第11話 三体の龍

 等州のとある領地、港に流れる川の上に作られた城は、攻めるのにたやすく守るのにむずかしいため、戦乱の時代にはたびたび城主・領主が交代した。その城を見下ろす小高い丘の上には、見慣れぬ者にはほどほどの大きさの、攻守ともに難い出城のようにも見える構造物があり、夏の終わりには秋の虫が、その構造物の回りに生い茂る夏草の中で、ちりり、ちりり、と鳴く。

 そこにはかつて書物が紙や布、動物の皮などに書かれていた時代の、貴重な書物を集めた蔵があった、と賢者は旅人に案内をしながら語った。

 埃や塵、風雨その他の外敵から守っていたのは電龍で、同じ力をもって、十分な知恵を求めていない野蛮人にも、その蔵は隠されていた。戦乱と混乱、繰り返される闘争と難民から隠れ、何十世代にもわたり知るものは賢者の道を極めようとするものばかりだった。

 ヒトとは異なるとはいえ十分な叡智を持っていた電龍は、仲間の金龍と黒龍を呼び、蔵に収められていたいにしえの書物のうち、物語の語り手たちが語るにふさわしい物語が記されているものの写しを作って広めることにした。金龍が作った鋳型に黒龍が墨を流し込んで、紙の上のひとつの物語は、別の数百もの紙の上の物語となった。

 その後、文字を伝えるわざは紙から携帯端末に代わり、つとめを終えたと悟った三体は組をほどいて、ヒトには知る由もない異世界へ潜った。


夏草やつはものどもが夢の跡 芭蕉

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