機械の部品のようなものと化す。ヒトは夜に、さり気なく、それらを浜に戻す。
親指の爪ほどの大きさでよいのなら一夜で十分である。島に遊びに来たヒトは、朝に砂を集め、宿の者に渡して、宿を出るときに紺色の異物を受け取る。盆を小さくしたようなもののときもあれば、螺子的な謎の形態の場合もある。
島の砂はそういう観光客によってあちこちの州に持ち出され、もしその異物が何かのかけらで、まとまったら巨大な何か(龍もしくは構造物)になるようなものだったとしても、もはや元の形を取ることは難しいだろう。
確かに島の岬には、潮の流れか、あるいは何かの意思を持った異物によるものか、もしそれが船だとしたら、ヒトが数百人は乗れると推定できる、伏龍を思わせる異物の巨大な塊がある。
数十世代ほど前に描かれた絵図と比べると、その塊は確かに大きくなっているので、あるいは数十、数百世代後のヒトは、その虹色の何かが動き、羽ばたいてこの世の果てへ飛ぶのを見ることができるかもしれない。
夏来てもただひとつ葉の一葉かな 芭蕉
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