第6話 空草(うつろぐさ)
使州の平原には秋のススキが終わった頃に空草(うつろぐさ)が生えることがある。子供の背ほどに育つ、異界に由来を持つ草とされる。緑にふちどられた葉は中空であり、茎も根もうつろのところが多い草で、黄色いうつろな花を咲かせて黄色い種を遠くまで飛ばす。街道や人の往来がある土地には生えることはなく、見捨てられた古寺や廃屋の庭などには平原と同じぐらい好んで生える。根は深いのですっかり取り除くことはなかなか難しい。毎年同じころ、実がなる前に、まわりに注意しながら火を放つとめらめらと燃える。
はっきりした治しの薬が医者によって見出されるまでは、空病(うつろやまい)というはやりやまいが諸州にひろがり、特に使州ではひとつの村のヒトがほろび尽きた例もあった。空病(うつろやまい)は空草(うつろぐさ)の葉や根を素手で長いことさわる、あるいは空虫(うつろむし)という、アブほどの大きさの虫に刺される、などによってヒトにうつる。
はじめはものが食べられなくなり、次第に体の重さが減る。はたで見る限りではひどく痩せたという感じはなく、本人もごく当たり前に体を動かすことができる。しかし病が進むと手足に力が入らず、重たいものが持ちあがらなくなり、体のところどころが薄く、骨なども透けて見えるようになる。しまいには床に伏せたまま動かず、朝には藁屑のような骨を残して果てる。
今日では空病(うつろやまい)は心のやまいとしてのみ知られ、夜の眠りが浅くなり、しばしば見る異界の夢は緑色のふちどりを持ち、そのふちどりが次第に濃さを増す。
秋風に折れて悲しき桑の杖 芭蕉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます