第11話

 そうして、翌日。私は今日も今日とて登校するのです。家を出、校門を越え、駐輪を済ませ、ハタハタと青空の中を泳ぐ日本国旗を目にし、はて「天気明朗なれども浪高し」とは結局どのような意味であっただろうかと首をひねり、校舎の壁にデカデカと刻まれた校訓の下を通り過ぎ――なかったのです。

 その日だけは、どういうわけか私の足は止まりました。足を止めて、その場に留まって、ゆっくりと視線を動かし、校舎の壁に飾られた校訓を見上げたのです。

「――」

 頭の中に浮かぶは、毎度同じ話を繰り返すことで有名な同窓会長の言葉。

 そうです、同窓会長は何度も繰り返しておりました。

 この校訓は桐生高校の自由な校風を象徴する言葉であると。

 この校訓は! 過去に在籍した生徒の一人が考案したものであると!

 かの女史がかつて数十年前に吾妻山から奏でた旋律はしっかりと桐生市民の耳に届き、かの女史が謳った叫びは、しっかりと、桐生の街に届いていたのです。

「――」

 私は胸の内から温かな幸福が湧き上がるのを感じ取りながら、ゆっくりと、その言葉の意味を噛みしめるようにして、桐生高校の校訓を口にしたのです。

「『独立自尊』」

 ――トランペット、響いた。

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