第26話 赤い目の石像

 央州にある大きな湖の周辺にはそれなりの集落があり、中央には小さな島があった。島には旧神を祀る社が昔から存在しており、朽ち果てた本神殿の左右には唐獅子の石像が置かれていた。成熟女性体の、とあるヒトは定期的に神殿をおとずれ、旧神の平穏を祈っていた。ある日そのヒトは、二頭の唐獅子が出てくる夢を見た。夢の中で唐獅子は、自らを旧神の使い魔だと語り、おれたちの目が赤くなるとき、村は水の底になるので、逃げるように、と伝えた。

 目覚めるとそのヒトは、話を村人に伝えた。しかし、村長を含めて信じるものは少なく、石像の目が赤くなることもなかった。

 夏の終わりのある日、することもなくなった子供たちは、手漕ぎの小さな舟を一艘手に入れ、赤い絵の具を持って島に渡った。舟は村の漁師が捨てたもので、あちこちから水が漏った。子供たちは夜明け前に村を出て、日の出をその島で迎えると、石像の目を赤くする作業にかかった。

 その日の朝、石像を見た信心深いヒトは驚き、急いで村のヒトたちに告げようと神殿の階段を駆け下り、すっ転びそうなところを、別の成熟女性体に支えられた。

 まったくもう、しょうがないな、と、信心深くないヒトはつぶやき、持ってきた汚れ落としとボロ布で、赤く塗られた石像の目を拭い去った。石像の目は元の石の目の色になり、村は沈むことはなかった。

 その後、ふたりは一緒に暮らし、旧神の実在・不在に関する意見の相違を除けば、仲違いすることはなかった。

     *

 その村が、あったところが、ぼくたちの、舟の下に、見える、と、竜王の後継者であり、カメの血を引く美貌の王子・カガミは息を切らしながら言った。

 白鳥の形を模した3艘の足漕ぎ舟に、3組の知性体は分かれて乗った。

 かつて、電気を、水力で、得ていた、時代に、作られた、遺物で、今は、夏枯れの、季節にも、農業用水を、溜めて流す、堰壁によって、この湖は、大きく、なることを、強いられた、のだ、と、カガミは説明した。

 ぼくの、住む、世界の、古い、代理人が、その、設備に、投資し、かつては、山の、中腹に、あった、城は、今は、湖畔に、ある、と、カガミは話を続けた。

 その足漕ぎ舟の足漕ぎ担当者は本当に大変で、ふたりひと組のうちのひとりが、カガミだった。

     *

 武官と賢者が必死で漕ぐ足漕ぎ舟の後部座席で、話を聞きながら、監視者は、それって汚れ落としの宣伝だろう、と言った。

 村の水没すら救える、この超強力な汚れ落とし、通常ならひと貝で百文だが、今回だけ、限定二百人様に限り、小貝を添えてふた貝で百文、これは売れるよお姉ちゃん、と、別の舟の後部座席の白い吸血姫のジゼルは、汗をだらだら流しながら漕いでいる赤い吸血姫に言った。

 うるさい、今はそれどころではない、と、赤い吸血姫のミカエルは答えた。

 6体の漕手のうちの3体は、勝手に舟漕ぎ競争にしていた。

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