第2話 三堕人

 普州の王都に近い所に領地を持つ領主は十を越える数のステゴを育てていた。そのうちの下から三人は、領主になる可能性が低いため自ら宗旨替えの儀式をおこない、領主への忠誠を捨てる代償として、旧神の一柱にかなうことが可能な願い事をした。

 長寿と富と名声のうちひとつを、三人はそれぞれ選んだ。

 長寿を選んだ者は医者になり、死にそうな者の延命処理を、当人や家族の申請により省略し、延命していれば生きる意味を見出さないまま果てるはずのそのものの寿命を旧神よりさずかり、その時代の誰よりも長生きをした。

 富を選んだ者は商人になり、難船や強盗によって奪われた積荷・財宝は、その者と旧神のみが知る祠に移され、巨万の富を得た。

 名声を選んだ者は物語の語り手になり、その分野での著名を後世に残した。

 医者は患者の、本来なら無駄に費やされる延命を現世において借り、商人は本来なら失われる筈の積荷・財宝を蓄え、物語の語り手はその話を読み聞きする者たちの無為な時間を奪った。

 三人は、旧神に次のようなことを言われた。

 死ぬべき業にあらざる者を殺すな、正しく回される金は奪うな。そして、完結しない物語を書くな。

 三人はその誓いを守り、殺人鬼にも、盗人にも、また未完の物語作者にもならなかった。


草も木も離れ切つたるひばりかな 芭蕉

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