第19話 月と旧神
機械の神によってヒトの世界を追われた旧神のうち、吸血神は偽の月の地下へ逃げた。旧神をまつっていたほこらは、新しい神が支配するヒトの世界にも数限りなく残されており、月が地球に影を落とす日食の日と場所を選んで、吸血神はヒトの世界に降りてきてヒトの血を集める。
いっぽう、オオカミとヒトの血を継ぐ人狼神は、満月の夜にその真もしくは偽の姿をまとって徘徊する。
月食は、月を食べながらその色を青から赤に変える旧神の龍の力だった。
夏も終わりの満月で月食の夜、大きくて尾と耳を持つ人狼神の影と、小さくて翼を持つ吸血神の影は、まだ夏草も枯れきっていない丘の中腹で寄り添っていた。すこし開けたその丘の草原は、亜人によって一部が短く刈り取られており、そこには影踏みをして遊んだ子供たちの足のあともあった。
ふたつの影は月の光が弱くなるのとは逆にその濃さを増していった。
ふたりの会話は、それを見ていた賢者には遠すぎて聞こえなかった。しかし、賢者は記録として、次のように書き記した。
お互いの一族の過去と因縁、および仲間の旧神はどこへ消えたのか、みんなで埋めた思い出の遺物は今でも残っているだろうか、遠い未来にはお互いの一族は何になっているか、次はいつ会えるか、ということを話している、と。
*
旅を続ける若い武官、および若すぎる外見の監視者は立ち上がって向きを変え、かしゃかしゃとうるさい携帯端末でふたりの画像を残している賢妖猫のミネコに、満足できる物語は作れただろうか、と声をかけた。
領主の代理人候補者でネコの血を継ぐミネコ、近い未来の領主であり、それよりはすこし遠い未来の賢者であるミネコは、現領主の指示をうけて、その夜にふたりの物語を作った。
いつの時代も、物語は高く売れないことはないが、その多くはヒトの手なぐさみのまま果てる。あるいはまた、形を変えてよみがえる。
わたしは吸血神というよりは、ふらんけんしゅたいんのもんすたーのほうに近いのだが、と、監視者は言った。
不乱軒朱多院の門衆徒? それはどのような武将もしくは名僧なのか、と、武官は尋ねた。
*
その丘で三人は記念の画像を撮ったあと、食が終わりじわじわと元の姿に戻る満月を背後にして宿に戻った。ネコに甘味はわかるまい、と監視者は、もぐもぐと月見団子を食べながら、宿の料理人から手に入れた煮干しをミネコに与えた。
あまり馬鹿にしないでください、と言いながらも、ミネコはもしゃもしゃと煮干しを、おいしそうに食べた。
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