第14話 龍と鳥と魚

 共に旅をしていた監視者と武官は、夏のはじめに科州の浜の宿で銀色の龍の夢を見た。龍は、かなうものならわれらを食べる金翅鳥から守って欲しい、と、夢の中で訴え、ふたりは相談したあげく、できるかぎり尽くしてみよう、ということで話はまとまった。同じ夢を同じ宿で見た賢者は、ふたりと共に浜に向かい、夜明け前には武官の盟友とのつながりで、こぶしほどの口径がある鳥撃ちの散弾銃が3門、領主によって用意された。昼すぎには近隣の領主の助けにより、あわせて30門の大砲も運ばれた。

 午後の太陽が照りつけるなか、海に黒雲がわきあがり、空へ向かってのぼる数百の竜巻を、何百人のヒトと亜人は見た。その灰白色の渦のひとつひとつのなかには、巨大な龍の銀色のうろこが見えかくれした。

 そしてしばらくするとさらに巨大な、亜人のみが操縦を許される航空輸送機ほどの大きさの金翅鳥が数十ほどもあらわれ、砲や銃による攻撃などがおよばぬはるか空の上で、猛禽類が中程度の大きさのヘビを食べるがごとく、龍をむさぼり喰った。

 監視者が招いた助けは、さらに巨大な、島ほどもある虹色の魚で、その魚が金翅鳥を食べるために大海原から飛び上がると、その尾からは虹が伸び、波打ち際の波は大波になった。

 わたしが上級者に乞うて招いてもらった異界の魚は、ふたたび異界に戻ると飲み込んだ金翅鳥を吐き出し、金翅鳥はさらに飲み込んだ龍を吐き出すことになるだろう、と、監視者は賢者に語った。

 龍たちは雲を抜け、空のかなたへと飛び、宇宙の奥ふかく、龍たちが繁殖をする場へと向かうだろう、と、監視者は話を続けた。数百年に一度の怪異で、ヒトの世で生きてこのようなものを見られるとは、居合わせた者にとっては大層な僥倖だったな、とも。

 飛び立っていった龍は、あとに無数の銀色のうろこを残し、浜辺に打ち上げられたそれはまさしく銀だったので、領主たちは働きに応じて取り分を分かち合った。

 監視者と武官は自分たちの取り分を賢者に与えて、語り継ぐための金の足しにでもしてもらいたい、と言った。賢者は書物を残し、その断片のひとつとして、龍と鳥と魚の物語は伝えられている。


行く春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉

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