第10話

『昨夜は済まなかったのである。醜態を晒したのだ』

『全然構わないのです。あの時のリボンちゃんは輝いておりました。それよりもあの後……髪留めスターに何かをされては、まさかおりませんよね?』

『これは異なことを訊くのであるな』

『ああ、良かったのであります。リボンちゃんの身にもしものことがあったらと、私は気が気でなく』

『精々キスどまりである』

『もしものことがあったあああ』

 八木節祭りの翌日は日曜日でありました。つまりはお休みです。関係者は後始末に追われる一日でしょうが、私たち学生には、お祭りの疲れをゆっくりと癒す休日以外の何物でもありません。

 そんなわけで、リボンちゃんはLINEにてご丁寧にも謝罪をしてくれたのです。

『それで、今日は謝罪のほかに報告があるのである』

『何でございましょう?』

『志望校を変えようと思うのだ。これから親と相談するのである』

『え、この時期にですか!? 今は三年の夏ですよ! 一体どうして』

『吾輩は、ダンスを続けたくなってしまったのである』

『あ……』

 リボンちゃんは学年の中でも抜群の成績を誇っており、将来を嘱望される優秀な生徒でありました。推薦の話だって何度も持ち掛けられているのです。

『東北にダンスがとても有名な大学があるのだ。あまり偏差値はよろしくないのだが、しかし、吾輩は自分の限界までダンスの才能を磨いて、自らの手で栄光を掴み取りたくなってしまったのである』

『それは、やはり昨夜の出来事が?』

『それとは関係ないと言えば……まあ嘘になるのである。あの出来事のおかげで、私は本当にダンスが好きであると再認識できたのだ』

リボンちゃんは、「吾輩は『下手の横好き』よりも『好きこそものの上手なれ』でありたいのである」と話をまとめ、「それではこれから家族会議である」と残して会話を打ち切りました。

「――とってもカッコいいのであります、リボンちゃん」

 私はスマートフォンを脇に置いて、トランペットの演奏に戻りました。



『無事に親の了承を勝ち取ったのである!』

『おめでとうなのです! 寛大なるご両親で何よりです!』

『まあ、吾輩の両親も共に桐生高校の卒業生であるからな』

『そうなのですか? それは初耳であります』

『だから、自分のことは自分で決める、そんな自由な校風の考えが二人にも根付いていたのであろう――ともかくいやっほうなのだ! また明日色々と話そうぞ!』

 進路変更に成功したというリボンちゃんの言葉は、その端々からリボンちゃんの嬉しそうな感情が溢れ出ていて、その喜びはまた私にも伝染して、嬉しい気持ちにさせてくれました。

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