第23話 監視者の秘密と露天風呂
監視者である青の6号と赤の1号は、射的場に面している茶店の縁台で、炒り豆をつまみながら雑談をした。相席した武官にとって夕闇の風は心地よく、そのことをふたりに告げると、そういう触感や暑さ・寒さなどに対する体感は、わたしたちはヒトよりもやや感じにくいように出来ているのだ、と、赤い武官は残念げに語った。
この青い子はお嬢様度が高いんだったら、おまえは何の度合いがどういう設定なのだ、と、武官は赤い監視者に聞いた。
それはわたくしが説明しますわ、と、青い監視者は玩具の矢で、地面に丸とそれに接する五芒星を描き、その5つの先に「攻」「防」「速」「知」「力」という字を書き、さらに中央の五角形に「嬢」という字を、苦労して書いた。
これがわたくしの能力で、五つの力は合計して100になるようにしてあるのですわ、と、青い監視者は言った。
さらに続けて青い監視者は、それに並べて同じような図形を描き、中央の五角形に「妹」という字を書いた。
ご覧のとおり、わたくしは攻撃力と知力の数値が高いのですわ。それに対して1号は、防御力とすばやさが高い、要するに攻撃は連れの年長者にまかせて、ごーろごーろ戦いを見守っていればいい、という安楽設定なんですの、と、青い監視者は説明した。
おまえ、妹だったんか、と、武官は驚き、赤い監視者はうす赤い体の色をさらに濃くした。
ま、まあ、年長者の保護意識を高めると同時に、生意気感でその者をあおるのだな。おまえはそんなこともできないのか、みたいな感じで、と、赤い監視者はもじもじしながら言った。
ああ、うらやましいですわ、わたくしも武官様を年長者としてお慕い申したいのですが、よろしいでしょうか、と、青い武官は薄赤青色に肌を染めて言った。
*
しばらく3人は、どんな妹だったらいいか、という話で盛り上がり、やっぱ義理の妹で、金のあるのがいいよね、という風に話がまとまった。
それからさらにしばらくすると、青い監視者の連れは、まったくもう、こんなところにいたんですか、探したんですから、と汗をかきかきやってきた。青い監視者の連れは、白い髪をした小柄な文官で、赤い監視者の連れである武官の顔なじみだった。
なんだ、おまえだったんか、と、武官は言い、なんだ、とはご挨拶だな、と、文官は返して、ふたりは笑った。
別の旅館に泊まっているから、とりあえずお互いはここで別れよう、と、武官は言い、お名残惜しいですわ、と、青い監視者は言った。
ところで、露天風呂のほうは混浴なのか、と、武官は赤い監視者に聞いた。
そりゃそうだけどね、いるのは古狐や古狸みたいなのばかりだぞ。妖異の正体はだいたいそんなものだからな、と、監視者は言った。
*
露天風呂の湯は白濁度が高く、温めの温度設定で居心地はよかった。そして、しばらくすると、いつもの賢者が、いつもの黄衣を脱いでもじもじしながらやってきて、武官を指差しながら、ここは混浴なのですか、と驚いた声で言った。
今は同性しかいないけど、いちおうそうだよ、と、武官は答えたので、賢者はええええっ、とさらに驚いた。
武官は男子だったんじゃないんですか、と、賢者は聞いた。
過去の物語を読み直してみろ、どこにおれが男子だという描写が出てきてる、と、武官は答えた。
*
第12話 星からの監視者 「普州の若い、領主を持たぬ武官」
第13話 鋼の体液 「武官は熱くて赤い体液を背中から多分に流しながら語った。」
第15話 火狐の旧神 「武官はつかえる領主を持たない若者で、闇色の瞳と闇よりもさらに濃い黒色の髪をしていた。」
第16話 目覚まし時計工場 「読み手への奉仕の心がゆたかな語り手なら、ふたりは分厚い防寒衣を脱いで半裸の、真夏の海岸で遊ぶ程度の薄着になった、と語るだろう。」
*
………確かに武官が男子という描写はないですね、と、賢者は納得した。
もっとその証拠を見せてやろう、と、武官は白濁した湯から立ち上がって半身を見せた。
し、し、しかし、単に胸が大きな男子ということもあるでしょうし、と、賢者は言い張ったが、うるさい、おまえの身分不相応な胸を揉みしだいてやる、と、武官は怒った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます